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経験を積めない研修医、引退できない老医

 初期研修医制度が始まって20年、新専門医制度が始まって6年が経過しました。遡ると医術開業試験は150年前から100年程前に実施された制度で、現在の医師国家試験は80年弱の歴史です。150年以上過去に主流であった漢方医学は明治時代以降になりを潜め、西洋医学主流の時代を私たちは生きています。

 2024年度から「医師の働き方改革」が強行されました。

 たしかに医師の過労死は社会問題になりましたし、死せずとも心身を壊す医師は大勢居ます。医者の無養生とは個人よりも社会的に逃げ場のない仕事の所以であろうかと想像し、胸椎骨折の受傷直後に外来診療をした祖父や、晩年に脳梗塞を患っても医者であり続けた曽祖父のことを想起しました。

 高品質な日本の医療制度が高額な社会保険料と現場で命を削る医療スタッフによって支えられているという事実を、国民は直視する必要があります。

 勤務医にホワイト企業のような働き方を齎す、夢のような「医師の働き方改革」は、妄言ばかり詰め込んだ意味のない愚策です。いいえ、意味のないばかりか害悪であろうと私は考えます。その実態は労働時間や残業時間を見掛け上減らすことであって、或いは法律を守ろうとするほど医療の質は低下します。

 今、日本中の病院経営が破綻しつつあって、同時に医療の質は著しく低下し、信じ難い医療事故や診療受け入れ困難といった医療の遅れが頻発しています。その背景には、若手医師の成長が極めて遅いという問題もあります。

 冒頭に述べた研修医制度や新専門医制度は、無駄な書類業務を増やすことに心血を注いでいるようにみえて、多方面に疲弊を生み出しています。令和時代の研修医は昔と違って時間外の業務が極端に少なく、また安全面への配慮から任せられる医療行為が非常に少ないのが実情です。

 要するに下手クソに患者を任せられるわけがない、ということです。経験を積むことのできない研修医が成長するはずもありませんから、殆ど無為に卒後2年間を過ごして其々の専門領域に進むことになります。卒後3〜6年目あたりは後期研修医あるいは専攻医と呼ばれる年次ですが、年々ヤバくなってきた気がします。Z世代こわいです。勿論優秀な人もいるのだけれど、少数派です。

 研修医に任せられる事は少なく若手医師がやばばなので、中堅医師からベテラン医師の仕事が増えます。しかも若手の指導もしなければならず、それでいて「医師の働き方改革」ですから、若手医師は家に帰ります。いや帰っていいのだけれど、それが国の方針だから仕方ないのだけれど、無理ゲーです。


 そんなわけで日本の医療は崩壊中です。

 自分の身を自分で守らなければならない時代が、目前に迫っているのだと思います。或いはそう云う時代が既に始まっているのかもしれません。

 では、どうすればいいか。

 健康のための養生に努める他ないでしょう。政府は未だ健康の価値を軽視しています。検査で異常がでる前の、未病を治す心意気でなければ日本に未来はありません。役人の皆様は、最先端の医療行為や新薬に多大な診療報酬を設けることも結構なことですが、それより例えば『養生訓』でも読んで勉強なさったほうがよろしい。我々国民は重税に苦しみながらも自分たちの生活と健康を必死に守っているのだから、国の舵取りをどうにかするのは貴方達の仕事です。


 さぁ、もうすぐ定時になりますね。

 夜道には十分お気をつけくださいませ。

 昨今の時間外診療は、実に危ういものですから。



 拙文に最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました。願わくは、この国の未来がどうか明るいものでありますように。




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渡邊惺仁
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