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心の病はエレベーターのブザー

 閉塞感のある生活の中では、誰しも鬱々とした感情を抱きやすくなります。心の病と称される状態になる方もいるでしょうし、その手前の状態で踏ん張っている方も相当多くみえます。そこから抜け出した方もたくさんいらっしゃいますね。

 エレベーターの話をしましょう。

 重量超過でブザーがなったとき、最後に乗った人が原因だとみなされて視線が集まります。ところが実際には、エレベーターに乗り合わせた全ての人が重量超過の原因です。

 一見、因果関係のようにみえても、それが一対一で説明してよいとは限りません。俯瞰して状況を見極めなければ大切なことを見落とします。

 とくに心の病では原因をひとつに求めることは困難で、様々な要因が複合的に影響することで「病」として発見されるのです。

 したがってエレベーターのブザーのように、「最後に乗った人」にだけ注目していたのでは、根本的な問題は解決できません。その人に降りてもらえばブザーは止まりますが、また他の人が乗り込めば、ひょっとしたらそれが華奢な子どもであっても、再びブザーが鳴るかもしれません。

「こんな小さな子ども1人乗せられないのか!」

 そんな声が外から聞こえてきたら、どうぞ中をご覧くださいと、一度見せてあげたらよろしい。

 一度設置されたエレベーターの耐重量を引き上げるのは大変な作業です。構造上の特徴ですから、根本から作り直さなければいけないでしょう。それは現実的ではありません。

 大切なことはエレベーターの耐重量がどれくらいなのか知ることと、いったいエレベーターの中がどういう状況になっているのかよく見極めることです。何度昇降しても降りないような変人はいませんか。1人で5人分くらいの巨漢はいませんか。天井に張り付いている奇人はいないでしょうか。隅の消火器は本当に必要でしょうか。多過ぎる荷物は後で運んだらいいかもしれませんね。

 エレベーターの性能も運用方法も、人それぞれです。良いとか悪いとか、そういうことではありません。エレベーターでさえブザーが鳴ったら止まるのですから、それよりずっと繊細な人の心が止まっていけない道理はありません。

 もし、ブザーが鳴ってしまったら、一度全員に降りてもらうのがいいかもしれませんね。

 他のエレベーターを探していただくか、お急ぎの方は階段を使えばいい。

 何も乗せないで昇降してみて、ああ大丈夫だと思ったら再び人を乗せてみる。もし何も乗せていないのにブザーが鳴るようなら、それはきっと何処かの不具合でしょうから、メンテナンスのために専門家を呼びましょうか。

 エレベーターはすごいですね。

 毎日毎日、何回も。人も荷物も運びます。

 たまに休憩したからって、文句を言われる筋合いはないでしょう。


 拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。願わくは、貴方のエレベーターがブザーを鳴らす必要のない世の中になりますように。


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渡邊惺仁
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