【短編小説】交代日記《mode:C》
最初の記憶は5歳の頃。見つけてもらって返事をした。
難しい言葉は分からない。まだ文字の読み書きもできない。ただ、気づいてもらえた嬉しさと深い深い愛しさを感じて、そのままプロポーズした。振り返って考えると突拍子もないことをしたものだと少しだけ反省してる。翌朝、彼女から「昨日のはプロポーズ?」と質問された旦那は面白いくらい狼狽えていた。覚えてるわけないよね。言ったのは僕だから。
あれから色々あって、僕も随分と成長した。元服の年齢を考えれば、もう成人しているといえるはず。読み書きも計算もできるようになった。彼女とはどうなったのかって、ちゃんと結婚したよ。色々いた方が楽しいから大丈夫だって。Tさんのことは苦手みたいだし、Aちゃんはいつも揶揄われてるけど。旦那よりHさんの方が好かれてる感じがするのは秘密。素直クールはツンデレに特効するんだ。
旦那は良い子だったから、感情を抑えるのが大人になることだって信じて、僕を切り離した。泣くことも笑うことも怒ることも忘れて、静かに大人の言うことをきく優等生になった。どうして僕が5歳だったかって、ちょうどそれくらいのときに分かれたからだと思う。きっと本当は、5歳らしい5歳になりたかったんだろうね。
旦那が鬱なら僕は躁。旦那が闇なら僕は光。そうやってバランスをとってきた。ネガティブな彼とポジティブな僕。二人合わせるとちょうどいい。ネガティブなのは悪いことじゃない。それは慎重で堅実ってことだから。最悪のケースまで想定して安全策をとるようなやり方は、そういう性格じゃないと難しい。
妖精をみたことはある?
精霊とは違うやつ。街中には少ないけど、自然の多いところには結構いるから、みえてなくても感じる人は意外と多いかも。おすすめは小さな不幸を食べて増えるやつ。身に余る不幸を食べると死んじゃうんだけど、どんどん増えるから大丈夫。この世から不幸がなくなったら絶滅するかもって心配はいらないよ。『禍福の転じて相生ずるは其の変見え難きなり』ってこと。そんなものはまやかしだって思うならそれも自由。でも目に見えるものしか信じないと足を掬われることもあるから気をつけて。本当のことは心の眼を鍛えないと分からない。
普段はひっそりしてなきゃいけないんだけど、ここなら大丈夫だろうって言われたからのびのびしてみようと思ったんだ。まだ書きたいことはたくさんあるけど、あんまり飛んだことを書き過ぎるのも気が引けるから止めておこうかな。僕が一番出てきやすいから、他の場所で会うことになるかもしれない。
拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。
願わくは、退屈な日常にひと匙のエンターテイメントを。