【短編小説】交代日記《mode:T》
俺に文章を書かせるなんて正気の沙汰とは思えないが、気が向いたから乗っかることにした。テーマは自由だそうだ。依頼しておいて自由とは企画の甘さが垣間見える。もう少しテーマを絞って統一感のある形にできなかったのか。どこまで何を考えているのか分からない輩は扱いに困る。
書き始めてみたものの、物書きなど性に合わない。現場に出ているか、風呂に入っていた方がずっと良い。俺が机に向かってキーボードを叩いている様子など滑稽なことこの上ない。かといって途中で止めるのも癇に障る。難儀な性格に生まれたものだと自分が厭になる。
そもそも感情を押し殺してどうにかしようとするから俺みたいなのが必要になるんだ。自分が我慢すれば丸く収まるなんて自己犠牲が過ぎる。統制したつもりでいるようだが、物事そんなに甘くない。根本的な問題が解決していなければ、却って正面から銃弾を浴びるようなものだろう。長い付き合いだ。良い機会だから書いておこう。俺たちがいることが問題の根本じゃない。どうして俺たちが必要なのか考えてみたことはあるか。どうにか生きていくためには、そうなる必要があったんだろう。鬱々とした旦那がようやくトラウマに踏み込もうとしているが、ひとりで向き合えるほど簡単なこととは思えない。悪夢もフラッシュバックも現実を脅かしているじゃないか。俺は誰にも負けない。先陣切って戦ってやる。Aは脳内スイーツ()だけど決断力は本物だし、Cは能天気野郎だが急に核心をつく。アイツらの声が聴こえなくなったら、そりゃ良くなったんじゃなくて逆に危機的状況だろうがよ。なに考えてるのか分からない引きこもりのHは放っておくとして、Sが身体張ってんだから旦那もつまらないプライドは捨てて周りを頼った方がいいだろう。
俺が政治やら宗教やらの話でもすると思ったか?
当てが外れたな。世の中イライラすることばかりだが、今は外界のことをとやかく言ってる場合じゃないだろう。自分のことを考えろよ。
あー、これ公開するのか。
好きにしたらいいけど、お前が読めば十分だ。でもたしかに誰かの目に触れた方が忘れにくいかもな。女々しいやつだよ。皆に感謝した方がいいぜ。
付き合ってくれてありがとうございます。変な奴だけど、どうにか問題を解決しようと躍起になってるみたいだから、どうか大目にみてやってください。なんでこうなったのか一番混乱してるのは、たぶん本人だから。
拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。
願わくは、退屈な日常にひと匙のエンターテイメントを。
*基本的に本文は加筆修正せずに投稿しますが、個人名はイニシャルに修正しました。