ChatGPTに「小説書いて」とお願いしたら、礼儀正しく宣戦布告された
AIが新聞記事や小説を書くなんて話は数年前からたまに耳にする話ではあったけれど、それはどこか遠くの世界で起こっている革命、くらいに思っていた。
ChatGPTを使うまでは。
なにしろこれまでのAIは小難しいイメージだった。
私も前職でちょっとだけかじったことがあるけれど、そもそもPythonなどなどプログラミング言語の知識が必要と聞いて、真っ先に匙をぶん投げた。だから誰でも簡単になんて、とんでもないと思っていた。
ChatGPTを使うまでは。
将来的にライターの職業も乗っ取られるかもという話もあるけれど、まあしばらくは大丈夫だろう。だって、数年前に展示会で見せてもらったAIの文章は相当カタコトだった。こんなもの、生身の人間が書く文章には到底叶わない。そう思っていた。
ChatGPTを使うまでは。
ChatGPTは、アメリカのOpenAI社が開発したAIチャットボット。去年11月の登場以来、じつに1億人もの人が利用している。
数十兆文字規模のテキストデータをドーンと突っ込んで学習させたことで、人と話すかのような自然な会話文を生成することに成功したらしい。
リリース後そのすごさがどんどん広まり、最近はニュースで大々的に報道されていた。Google社が「我々の脅威が現れた」と社内に向けて警鐘を鳴らしたという話もある。
要は、これまでは人間が検索エンジンにキーワードを打ち込み、関連サイトから欲しい情報を探していたけれど、ChatGPTはAIと会話しながら情報を見つけることができるのがすごいんだとか。
たとえば、私がいま一番好きなマンガは「ゴールデンカムイ」なんだけれども、作中に出てくる聖地の場所と行き方が知りたいな、と思ったとする。
Google検索なら、少なくとも2ステップ以上は必要だ。
「ゴールデンカムイ 聖地」
と調べ、並んだ検索結果から一番良さげなページを見て目的地を決め、今度はマップやその施設の公式サイトを見て行き方を調べ、乗り換え案内で現在地からの旅行計画を立てると思う。
これが、ChatGPTであれば、
「ゴールデンカムイの聖地と行き方を教えて」
と聞くだけで終了。主な場所のリストと、アクセス方法を複数並べてくれる。
多少あいまいな質問でも意図を汲み取るし、間違いを指摘すると謝ったり、やんわりと質問者に提案したりもしてくるらしい。
現段階で学習させたのは2021年までにネットに投稿されたデータで、まだ情報の選別にも不十分なところがあり、間違いもあるのだとか。しかも、間違ったことをさも大正解であるかのように堂々たる文章で返してくるので、思わず信じたくなる。そこが注意点だという話だった。
驚くべきことに2023年2月現在は誰でも無料で使用でき、話しかけた言語で答えてくれるという。これだけ話題になっていることだし、ちょっくら使ってみるか、と私もアカウントを作った。
■ まずは小手調べ
登録のしかたは既にいっぱい記事があって、なーんにも難しくなかったのでここでは割愛。
ログインすると、画面の下に入力欄が現れた。まずは礼儀正しい日本人として、「こんにちは」とご挨拶をしてみると、「こんにちは! 何かお手伝いできますか?」と返ってきた。
カーソルがピコピコ点滅して、文字がちょっとずつ増えていくので、ホンモノの人間とチャットしているような気分になる。
しかもなんだか受け答えがかわいらしくて萌える。
(笑)
(ちなみに、語尾に「ニャン」をつけてとお願いすることも可能らしい。)
さて、まずは、私の好きなマンガについて見解を求めることにした。
「あなたの一番好きなゴールデンカムイのキャラは誰ですか?」
AIになにを聞いとるんだ私は。
と一瞬真顔になったが、すぐにそんな虚無感など吹き飛んだ。
す、すごい。
ご存知ない方に説明すると、「ゴールデンカムイ」は、
明治時代の北海道を舞台に、
主人公・杉元佐一が、
アイヌの人々や文化に触れながら金塊を探す話で、
個性的なキャラがたくさん登場する。
合ってる……!!!
一方、「一番人気のあるキャラは誰ですか?」と尋ねたところ、ChatGPTはこう答えた。
オグタ・トーマス(笑)。
まず、ヒロインであるアイヌの少女の名前はアシじゃない。ていうか殺人鬼、そっちに行くんだもっと主要キャラいっぱいいるのに……。ともあれ粟島なんてキャラはいないし、白石は多摩造なんて名前ではないし、できれば3番目に書いてあげてほしかった。
「伊達」に一文字もかすっていない早乙女利吉が謎を深めるし、オグタ・トーマスは夢に出そう……。オガタならいるんだけどな……彼はこんなところでも祝福されないのか……。
とにかく、「主人公の杉元佐一」以外の情報がこれっぽっちも合っていなかったわけなのですが、ゴールデンカムイを知ってる人も知らない人も、さっき言ったChatGPTの弱点にお気づきでしょう。
そう、「間違ったことをさも大正解であるかのように堂々たる文章で返してくるので、思わず信じたくなる」という欠点。
あまりにも文章が滑らかなので、ストーリーを知らない人からすると、「へ〜そうなんだ」と納得してしまうと思う。私も思わず、「粟島獅郎なんてキャラいたっけ……」と調べてしまった。
この点では、ChatGPTは「まだまだ」な点もあるのかも。
でも、私は思った。
「小説は関係なくない……?」
小説はハナから架空の創作文だ。おかしいかどうかなんて議論する意味がない、むしろおかしいほうが歓迎される節もある。
ChatGPTは歌詞や小説もお手の物だという触れ込みだ。試してみようか。
■ 小説を書いてもらった
私は、Twitterで「140字小説」というものを書いている。1ツイートで完結する140字前後の小説。「マイクロノベル」とか、「Twitter小説」とも呼ばれ、noteに投稿している方もいる。
他人の作品をこんな辺境のnoteに勝手に晒すわけにもいかないので、自作品で恐縮ですがご紹介すると、たとえばこんなやつ。
ChatGPTにも「140字小説を書いてくれますか?」と頼んでみた。
「彼女が愛した星座」ってきれいな表現だなぁ。でもこれ、60文字前後しかないんじゃない?
う〜ん、難しい。「140字前後」という言い方が悪かったかな。
でも、よく考えたらこれ、「指摘」しただけで謝って、次の1作品を作ってくれてるんだよね。
しかも、「忘れ去られた思い出たちが形を変えて舞う」ってめちゃくちゃすてき。せっかくなので、この続きを作ってもらうことにした。
おっ、字数はいい感じ。しかも、最後ちゃんとポジティブなオチをつけているところがとても気に入った。
でも、アメリカ生まれだからか、なんだか「私は」が多めだな。
おぉ〜!
最後の一文がちょっと気になるけれど、「こんな140字小説あるある!」みたいな感じに仕上がった。ちょっと手直しすれば、普通にツイートできそう。
うわー……すごいなChatGPT……。
(この後、すてきです! と褒めたら、「ありがとうございます!」と答え、もう一つお願いします! と頼んだら、「もちろんです!」と言っていた。)
ちなみに、ジャンル指定もできた。
「ファンタジーの140字小説……?」と、もはや自分が入力した日本語に不安を覚える始末……。
完成度は賛否あるとしても、ChatGPTには完全に「ジャンル」の概念があった。
じゃあ、今度は読後感でお願いしてみようと思って、「ちょっといい140字以下の話を書いて」と頼んでみた。すると……。
固まった(笑)。
サーバーが落ちたのかなんなのか、とにかく老人と鳩の行く末は見届けられないまま終わった。
「いいかげんにしろ」ということだったのかもしれない。
■ フリーライターは共存でき……ない気もするChatGPT
聞き方にコツはあるし、回答の質はまだまだなのかもしれない。でも、なんでもポンポン答えてくるさまは本当にすごかった。
しばらく楽しく遊ばせてもらったけれど、実際に使ってみて思ったことはただひとつ。
「文章を書く仕事、そのうちなくなる(笑)」
「この技術をうまく使って、より良い作品を作りましょう!」という話もあるし、既にChatGPTにアイデア出しの手伝いをさせている人もいると聞いた。ライターも、記事構成案なんかを考えさせて、その通りに書けばいいというのも一理ある。
でも、忘れちゃいけないのは、この技術は今のところ、企業の広報担当さんや編集さんも自由に使えるということだ。
自分で文章が書けない、時間がないからライターに外注しているという人も、ChatGPTがもっと進化すれば確実にこのツールを使うだろう。だって、AIは苦情を言わない。文字単価にも納期にもケチをつけない。
「バナナ・美容というキーワードで5000字のSEO記事書いて。納期は10分後ね」
「恋愛小説10万字、1時間後ね」
という無茶振りオーダーにだって、「もちろんです!」とためらいもなく取り掛かる。
多少おかしくても、AIが書いたのか人間が書いたのか、既に判断が難しいクオリティーだ。OpenAI社もそこはわかっているようで、どちらが書いたかわかる判定ツールを公開したようだ。
でも、作者が誰であろうがエンゲージメントが高い文章が書ければいいということで、そのうちAIの文章が普通に受け入れられる世の中になるだろう。
そうしたら、企業に所属しているライターさんには、かろうじて「ChatGPTが書いた記事の校正」という作業が残るかもしれない。
でも、私のようなフリーランスライターの仕事は…………。
思わず考え込んでしまった。「こんにちは!」「ありがとうございます!」「もちろんです!」と、終始礼儀正しいChatGPTにニコニコと宣戦布告された気分だ。
ニュース番組で、慶應義塾大学の栗原教授が「産業革命やインターネットの発明に匹敵、またはそれ以上の大きな波がくる」と言っていた。
もしかすると、クリエイター業界には大津波がくるかもしれない。(いや、もう来ているのかな。)
業界の激震を耐え抜くには、今のうちに転職するか。それが嫌なら、抜け道は単純明快、たったひとつしかない。
月並みだけど、
いかに「あなただから書いてほしい」と言われるライターになるか。これに尽きるんじゃないかと。
"あなただから発注しました。多少時間がかかってでもお願いしたい。"
そう言ってもらえるように、これまで通り努力するしかないんだろうなぁ。
文章力もそうだし、デザインだったり動画編集だったり、そこに付加価値をつける技術を+αで身につける必要もあるだろう。
努力するならいまのうち。
まぁ要は、焦らず騒がず淡々と、いつもと変わらない研鑽を積み重ねるしかないってことかなぁなどと考えた、そんな今週なのでありました。
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