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10年ズレた世界線を選べたら #2

効率的かつ合理的な男女の関係は
お互いの不足分のみを補給し合って
余計な干渉をし合わない

続けていくための条件は

「恋愛感情を抱かないこと」




しばらくすると
水の流れに重ねてシャコシャコと音が乗ってくる

ふふ、また歯を磨いてる

まぶたの次に動いたのは
口元だった

あなたは朝起きると一番に歯を磨く
寝る前にももちろん磨くのだけれど
毎回きっちり三分間磨き上げる

家で作った夕食でも、お店で食べる外食でも
料理が全て出そろってから
きっちり手を合わせて食べ始め
きっちり手を合わせて食べ終わる

「いただきます」
「ごちそうさま」
「ありがとう」

汚れた食器を洗って、最後に歯を磨くのよね


礼儀正しさとしっかりと身についた習慣に
なんだか嬉しくなって
大きく寝返りを打ったふりをして
うずくまるように体勢を変えた

そぅっとそぅっと
光がまた差し込んできては消えていく
今度はスリッパの擦る音がしない

ぎっしりとベッドの沈みに合わせて
またフワッと頬を撫でられる

起こさないようにとの
あなたの気遣いが嬉しくて
そろそろ眠ったふりは限界かもしれない


毎回会う時には手土産を持ってきてくれる
毎回別れる時は二度抱きしめてくれる
毎回帰った後にはありがとうのメッセージを送ってくれる

どれだけ愛されて育ったのかしら
どれだけ礼儀正しく教えられたのかしら

いくら悪ぶっていても
育ちの良さを嫌でも感じてしまう

そのくせ、
ベッドの上に服を脱ぎっぱなしにするし
靴下の片方はすぐ無くしてしまうし
食べたくないものは絶対に食べようとしない

しちゃイケナイってわかっているのに
昨夜も無造作に散った服を丁寧にたたみ
椅子の上に置いてしまっていた

「たたんでくれたの? ありがとう」

気づいたらすぐに感謝があふれる
あなたのことを本当に愛し育てた
温かい家族とお母様の顔が浮かぶわ


ぱちっと妄想を打ち消すように
目を見開くと
スマホを眺めていたはずのあなたと
すぐに目が合った

「おはよう、ちゃんと眠れた? 」

「ごめんなさい、すっかり寝てしまったわ」

会った時はいつもすぐキスするくせに
歯を磨いたのならキスで起こしてくれないものかしら

夢微睡んでいるふりを続けながら
無造作に髪をかき上げてみせた

鼓動はさらに速くなる

年甲斐もなく、
コンビニで買い込んだお酒を
いつもの倍の量を飲み干したツケは
身体の気だるさと思考力を鈍らせることで払わせた

「どうしたの? 」

すぐに様子が違うことを察したあなたへ
上手に誤魔化す言葉が出ることはなかった

建築に興味を持っているあなたが喜ぶだろうと
内装デザインがお洒落で人気のホテルに呼んだ

大人ぶってお洒落なバーで話そうと思っていた
お酒の量を増やして勢いつけようと思っていた
非日常の空間で大人気分に浸ろうと思っていた

それもこれも全て
あなたの顔を見てしまうだけで
思う通りにいくこともなかった

「うん、二日酔いかな」

ベッドを降りてペットボトルを持ち窓際へ向かう
シャーっとカーテンを勢いよく引くと
淡い青みがかった光が部屋に降り注いだ

光の前のソファーに座り
雑にペットボトルの水を飲み始めた

逆光で霞むわたしの表情は
あなたからは見えづらくなっていることでしょう

大人って卑怯なの

ペットボトルの蓋を締めながら
笑顔を作ってみせた


「もう、あなたと会うのは終わりにしようと思う」



「10年ズレた世界線を選べたら」

~to be continued 


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*うみゆりぃ*|クロノ×エッセイスト
恋し続けるために顔晴ることの一つがnote。誰しも恋が出来なくなることなんてないのだから。恋しようとしなくなることがわたしにとっての最大の恐怖。いつも 支えていただき、ありがとうございます♪