表現のための実践ロイヤル英文法 [書評]①:「第14章 名詞」(前半)
これまで授業資料の記事中でいろいろな教材をご紹介してきましたが、特に丁寧にご説明しておきたい英語学習参考書の書評を個別に記事にしていきます。
姉妹書に「徹底例解ロイヤル英文法」もあり、どちらも基本は学術的な英語解説書ですが、マーク・ピーターセン先生が著者に参加している「表現のための実践」のほうがやや実用的で、「徹底例解」のほうがより学術的。一般の英語学習者(平均的な学生というよりも教師や英語専攻の学生など)にオススメなのは「表現のための実践」で、学術英語の一般向け解説書の最高峰と言っても過言ではない名著。ネイティブの視点(いわゆるネイティブ感覚)を垣間見ることができるのも特徴。私も個人的に10年以上読み込んで学校英語と比較する際の参考にしてきましたので、特別な思い入れがあります。
表現のための実践ロイヤル英文法
綿貫陽 (著), マーク・ピーターセン (著)
旺文社
ISBN-10 : 4010312971
ISBN-13 : 978-4010312971
Evergreen/Forestと同様に、私が特に重視している名詞を扱っている「第14章 名詞」のご紹介。情報量が多くて1つの記事ではとても書ききれませんので、2回に分けてのご紹介となります。以下に原文を引用または要約(多少アレンジしております)して、私からのコメントも入れていきます。著作権を考慮して必要以上の引用は避けておりますので、内容を詳しく知りたい方は原本を直接ご覧ください。
名詞に関する説明で学校英語との決定的な違いが、この「固有名詞vs共通名詞」2大分類。Evergreen/Forestに代表される学校英語の定番説明は「可算名詞vs不可算名詞」2分類まで。それよりも上位にあるこの固有vs共通2大分類を理解できるかどうかで、英語名詞の整理の仕方が全然変わると思います。
固有vs共通2大分類は、難しく言えば生成文法のdeterminer phraseの概念(DP仮説: DP hypothesis)に基づくもの。「最近の分類法」とあるのは、この生成文法のことだと思われます。
「具象名詞vs抽象名詞」分類に関しては、世界をどう認識するかという視点では意味がありますが、文法的には固有vs共通2大分類や可算vs不可算2分類ほどの大きな分類区分ではありません(具象名詞にも可算と不可算があり、抽象名詞にも可算と不可算があって、形の上での違いが曖昧)。
名詞の体系的分類とありますが、実用上は全名詞をカバーする固有vs共通2大分類と共通名詞をカバーする可算vs不可算2分類までで十分。
伝統的な名詞の5分類に関しては、私も全く同感です。これに拘っても英語学習にはあまりプラスにならないでしょう。ついでに、Evergreen/Forest書評①でもご説明したことを以下に再掲示しておきます。
『いわゆる「名詞の5分類」ですが、単語の意味が分かっていることが前提の議論。英語学習者にとって、逆に意味が分からない単語をどう解読するか、が実用的には重要。ただ、そうなると文法書というより辞書の出番。』
「157 可算名詞と不可算名詞」は、学校英語の定番説明の丁寧版。よくまとめられているので、ぜひ参考にしてください。
真ん中あたりにある「注意:可算・不可算の別は語によって決まっているわけではなく、同じ語でも意味によって可算名詞になったり、不可算名詞になったりするものもあるので注意」という説明は、「ものもある」ではなく「ものが多い〜大部分がそう」と思っていたほうが良いでしょう。辞書を引けば、ほとんどの名詞にCとUの意味が併記されているのが何よりの証拠。
Evergreen/Forestで説明されていた「まとまり/境界性」に関する言及がないのが少し不思議。この点に関しては、同じマーク・ピーターセン先生の著書「日本人の英語」三部作のほうで、より詳しく考察されています。
可算名詞の一般的用法5形は確かにごもっともなのですが、残念ながら個々の形が表す意味の説明がほぼないので、やや消化不良。
総称用法は、Evergreen/Forestに代表される学校英語でもほぼ定番の説明。
伝統的な名詞の5分類の詳しい説明が続きますが、学校英語の定番説明の繰り返しになるのでパス。
英語の"common nouns"を学校英語で普通名詞と言ったり学術英語で共通名詞と言ったりして使い分けるのは、間違いなく混乱を生む原因の1つ。共通名詞は固有名詞の対立概念(特に生成文法の世界では)、普通名詞は伝統的名詞5分類の中の1項目。どちらの和訳にも一長一短があります。
集合名詞の説明も、ほぼ定番。
物質名詞の説明や量の表し方(形・容器・単位)も、ほぼ定番。リストアップされている単語は多いほうですが、科学的にはもう少し掘り下げて欲しいところ。
固有名詞に関してtheがつくかつかないかという議論では、固有vs共通2大分類という視点からすると「theがつかない固有名詞」の位置付けが本当はすごく重要。もう少し掘り下げて議論しても良いと思いますが、この問題は学校英語(Evergreen/Forest)でも消化不良、学術英語でも意外とスルーされている印象を受けます。
固有名詞に不定冠詞a/anをつけるという議論も、固有vs共通2大分類という視点からすると、やや消化不良。実は、可算vs不可算2分類の垣根越えが普通に見られる(学校英語でも定番)のと同様に、固有vs共通2大分類の垣根越えも普通に見られます。冠詞が定冠詞か不定冠詞かは比較的分かりやすいので、 識別は可算不可算の場合よりも簡単(なはず)。
「157 可算名詞と不可算名詞」の「注意:可算・不可算の別は語によって決まっているわけではなく、同じ語でも意味によって可算名詞になったり、不可算名詞になったりするものもあるので注意」で既に一度言及した問題を詳しく整理。学校英語でもほぼ定番。
163A,163Bともに(1)は固有vs共通2大分類の垣根越え
163A,163Bともに(2),(3)は可算vs不可算2分類の垣根越え
再掲示:「辞書を引けば、ほとんどの名詞にCとUの意味が併記されているはず」=可算vs不可算2分類の垣根越えは英語名詞体系の重要な柱。
学校英語では意識する機会が少ないかも知れませんが、固有vs共通2大分類の垣根越えも、実は英語名詞体系の中では重要な柱。
この垣根越えが一部ではなく大多数の名詞で頻繁に発生することが、名詞の可算不可算と定不定の理解を難しくしている大きな原因。
この複合名詞の議論は、学術英語専門家向け。個人的には面白いと思いますが、一般向けではありません。こうした複合名詞に出会ったら、まずしっかりと覚えて経験値を積んでいきましょう。
ご興味のある人は、元の書籍をご覧ください。
以下の項目は、書評②(後半)で議論する予定
今回の書評は以上です。いかがでしたか?面白いと思った方は、コメントしていただけると、今後の励みになります。
❶本文中でもご紹介したマーク・ピーターセン先生の「日本人の英語」三部作は改めてご紹介するまでもない有名な英語解説書で、英語好きなら読んでおくべき名著。有名な本ですし、気軽に読めて参考になる点も多いので、ご一読を強くお勧めします。
❷本文中でもご紹介した総合英語Evergreen/Forest。学校英語における英文法参考書の最高峰と言っても過言ではない名著。学校英語の復習にはこれがベスト。実践ロイヤルと読み比べて、違いをチェックするのも面白いと思います。
こちらは、総合英語Evergreen/Forest「名詞」章の書評
こちらは、総合英語Evergreen/Forest「冠詞」章の書評
以下をクリックして関連記事もご覧ください。学校英語では説明が足りない点を補ってもらうための教材です。
◉ご紹介した著作を直接読んでもらえるように、リンクを貼っております。無料で試し読みできるものもあるので、是非ご一読ください。
※Amazonのアソシエイトとして、適格販売により収入を得ています。