今日ご紹介する本は、楠木健氏の『経営センスの論理』(2013年、新潮新書)。
楠木氏は、経営学者であり、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。ご専門は、競争戦略とイノベーションだ。
この本は、会社をよくするために必要な「経営センス」を中心に、競争戦略についての楠木氏の考えを幅広く紹介するものだ。
2011年から2012年にかけて連載されたビジネス誌のオンライン記事を編集したものだというが、10年経った今でもその内容は全く色褪せない。ビジネス書であり、固いタイトルではあるが、カジュアルで軽快な読み物として楽しめる。
特筆すべきは、楠木氏のウィットや洒落の効いた文体だ。いかにも痛快で、読んでいて何度も、思わず笑ってしまった。そして平易な言葉で大変分かりやすく、本書のエッセンスはすんなりと腹落ちした。
以下、特に印象に残ったくだりを記しておきたい。
以上、引用部分が長くなってしまった。それだけ、本書を読みながら、腹落ちして思わず膝を打つくだりが多かったのだ。
まず、本書のテーマでもある「センス」について。「スキル」と「センス」の違い。センスを伸ばせる人材は希少。センスを磨くためには好き嫌いにこだわることが有効だという仮説。
そして、日本企業のグローバル化が難しいのは、非連続性に耐えうる経営人材が希少だから。でも日本企業には中小企業の専業スタイルで生き残る道があること。
大量の情報に翻弄されることなく、注意のフィルターをかけ、アウトプットに結び付けること。具体と抽象を行き来して、情報や知識を論理化すること。
いずれも、なかなか辛辣で手厳しいが、論旨明快で鋭い指摘ばかりで、とても良い頭のエクササイズになった。スッキリと爽快な読後感だった。
そして、先にも触れたが、楠木氏の文体は、軽快でウィットに富んでいて、読んでいて、シンプルに無茶苦茶楽しかった。
経営破綻と離婚が似ていること。「ラーメンを食べたことがない人によるラーメン店ランキング」の例え。こういったくだりに、楠木氏の、それこそ「センス」が光っていた。
特に、「攻撃は最大の防御」というテーマについて、ご自身の身近なご経験を惜しみなく語ってださるくだりには、大笑いしてしまった。楠木氏を襲った「H&Dコンビ攻撃」。H攻撃に対する、発想の転換による一発逆転勝利。そしてD攻撃に対する「DKK大作戦」。これについては、この場でネタバレささせるにはあまりにももったいない面白さなので、是非本書を手に取って読んでみていただきたい。
経営について、これほど楽しく、肩の力を抜いて学べる一冊は、他にはなかなかないだろう。経営戦略について興味があるけれど、難解な本を読むのは躊躇する、という方には是非お薦めしたい。
ご参考になれば幸いです!
私の他の読書録の記事へは、以下のリンク集からどうぞ!