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【読書録】『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。』藤森かよこ

ネットを見ていてたまたま目に留まった、衝撃的で長いタイトルの本、『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。』(2019年、ベストセラーズ)。

著者の藤森かよこ氏は、アメリカ文学研究者で、アメリカの作家アイン・ランド研究の第一人者である(藤森氏がアイン・ランドの作品に出会った経緯も本書に書かれている)。

ひと言でいえば、社会に馴染めず、コンプレックスを持ちながら生きている人への処方箋である。「馬鹿」「ブス」「貧乏」に当てはまる人がメインターゲットだが、そうでなくても、人生に閉塞感を感じている、こじらせている方にも役立つのではないかと思う。

自虐的に、「馬鹿」「ブス」「貧乏」という表現が多用されているので、Amazonの口コミでも評価が大きく分かれる。私は、辛口スタイルの文体が嫌いではないので、面白く読んだが、こういうスタイルを不快に思われる方も多いと思うので、ご注意を。ご使用は、自己責任でお願いします。本書のまえがきにも、以下のような「Disclaimer」がある。

 この本には、あなたにとって不快なことも書かれているかもしれない。ブスで馬鹿で貧乏なあなたは、ただでさえ不用心に無思慮に生きるはめになりやすい。そんなあなたが、それなりに世の中を渡っていくための大雑把な指針が、この本には書かれているのだから、耳障りなはずだ。(p38)

この本は、37歳までの青春期、65歳までの中年期、その後死ぬまでの老年期に分けて書かれている。以下、例によって、印象に残った記述を、順番に引用してみる。

Part 1 苦闘青春期(37歳まで)

 私は、本格的なブスで馬鹿で貧乏な女性には、美容整形手術を薦める。医療技術で是正できるのならば、どんどんその技術を有効利用すべきだ。青春期のブスの女性は、借金してでも自分の顔を構築しなおすことだ。
 本格的ブスの親は、責任をもって娘の美容整形手術代を負担するべきだ。製造者責任というものがある。冗談で言っているのではない。(p52)
 普通のブスが見やすくなるには、自分の包装に気をつけるだけでも効果がある。書籍だって「パッケージ買い」というのがあるくらいだから。(p57)
 「雰囲気美人」という言葉があるくらいで、美人ではなくても美人のふりをすることはできる。(p58)
 ...ブスでも、自分のパッケージに気を付けることは効果がある。どんどんパッケージ美人になってみよう。雰囲気美人になってみよう。少なくとも、美人のフリをしている女性は、膝や脚を開いて椅子に腰かけていない。ハンカチも持たずに外出しない。電車内で化粧しない。ものの食べ方にも気を付けるだろう。(p59-60)
 青春期の女がブスのままでいることは非常に危険なことだ。就職できないかもしれない。他人から非常に雑な扱いを受けることも多い。友人知人もできにくい。見えない存在だから、しかたない。犯罪にあっても誰も助けてくれないかもしれない。
 青春期だからこそ、自分の容貌の改良に努力しよう。その費用対効果は高い。中年期や更年期に見やすい容貌を捏造しても、あまり使い道がない。青春期こそ使える。
 ゆめゆめ、「人間は外見ではなく中身だ」と言う無責任で愛情のない人間を信用しないように。(中略)この世界は、外見も良く中身もある人間が幸せになる確率が高い。どちらかがあればいいというものではない。どちらも必要だ。(p60)
 あなたは馬鹿なのだから、自己実現だの、社会や他人のためになりたいだの、できもしないことを考えないことだ。そういうことは優秀な人が考えればいい。会社員ならば、組織の歯車に徹すればいい。職人系の仕事ならば、確実に仕事を覚えればいい。
 すべきとあなたに期待されている労働の質と量をクリアできなくてもいい。自分から遠慮して反省したり身を引いたりすることはない。解雇されるまで、シレっと無能なままに職場に居座っていよう。(p67)
 大丈夫です。馬鹿でもやっていける。自分が馬鹿であると自覚できないままに日々を浪費する人が意外と多いので、あなたが、ちょっと抜け駆けできる可能性は大きい。(p69)
 根拠もデータもないが、以下のように想定して間違いない。50人の男にひとりは人格障害者でありサイコパスだ。ふたりは痴漢だ。3人はカッとなると暴力が押さえられない暴力男だ。4人はアル中だ。5人はストーカーだ。6人には虚言癖がある。7人は病的に怠惰な「ダメンズ」だ。8人は強烈馬鹿母親系マザコンだ(立派母親系マザコンはめったに生息していない)。
 つまり、まともな男は50人中14人しかいない。悲しむ必要はない。50人中14人も「まとも」だ。そのほかの36人と関わらないように用心すればいいだけだ。(p88)
 結婚相手に求めるものは、人それぞれだから、あなたは、あなたの譲れない条件に基づいて結婚すればよい。(中略)
 ただ、この条件についてだけは、あなたにこだわっていただきたい。それは男性の国語能力だ。(p103)
 結婚生活には、いろいろな感情の行き違いや誤解が生じる。その都度、それらを話し合いで解決しながら、相互理解を深める。相手への態度を調節したりできるようになる。
 したがって、葛藤や摩擦を軽減してゆくための話し合いができない国語能力の乏しい男性が夫では、あなたの結婚生活は無駄に無意味にストレスが多いものとなる。
 言うまでもなく、あなた自身も話し合いが冷静にできる国語能力を身につけなければならない。女だから、馬鹿だから、感情に任せて物を言っていいということはない。(p104-105)

Part 2 過労消耗中年期(65歳まで)

 (...)あなたは気づく。東京で活躍しているような女性たちだからこそ、オバサンになったときの鬱屈は小さくないらしいと。
 ところが、あなたはさほどのショックを感じていない。あなたは、ブスで馬鹿で貧乏なので、輝かしい青春期がなかった。オバサンになっても、喪失感は小さい。よかったですね。(p143)
 あなたはブスだから、更年期について、あまり恐れることはない。ブスは、若くても特にチヤホヤもされず、甘やかされることもない。中年になってもショックは軽い。
 更年期を、若くなくなった女が、若い頃の自分とババアになった自分のギャップに戸惑いながら、そのことに慣れて受け入れていく時期であると定義するならば、あなたにとっての更年期は楽勝だ。(p175)
 女性の人生においては、おそらく3人の男性(同性愛者ならば3人の女性)が必要なのだろう。
 ひとりは、生活を共に構築していくパートナー。運命共同体を形成し維持する仲間だ。それは配偶者であることが多いだろう。
 もうひとりは、発情期の間のあなたの性欲を満たしてくれる相手だ。
 もうひとりは、知的に刺激を与えてくれる相手だ。
 この3人が同一人物の中に実現していれば、もっとも好都合で理想的だ。しかし、おそらくそういう事例は稀だと思う。(p212)
 現代の若い女性は、すでにして、生活のパートナーと、性交相手と、知的な刺激を受ける3人の男性とともに、自分が産む子どもの遺伝子のプールとしての男性計「4人」が必要だと考えている!(p220)
 人間は誰もが情報の束だ。誰もが、どんな他者からも学ぶことができる。あなたも誰からも学ぶことができる。出会う人はすべてあなたの教師だ。10歳の子どもからも学ぶことができる。貪欲に学ぼう。情報は、あなたの内部から湧き上がってこない。外からくる。宝は外部からもたらされる。
 この心的態度を身に着けていないと、貴方は年齢を重ねるごとに、生きづらくなる。あなたの知る世界が狭くなる。それは、つまらないことだ。(p228)
 美貌に生まれれば、その美貌を保持するために手間もカネもかかる。ストーカーにも遭いやすい。他人から関心をもたれるということは、不自由なことである。
 あなたは貧乏だからこそ、選択肢が少なく、逃げ道もなく、あまり迷うこともなく生きてこられた。
 頭が良ければ、蓄財方法や投資方法をいろいろ考え試すこともできるが、失敗することもあるだろう。馬鹿なあなたは、何もできなかったので、失敗もなかった。
 何事にもプラスとマイナスはある。ついつい、人間はマイナス面しか見ない。物事のプラス面を見ることを、ブスで馬鹿で貧乏なあなたは特技としよう。(p243)

Part 3 匍匐前進老年期(死ぬまで)

 (...)あなたの場合は、そもそもが持つものが圧倒的に少なく人生を始めた。青春期、中年期と、あなたなりに悪戦苦闘したが、所有できたものは慎ましかった。人生の果実など、ほとんど手に入らなかった。生き延びてくるだけで精一杯だった。
 記憶力など若いころからお粗末だったので、老いてからの記憶力の減退に寂しい思いもしないくらいだ。あなたにとっては、老年期になっても失うものがあまりない。
 すなわち、完全な徒手空拳であるところの死に向かう緩慢なプロセスである老年期を、あなたの場合は、比較的平静に冷静に過ごすことができる。老人性うつ病に苦しむこともない。うつ病で自殺するなら、とっくの昔に自殺している。
 負け惜しみでなく、恃むものもなく生きてきた人間の強みというものがある。その強さが地味ながらも大いに発揮できるのが、あなたの老年期だ。(p289)
 いわば、あなたは自分が泳げないと知っているので、泳がなかったので、溺れずにすんできた。その用心深さで老年期も生きればいいだけだ。(p292)
 老いれば、公平にみながブスになる。最初からブスであった貴方は、同世代の周囲がブスになっていく状況にあっても、落差が小さい。結果としてブス度が低く見えるようになる。
 ここまで生き延びてきてよかったですね。(以下略)(p295)
 (...)あなたは馬鹿なので、思考力もなく、ついつい寄り道したり、目標を見失ったり、途中で引き返したりしてきた。非常に効率の悪い人生を歩いてきた。
 あなたのその馬鹿さ加減こそ、老年期という人跡未踏のミステリーゾーンを進むのに都合がいい。(p296)
 (...)ブスで馬鹿で貧乏なあなたにとっても、今までの人生は怖いことばかりだった。怖いということは人生そのものであると、あなたは知っている。だから、怖いという状態を必要以上に怖がらない。
 大いに怖がって冒険しよう。老いというものが、どのような状態であるか、しっかり観察し味わおう。(p298)
 孤独とのつきあいに関しては、あなたは比較的うまくできる。あなたはブスで馬鹿で貧乏で低スペックであるがゆえに、他人から軽んじられることも少なくなかったし、それゆえに傷つきやすく、人間関係に期待することが小さかった。
 どちらかといえば、自分も含めて人間というのはろくでもないものであるという優れた見識を、あなたは持っている。
 ついでにあなたは、ひとり遊びの方法をいくらでも知っている。現代はインターネットのように一人遊びの道具は発達している。インターネットを通じての薄い人間関係を楽しめるSNSもある。時代が、あなたの気質に好都合に変化してきた。(p301)

感想

ブスで馬鹿で貧乏な、低スペックの人は、人生においては損な立場にある。しかし、悲観するには及ばない。そんな日陰の人生を送ってきた人は、打たれ強いはずだ。恵まれて生まれてきた人と比べて、失うものも少ない。だから、中年期、老年期と年齢を重ねても、老いても、ショックが少ない。それどころか、年齢を重ねるほど、楽に生きていくことができる。全体を通して、そんなメッセージを受け取った。

とはいえ、青春期には、努力をすべきだとも書いている。そのなかで、「美容整形を受けるべし」というアドバイスには、さすがに、「それはちょっと…」と、違和感を覚えた。嫌悪感を覚える人も多いかもしれない。それでも、美しくふるまうこととか、周りが気を抜いている間に、地道に努力することなど、誰にでもできることも書かれている。

そして、中年期、老年期にも、学び続けること、プラスの面を見ること、冒険すること、孤独を楽しむことなど、ラクに人生を生き抜くための心構えを伝授してくれる。

ところで、女性が男性を選ぶ視点についての記述が面白かった。根拠もデータもない、ということだが、「まともな男は50人中14人しかいない」というくだりだ。サイコパス、暴力男、アル中、ストーカー、虚言癖、マザコン…。たしかに、こういう男性は、学校や職場、友人知人にも、一定程度いたなあと思い出した。まともではない人と関わらないようにするというのは、安全に人生を送るためには重要だと思った。

また、結婚相手には「国語能力」を求めるべきこと。ストレスなく疲弊しない人生を送るためには、結婚相手は、外見でもお金でもなく、十分に話し合い協力しあって問題を解決していけることが重要だ。これには強く共感した。馬鹿ブス貧乏でなくても、すべての女性に参考になると思ったし、性別関係なく、パートナーを選ぶ際に国語能力をひとつの基準にすべきだろう。

また、女性には、生活のパートナー、性交相手、知的な刺激を受ける相手の計3人、またはそれにプラスして自分が産む子どもの遺伝子のプールを足して計4人の男性が必要だという話も、面白いと思った。この記述は、中年期の女性の性欲について、赤裸々に書かれている箇所に出てくる。noteという公の場では、これ以上引用するのが憚られるが、ご興味のある方は、ぜひ、前後の記述と併せて読んでみていただければと思う。

たくさんの皮肉を含む、辛口で自虐的な語り口なので、読了までには、通常の読書よりも、気力を必要とした。巷にあふれている、超ポジティブな自己啓発書とは対極のトーンだ。決して、万人受けする本ではない。

しかし、『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに…』というタイトルに思わず目を留めた、つらい人生を歩んできた読者にとっては、刺さる箇所が多くあると思う。「つらかったね。でも、これか生きやすくなるよ、きっと!」という、ゆるいメッセージを受け取ることができるだろう。著者も、自称・馬鹿ブス貧乏で、つらい時期をお過ごしになったということだから、説得力もあり、共感できるところも多く、励ましを受ける読者も多いのではないかと思った。

(おまけとして、この強烈なインパクトのあるタイトルと、炎上必至の辛口な語り口は、発信者として、一種のマーケティングの手法として参考になると思った。巷にあふれる数多くの発信から自分の発信を差別化し、読者に目を留めてもらうには有効だろう。ただ、私には真似するにはハードルが高すぎるが…)

ご参考になれば幸いです!


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サザヱ
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