#小説
灰色猫を召喚する方法
「読書に欠かせないものといえば?」と聞かれれば、私は迷わずこう答える。「猫だ」と。
喉を潤す飲料でもなく、体を預けるソファでもなく、気分を落ち着かせる音楽でもない。
必要なのは小さな鼓動を響かせてくれる温もりと、気まぐれなちょっかい。それだけあればいい。
仕事へ行く前に、通り道の公園へ足を運ぶ。
そこは市立図書館と隣り合わせの少し大きめの公園で、私は天気のいい日には必ず寄るようにしていた。
片隅
メモリーズ・シンドローム
「やぁ、これは珍しい症例ですな」
先生はペラリと僕の診断結果の紙をめくると次にこう告げた。
「メモリーズ・シンドロームですね」
「は?」
「直訳すると思い出症候群、となります」
そして僕は二度目の、は?を出さざるを得なくなる。一体何なんだ、それは。
「最近事例が多くなりやっと認知され始めた症例なんですがね」
先生は脚本でもあるかのように、滔々と語り始めた。
「何かをきっかけに過去の思い出がフ
乙女は花列車に夢を見る
ルーニンが住む街では、毎年秋になると大きな祭りが行われた。花祭りと呼ばれるそれは三日三晩続く大行事だ。秋の実りと収穫を祝うそのお祭りではコスモスがシンボルとなっており、あちこちに華やかで可愛らしい花弁が咲き乱れている。
今年で十二歳となるルーニンは、そんな花祭りが大好きな少女だった。
ルーニンは花祭りが始まる日の朝、誰よりも早く起床した。
「お母様おはよう! さあ、早くアップルパイを焼きましょう」