猪野いのり
短編小説集。多ジャンル。主に即興小説で書いたものを収録。他に200字ノベルや詩もあります。
詩も時々書いてます。
みじかい童話集。
私たちは咀嚼されている。 咀嚼され、吸収されている。 それはあまりにも巨大な歯だ。 だから気づかないでいる。 プランクトンがクジラに飲み込まれたことに気づいていないように。 人間も飲み込まれていることに気づいていない。 この広い社会に。 あの大きな空に。 果てしない宇宙に。 ゆっくり咀嚼されている。 いつか吸収され栄養となる。 その時さえにも気づかずに。 #詩
【お知らせ】 只今comicoノベルにて、群集劇小説「即席家族」を連載しています。エレベーターに閉じ込められた中年男、OL、中学生男子、小学生の四人。孤独や悩みを抱えながら、互いに心を通じ始めるお話です。 http://novel.comico.jp/challenge/18760/
お久しぶりです。いのりです。 最近noteを更新できていなかった私ですが、何をしていたかというと、comicoノベルというサイトで少し執筆をしておりました。 まだnoteで完結できていないものがあるのに! さて、昔から物語を紡ぐことが好きだった私ですが、インターネットが普及してからはもっぱらネットで執筆を続けています。 手書きよりやはりパソコンの方が、執筆速度は速いですし校正が楽ですからね。やはり昔の文豪はすごかったんだなぁ、と感嘆します。 てな訳で(どんな訳だ)、今
囚われの蝶は呟く 「あなたは私を食べるのですか」 空腹蜘蛛は糸を渡る 「私はおまえを食べるだろう」 「そうなの」蝶は空を見やる 青空に蜘蛛の糸 不覚にも美しい 「私はあなたに食べられる あなたの一部となり 糸となって また あの空を飛ぶのね」 蜘蛛に蝶の思いなど わからぬ 枯葉のようにパリパリと 美しい蝶を食べた 蝶のような鮮やかな 糸を紡げるのかなと 考えながら #詩
雨巡りて(上) 「おばあちゃん、お客様がいらっしゃったわよ」 襖を開け祖母のいる和室へ入ると、お香の匂いが私たちを出迎えた。長い年月を経て部屋に染み付いたこの香りはどこか懐かしく嫌いじゃない。 祖母はいつものようにベッドにいた。 先ほど昼食を済ませたばかりだったので、ベッドの上部を少し上げて身を起こしたままにしていた。手元には薄紫のハンカチを握りしめている。 祖母の反応はいつもワンテンポ遅い。今日も声をかけてしばらくして、こちらを見た。 「こんにちは」 柔らかな表情を
ふわふわ 綿毛はどこ行くの 土の布団 アスファルトの隙間 きっとそんなところ わふわふ 毛玉はなぜ駆ける 風にのる 不思議な光を 追いかけたくて ふわふわ わふわふ ふわふわ わふわふ ふー、と綿毛は飛んでった 遠い遠い 空の彼方 虹の向こう その小さな綿に 光をのせて #詩
私の祖母は八十五歳。名は小夜子という。 二十八歳という当時では晩婚と言われた年齢で祖父と結婚し、母を産んだ。母も三十路で結婚し一人娘の私を産んだのだから、どうやら我が家の晩婚は遺伝なのだと言える。 世間では晩婚が遺伝なんてあるわけないと言われるだろうが、あえてそう考えさせてほしい。 私も、もう二十七歳。 結婚相手どころか交際相手もいない、しがない事務員なのだから。 気づけば祖母が結婚した年齢にもうあと一年を切っていたある日、その人は現れたのだった。 「小夜子さん、いらっしゃ
繊細なお菓子でした!