声に出して読みたくなる『いい音がする文章』。
ドラムのドンドンドンドンドンから始まる、チャットモンチーの『シャングリラ』は、「胸を張って歩けよ」「前を見て歩けよ」とポジティブなことが書かれているのに、「希望の光なんてなくたっていいじゃないか」と続く。
「希望の光なんてなくたっていいじゃないか」と歌われた瞬間、なぜか心が軽くなった。その理由が、高橋久美子さんの新刊『いい音がする文章』を読むとわかる。
そして、「シャングリラ」と自然に口ずさんでいたのは、「音」で聴いていたからだ。「シャングリラ」と声にだすのも心地よかった。
その心地よさの秘密については、山の中で「やっほー」と叫ぶときと似ている。高橋さんは「気の持ちようが良い」と書いていて、音とは、声とは、体の中から出てくる「気」と断言している。谷川俊太郎さんの「かっぱ」の詩を例に、音のおもしろや言葉のリズムについても解説している。
この本では、言葉を声に出すことで「いい音がする文章」のヒントが得られる仕掛けになっているのだ。
今まで、いろんな人が文章にはリズムが大事だって言っていたけど、文章のリズムの感覚のことがわからなかった。それは多分、あまり音楽に触れてこなかったからだと思う。そんなリズム音痴なわたしでも、いい文章が書きたい思いから手に取ってみると、どうしたら自分の「音」がだせるのかのヒントをもらえた。
この本を手にする人は、高橋久美子さんのファンの人、作詞を書く音楽活動をしている人、わたしみたいにエッセイを書いていて、創作のヒントにしたい人もいるだろう。
本のなかでエッセイについても触れているのだけど、エッセイは簡単そうに思えて、難しいのです。と書かれている。向田邦子の『作家と犬』が、人間味あふれるリズムや温度感が感じられるエッセイとして載っているので、文章を書いている人は読んでほしい。
書き続けていると、「いい文章が書きたい」気持ちが生まれてくる。たくさんの人に読んでもらいたいとも思う。♡の数も気になりはじめる。だからこそ、学ぼうとするのだけど、学びすぎると自分のオリジナルの声が薄まってしまう。相手の気持ちを考えすぎて自分の声が薄まってしまうみたいに。
高橋さんが、「本当のオリジナリティとは、まずは体験したことや真心に忠実に書くということではないだろうか」と語る部分に共感した。自分の中にあるものをそのまま書き出すことが、オリジナリティにつながると感じたから。
わたしは日記を書いているので、そこから創作が生まれたらいいなと思う。
『いい音がする文章』は、言葉に音を乗せる楽しさを教えてくれる。自分の声を探したい人、迷いの中にいる人にもオススメしたい一冊だ。
文芸棚にあるかな〜と本屋さんで探していたら、購入した本屋さんでは「邦楽アーティスト」の棚に置いてあった。本屋さんによって置く棚が違うようなので、ご注意を!