全国自然博物館の旅【32】天草市立御所浦恐竜の島博物館
我が国に「恐竜の島」があるのはご存じでしょうか。
歴史文化の深い天草市。当地の幽玄な海に浮かぶ御所浦島には恐竜時代の地層が存在しており、日本の恐竜学にとって画期的な発見が成し遂げられました。博物館がリニューアルしたタイミングを狙って、恐竜マニアなら誰もが憧れる夢の島へ行ってきました。
太古のロマンを求めて「恐竜の島」へ!
中生代のロマンと豊かな自然に満ちた恐竜の島・御所浦島。憧れの恐竜たちに出会うためには、フェリーか海上タクシーで島へ渡ります。熊本県内の数ヶ所の港で定期便が運行されており、筆者は本渡港から向かうことにしました。
来島前の準備として必要なのは、博物館への入館予約です。天草市立御所浦恐竜の島博物館への入館に際しては、インターネット上での予約が必須となります。枠が空いていれば当日でも予約可能ですが、できれば前日までに済ませておきたいですね。
フェリーの出港時刻になると胸が高まってきます。船に乗るとワクワクするのは子供も大人も同じで、テンションは最高潮!
本渡港を発って40分ほどすると、夢にまで見た恐竜の島に到着します。
御所浦島には中生代の地層があります。つまり、今後も恐竜・翼竜・海棲爬虫類の化石がどんどん見つかる可能性があります。
これはもうチャレンジするしかありません。そう、化石掘りの開始です!
さっそく筆者はハンマーをレンタルし、化石探しを開始。まずは歩きながら周囲を観察し、化石がないかゆっくり見極めていきます。めぼしい石を発見したら、ハンマーで石を叩いて割っていきます。
そして、見事に古代の貝類ゴショライアの化石をゲット! モササウルスは見つかりませんでしたが、とっても大満足な戦果です。
大満足したところで、本命の博物館へGO!
本館の前身は天草市立御所浦白亜紀資料館であり、今年3月20日にリニューアルされて、天草市立御所浦恐竜の島博物館へと生まれ変わりました。北アメリカ・モンタナ州のカーター郡立博物館と姉妹館提携を結んでおり、今後ますます活躍が注目される恐竜研究施設です。
恐竜研究の新たなフロンティアを目撃せよ!
永い眠りから目覚めた天草の恐竜たち
恐竜たちの島の博物館、いよいよ観覧スタートです。リニューアル完了した建屋はとても大きく広々としています。天草市で発掘された膨大な化石がここに集められ、プロの古生物学者によって研究されています。恐竜研究の新たな時代の到来を感じさせてくれます。
天草の恐竜たちと出会う前に、来館者は生命の誕生と進化を辿っていくことになります。時の流れを感じる回廊の壁面には、古生物の化石やイラストが展示されています。生命はどのような道筋を歩み、地球史のいつ頃に恐竜が生まれたのか、その進化の旅路を見届けましょう。
そして、ここからは日本の恐竜研究に革命をもたらす天草の恐竜たちが登場します。本地域では多種多様な白亜紀の生物化石が産出しており、まさに恐竜の楽園でした。本館の研究によって、これからさらに天草の恐竜王国の謎が明らかになっていくことでしょう。
それでは、太古の天草にはどのような恐竜たちがいたのでしょうか。なんと、本地域からは全長10 mクラスと思しき肉食恐竜の化石が発見されています。その他の大型恐竜の骨格も、天草の地層から相次いで出土しています。白亜紀の熊本県では、大地を揺るがす恐竜たちの激闘が展開されていたのです。
そして、恐竜好きの人々が気になるのは、天草郡苓北町で発見された国内初のティラノサウルス類の下顎化石。これほどの発見を見逃す手はありません。ただし、超貴重なティラノサウルス類の下顎化石は撮影禁止となっており、ぜひとも本館を訪れて見ていただきたいと思います。
なお、天草町にて発見されたティラノサウルス類の歯の化石は撮影可能です。アメリカのティラノサウルス・レックス(全長13 m)と比べて小さく、天草産ティラノサウルス類は全長7 mほどだったと思われます。それでも、恐ろしい捕食者だったことに変わりありません。日本においても、ティラノサウルス類は栄華を極めていたのです。
天草産の恐竜たちの種類を学んで、次に考えるのは「恐竜たちが棲んでいた太古の天草は、どんな環境だったんだろう?」ということです。その疑問にも、化石となった生き物たちが答えてくれます。
発見された動植物化石の種類を調べれば、産出地が当時どのような環境だったのかがわかります。どんな生き物の化石も、古環境を知る重要な手がかりとなるのです。
天草市では陸域のみらず、海洋生物の化石も豊富に出土しています。イノセラムスやトリゴニアなどの古代貝類をはじめ、膨大な標本展示にマニアは大喜びだと思います。
そして、恐竜たちと並ぶ御所浦のスターが、島内で発見された古代魚アマクサゴショウラムカシウオです。天草の大地には、きっとたくさんの未知の古生物が眠っていると思います。
質も量も桁違いの天草産の化石には、終始大感激! 恐竜たちをはじめ、本館では膨大かつ多様な古生物と出会えます。白亜紀の天草には陸にも海にも生命があふれ、壮麗な自然界で力強く戦っていたのです。
超圧巻! 世界の恐竜たちが御所浦島に大集結!!
恐竜展示の醍醐味と言えば、やはり他の陸上生物とは比較にならないパワフルさです。本館の展示ホールにおいても、迫力満点の恐竜たちの全身骨格が雄々しく佇立しています。
ティラノサウルスをはじめとする世界各国の猛者が大集結しており、その偉大さに圧倒されます。ダイナミックにして荘厳、これぞ恐竜です!
本館の展示では分類群ごとに恐竜たちが集められており、どの恐竜がどのグループに属するのかを体系的に理解できます。
筆者の中で最近のトレンドは鳥脚類(イグアノドンやハドロサウルスなど)です。このグループには、イヌほどの大きさの可愛らしい種類もいれば、体重20 t以上の巨体を誇る大型種もいます。日本を含め、世界各地で力強く繁栄していた彼らについて、本館の展示で詳しく知っていただきたいと思います。
恐竜たちの魅力の1つは、強さであり「武装」です。パワフルな巨体と角を備えるトリケラトプス、鎧とハンマーで身を固めたアンキロサウルスなど、彼らはまさに生まれながらの戦士です。
肉食恐竜が強くなる度に、植物食恐竜も強大に進化しました。個性豊かでかっこいい武装恐竜たちの強さの秘密に触れてください。
続いては原鳥類です。恐竜は鳥に進化したことが明らかになっており、中生代には鳥に極めて近い特徴を持つ種類が多数存在していました。原鳥類の展示を観覧していると、大空を目指した恐竜たちの姿が目に浮かんできます。
恐竜と同時期に生きていた動物群の展示も充実しています。中生代の空の覇者・翼竜たちはワイバーンみたいでかっこいいです。彼らは優れた飛翔動物であり、滑空性の高い翼で天空を自在に駆けていました。最高にクールでイカした空の竜たち、筆者は強く推します。
空の次は海の古生物です。中生代の海洋生態系の頂点に君臨していたのは、モササウルス類をはじめとする水棲爬虫類です。天草でもモササウルス類の化石が出土しており、彼らは世界各地の広範囲の海域で暴れ回っていたようです。
海洋爬虫類展示での筆者の推しは、天井から吊るされているタラソメドンの全身骨格です。その長大な首には、「首長竜」の名にしおう迫力があります。
古代から現代へ受け継がれる豊かな自然環境
中生代末期の環境激変により、恐竜たちの王朝は終焉を迎えます。新しい時代で勢力を強めたのは、我ら哺乳類の仲間たちです。
天草地域では新生代の地層も存在しており、数々の哺乳類化石が発見されています。後半の展示では、恐竜時代から手渡された生命のバトンのリレーを目撃するのです。
天草地域では、新生代の後半の生物化石も多数見つかっています。ここからは多様な生物種の標本展示を見ながら、当時の天草の環境を学んでいきます。
数多くの動植物化石のラッシュに、マニアは再び大興奮! 御所浦は古生物学の聖地だと改めて感じました。
新生代は越えて、舞台は現代の地球へ! 天草に息づく生命と自然環境の展示が始まります。
私たちが天草と聞いてまず想像するのは、豊かで美しい海の世界です。
天草の大地をには、魅力的が動植物がいっぱいです。御所浦のような九州本土から離れた島々では独自の生態系が築かれ、ユニークな固有種も発見されています。来館者にとって、本館の展示は天草の自然探究への窓となるのです。
壮美な自然環境展示もいよいよ締め。最後に、たくさんの動植物標本が集結してお出迎えしてくれます。
海と陸に満ちる生命の躍動。現代の天草の生態系にも、美しい動物たちがあふれていると実感いたします。恐竜たちの時代から、天草はずっと生命の楽園だったのです。この尊い自然環境は、地球の宝と言っていいでしょう。
展示エリアから出る前に、もう一度、恐竜たちの展示ホールを眺めてみましょう。
恐竜を通して地球の神秘に触れられる御所浦は、本当に特別な島です。白亜紀の天草地域の環境を強くイメージすれば、恐竜たちの足音が聞こえてきます。
天草市立御所浦恐竜の島博物館 総合レビュー
所在地:熊本県天草市御所浦町御所浦4310-5
強み:恐竜をはじめ天草地域で産出した超多数の生物化石標本及びそれに関する膨大な学術的知見、視覚的な迫力と多くの学術情報に満ちた大ホールの恐竜展示、天草地域の古環境と現代環境についての濃密な解説展示
アクセス面:御所浦島に渡る手段は船のみです。フェリー便は本渡港・棚底港・水俣港・大道港から出ていて、御所浦に近い港には海上タクシーもあります。フェリーのある港へ行くにはレンタカーがオススメですが、もし熊本市内から向かうのでしたら日帰りは困難だと考えてください。恐竜の島を最大限楽しむために、御所浦島に宿泊するか、フェリー港の近くの宿を予約しましょう。
センセーショナルな発見で話題となっている御所浦島の恐竜博物館。恐竜をはじめ天草市の多様な古生物化石について詳しく学べるうえに、大迫力の大型恐竜の骨格標本も豪華に展示されており、恐竜への憧れと探究心を強く呼び起こしてくれます。日本の恐竜学にとって極めて重要な施設であり、恐竜マニアならぜひとも訪れておきたい博物館です。
天草市で産出した貴重な実物化石を目の当たりにすれば、壮大な恐竜たちの世界が熊本県に広がっていた事実に感動することでしょう。そして、新生代から現代に続く天草市の大自然への理解も深まり、熊本県の生命と自然への関心も高まります。リニューアルして施設全体が超パワーアップを遂げ、誰もが恐竜の世界に没頭して学べるスーパー展示施設となっています。
本館では島内の化石探し体験を実施しており、体と心で古代を感じることができます。博物館で学んでフィールドで化石を掘った後は、ぜひ御所浦島の宿に泊まってください。きっと夢の中で恐竜たちに出会えることでしょう。