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全国自然博物館の旅【40】横倉山自然の森博物館

日本各地は、学術的に極めて大きな「宝」を有する山々が多数存在します。自然科学を愛する者からすれば、富士山にも負けないほど魅力的で探究すべき聖域なのです。
緑豊かな高知県には、山の緑に抱かれた神殿のような博物館があります。そこでは山林の生態系や高知県の生命史について、深く詳しく学ぶことができます。


森の中に佇む荘厳なる自然科学の神殿

今回訪れるのは、高知県各地の生態系と古環境について総合的に学べる自然科学系の学術展示施設。本館は自然豊かな越知町の横倉山に位置しており、館内学習と野外自然観察が同時に楽しめます。

高知市からレンタカーで走ること1時間あまり、生命あふれる緑の山々が見えてきました。麗しき越知町には、知る人ぞ知る名スポットがたくさんあります。雄々しき横倉山は日本植物学の父・牧野富太郎先生がフィールド研究を実施していた地であり、また越知町にはアニメ映画『竜とそばかすの姫』のワンシーンに登場した風景があります。
自然も文化も魅力たっぷりの越知町。博物館観覧に際して、町全体を楽しみましょう。

高知市内から1時間あまりのドライブで越知町に到着。遠くに見えるのが目的地の横倉山です。
横倉山から近い観光物産店。自然が豊かな越知町で育まれた名産物を、ぜひともゲットしておきましょう。
越知町を含め、高知県の広範な地域はアニメ映画『竜とそばかすの姫』の聖地でもあります。アニメファンの皆さんも、ぜひ高知旅行へ出てみましょう。

では、いよいよ博物館のある横倉山へと繰り出します。標高およそ800 mの山の緑は深く、入り込むと不思議な生命の気配に取り巻かれます。偉大なる牧野富太郎先生がこの山でフィールドワークをされていたと考えると、連綿と継がれてきた生物学の歴史を強く感じます。
駐車場に車を停めたら、動植物を探し歩きつつ、博物館へ向かってみるといいでしょう。もしかすると、素敵な出会いがあるかもしれません。

横倉山の山道から見た山景色。この一帯には様々な動植物が暮らしています。
オサムシの仲間。猛スピードで走っていて写真では捉えきれませんでした(笑)。
最近、コケ類への関心が高まっています。牧野富太郎先生の研究フィールドだからこそ、横倉山での植物観察には特別感があります。

森の生命を感じながら歩いていくと、目の前に神殿のごとく趣深い建物が現れます。横倉山と高知県の自然を体系的に学ぶことのできる、越知町立の自然博物館。有名建築家の安藤忠雄氏が設計されていて、かっこよく味わい深いデザインに魅了されてしまいます。
神秘的な空気の漂う博物館には、高知県の不思議がいっぱいです。時間の流れを忘れて、横倉山での自然科学の学習に浸りましょう。

横倉山に入って少し登ると、神殿のように長い建物が見えてきます。今回の目的地・自然の森博物館です。
この博物館を設計されたのは、世界的に有名な建築家・安藤忠雄氏です。かっこよさと神々しさを感じるデザインです。
森の景色が見える長い回廊。歩けば歩くほど不思議な空間へと引き込まれます。

壮大なる高知の自然環境の過去と現在

神秘に彩られた高知のフィールドに飛び込もう!

美しい森の中の博物館、ワクワクしながら観覧スタートです。まず目にするのは、四季折々の森の植物写真。そして動物たちの生息マップ。
横倉山に自生する無数の動植物たちは、季節によって様々な顔を見せてくれます。これから山のフィールドワークに出る方は、本館を観覧しつつ、野外でどのような生き物と出会えるのかイメージしてみてください。

季節ごとの美麗な植物たちを写真で紹介。どのシーズンに訪れても、横倉山はフィールドワーカーを楽しませてくれます。
越知町の動物たちの生息マップ。生体の目撃場所や糞の発見地点が地図上にプロットされています。
こちらは顕微鏡を用いた体験展示。微生物などミクロのサンプルを観察することができます。

続いては、越知町の生き物たちの生体展示。博物館のスタッフさんが採集してきた両生類や爬虫類は、どれも可愛い子ばかり。筆者の推しはヌマガエルであり、体型と瞳の形がたまりません。彼らの一挙手一投足を、心ゆくまで観察しましょう。

可愛い生き物たちの生体展示。さすが森の中の博物館ですね。
越知町で捕獲された水色のアマガエル。美しすぎる!
ヌマガエル。暖かい地方のカエルで、オタマジャクシは高い水温にも耐えられます。
とっても可愛いニホンヤモリ。勘違いする人が多いのですが、ヤモリは爬虫類、イモリは両生類です

では、いよいよ横倉山の自然環境を本格的にどっぷり学んでいきましょう。山の尾根付近は、アカガシを主とする原生林で覆われています。広葉樹の落ち葉は保水力に富み、地面に蓄えられた雨水が数多くの生命を育んでいます。
命あふれる横倉山。その世界を、本館のジオラマで学ぶことができます。美しくたくましい動物たちの剥製を見つめながら、彼らの王国が横倉山にあることを実感してください。

剥製とジオラマで横倉山の環境を再現。自然の豊かな越知町の山々では、数多くの動物たちが力強く栄えています。
ニホンタヌキ。代表的な里山の哺乳類です。
イノシシの幼体とハクビシンがご対面。森の中では、きっとこのような光景が展開されていることでしょう。
壁面の窓を覗くと、小型ジオラマを発見。キツツキ類は強力なクチバシで樹幹に穴を開けることができます。

地域の森の博物館と言えば、絶対に見ておきたいのが昆虫標本です。横倉山をはじめ、高知県の昆虫相が学べる絶好のチャンス。生物には地域によって個体差があるので、既知の昆虫でもよーく観察してみると、きっと新たな発見があるはずです。

筆者が楽しみにしていた展示。やはり地域の自然博物館に来たら昆虫標本が見たくなりますね!
高知県産のヒラズゲンセイ。大好き昆虫なので、地域特有の個体が見られるのは本当に嬉しいです。
超レアなキリシマミドリシジミ。とっても珍しいチョウが横倉山で発見されたのです!
世界の昆虫標本も豪華に展示。オスとメスがそろっている種類もあって、見ごたえ抜群です。
なんとサナギの標本もあります。国産カブトに比べると、コーカサスオオカブトは圧倒的に大きいです。素晴らしい!

先述の通り、横倉山は偉大なる牧野富太郎先生の研究フィールドの1つです。牧野先生はこの山で多種多様な植物を採集し、新種を発見して世界に発表されています。
牧野先生が横倉山でどのような植物と出会い、どのような研究生活を送っていたのか、キャプションパネルでしっかりと解説されています。偉人の業績に想いを馳せて、植物学の世界の奥深さを感じてみてください。

牧野富太郎先生の横倉山の研究史をキャプションで解説。偉大なる植物学者の足跡、とても興味深いですね。
1階通路には植物の模型が展示されています。博物館の雰囲気と相まって、不思議な雰囲気が醸し出されています。
アオテンナンショウの模型。5月頃に花を咲かせるサトイモ科の植物です。
フクリンササユリの模型。葉の形がササに酷似しており、名前の由来にもなっています。

地球の記憶へとつながる横倉山の古生物学習

雄大な横倉山は現生動植物の楽園となっているだけでなく、地球科学の貴重な宝を豊富に宿しています。なんと、横倉山では4億年以上も太古の生物化石が発見されており、古生物学において極めて重要な探求フィールドなのです
たくさんの地球の記憶が眠る横倉山で、古代の神秘をどっぷりと学んでください。

古生物資料の展示室「地球の歴史」。建物の内部構造も神殿のようになっていますね。
横倉山で発見されたクサリサンゴの化石。4億年以上も太古の時代に生きていました。
越知町で産出した古生代デボン紀の植物化石。魚の鱗のような幹をしていることから鱗木りんぼくと呼ばれます。
横倉山からは中生代の化石も産出しています。この標本は白亜紀の貝類トリゴニアの集合化石です。
横倉山のみならず、海外の生物化石も展示されています。こちらはスウェーデン産のサンゴ類です。

本館の展示で筆者の関心を強く惹いたのは、カンブリア紀の古生物展示です。神秘的な形態の生物(古生物学界ではバージェス動物群と呼称されます)が爆発的に出現したこの時代は、多くの古生物ファンから熱狂的な探究心を集めています。宇宙生物のごとくユニークな生命が舞う太古の海を想像しながら、カンブリア紀の造形展示をご覧ください。

カンブリア紀最強の生物アノマロカリス。特殊な触手と口を行使して、当時の生物を捕食していました。
カンブリア紀の生物たちの復元模型。実物はこれほど大きくはなく、展示に際して拡大されています。
ウィワクシア。トゲと装甲で武装し、恐ろしい天敵たちから身を守っています。
オパビニア。奇抜な姿をしていますが、このような生き物が太古の地球に存在していのは紛れもない事実です。
アノマロカリスの化石と復元模型。彼らは当時の海で最強の存在でしたが、子孫を残すことなく滅びました。

ここからは世界の古生物化石のラッシュです。古生代から新生代までの、多種多様な生き物たちが豪華なラインナップで出迎えてくれます。その中には、大勢のファンを持つ植物食恐竜トリケラトプスもいます。
雄大な横倉山の森に抱かれながら、太古のロマンを感じる体験、なんという贅沢! この素晴らしい時間を噛みしめながら観覧を進めていきます。

幅広い時代の化石たち。展示ケースに並ぶ標本を見ていると、古生物マニアとしての血が燃えます。
古代魚ボスリオレピス。古生代においては、骨性の装甲を備える甲冑魚かっちゅうぎょが繁栄しました。
ウミサソリ類エウリプテルスの化石。名前から勘違いされやすいですが、現在のサソリ類とは違うグループの生き物です
強くてかっこいいトリケラトプスの頭部。成体は全長9 m以上、体重10 tクラスに達したとも言われています。
デスモスチルス類の歯。彼らは束柱類と呼ばれる特殊な哺乳類の仲間です。

化石展示エリアの向こうには、体験展示満載の大きなテーブルがあります。剥製標本や化石標本を直に触ることができ、現代と古代の生命を肌で感じられます。研究によって知識として吸収するだけでなく、地球の記憶との直接的な触れ合いも自然科学の理解を深めるために重要だと思います。

広々とした体験展示ゾーン。可愛いタヌキやハクビシンの剥製にタッチできます。
体験展示では化石にもタッチできます。大型恐竜ティタノサウルス類の力強い肩の骨は、どのような感触がするのでしょうか。
恐竜の糞。化石だからこそ怖がらずにタッチできますね(笑)。

無限なる緑に彩られた自然環境、大地に眠る数知れない化石たち。超膨大な自然科学の宝がひしめく横倉山は、まさに博物館が立つのにふさわしい場所です。観覧学習を終えたら、最高のテンションのままフィールドワークに出て、現地の自然を肌で感じましょう。
なお、本館の最上階には『竜とそばかすの姫』の展示エリアがあります。貴重なアニメ資料を見ることができますので、ここもぜひチェックしていただきたいと思います。

最上階には、展望台と『竜とそばかすの姫』の展示エリアがあります。アニメファンなら要チェックですね。
ベルの大型パネルと竜の立体造形物。劇中でのロマンチックなシーンが目に浮かんできます。

横倉山自然の森博物館 総合レビュー

所在地:高知県高岡郡越知町越知丙737-12

強み:探究フィールドに面する自然観察に最適な立地環境、横倉山に棲む動植物の豊富な標本・模型・写真資料、実物化石と模型を豊富に活用した濃密な古生物学展示

アクセス面:山の中にある博物館ということでお察しだと思いますが、車で向かうのが大正解です。高知市内からレンタカーに乗っていけば、1時間ほどで横倉山に辿り着けるでしょう。公共交通機関をご利用の場合、JR讃岐線に乗って佐川駅で下車し、そこから路線バスで「宮ノ前」停車所に向かうことになります。ただし、博物館の観覧と合わせて『竜とそばかすの姫』の聖地巡りをするのであれば、確実に車が必要になってきます。アニメファンの方は、必ずレンタカーを借りましょう。

多種多様な動植物の生息地であり、牧野富太郎先生が新種植物を発見した植物学の聖地でもあり、なおかつ膨大な化石と共に地球の記憶を宿す横倉山。自然科学において超特別な立地にある本館は、展示内容もとっても濃密で、観覧によってすさまじい知識を得ることができます。
剥製標本を用いたジオラマ展示に加えて、カンブリア紀の生物の拡大模型が有する視覚的インパクトは素晴らしく、自然科学への関心を最高潮に鼓舞してくれます。さらに、横倉山が誇る極めて貴重な化石標本のラッシュには、マニアが心を震わせて喜ぶことでしょう。トリケラトプスをはじめ、海外の有名古生物の標本をも数多く展示されており、とても幅広く奥深い古生物学の知識を獲得できます。
改めて、横倉山の大自然は神秘に満ちていると実感しました。壮麗な深緑の世界の生態系を学ぶために、ぜひとも山の中へフィールドワークへ出かけましょう。

筆者も『竜とそばかすの姫』を観ました。圧倒的な映像美に大興奮必至! 細田守監督の作品は最高ですね。

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