全国水族館の旅【47】すさみ町立エビとカニの水族館
きっと人類の多くは甲殻類(エビやカニの仲間)が大好きだと思います。独特な生態や外見に生物マニアが魅せられるだけでなく、食材としてもたくさんの人々に愛されています。
甲殻類について専門的な学習をしたいと思っている生き物好きは、きっと多いはず。節足動物の進化や生態が大好きな方も、エビやカニを食べるのが好きな方も、素敵な知見を得るために、ぜひ和歌山県すさみ町の専門水族館に足を運んでください。
和歌山の海岸で野生のカニを観察!
和歌山県の紀伊半島南部を旅するとなれば、全国屈指の壮麗な海洋環境は絶対に目に焼きつけておきたいですね。
というわけで、関西国際空港に降り立った筆者は、レンタカーで約2時間費やして、お目当てのすさみ町にやってきました。なお、長時間のドライブは疲労が溜まりますので、もし関空スタートされる方がいましたら、適宜休息を入れてまったり向かいましょう。
さて、せっかく美しい海に来たのですから、甲殻類専門の水族館を訪れる前に、ぜひとも野生の甲殻類を観察しておきたいですね。
筆者が狙いをつけたのは、半島から突き出た島・江須崎。人の往来が少ない場所のようなので、野生のカニと出会える確率が高そうです。筆者は高台の駐車スペースに車を停めて、海岸の道を歩いて江須崎へと向かいました。
ターゲットは海岸近くに棲むベンケイガニの仲間たち。島を訪れたのは夏期であり、ちょうどベンケイガニ類の産卵期。7月~9月頃の大潮の夜、カニたちは海に入って一斉に産卵します。
島の海岸部には、きっとたくさんの野生のカニたちがいるはず! 生物マニアの探索センサーを最大限に働かせながら、島内を歩き回りました。
すると、島に入ってすぐに野生のカニと遭遇。ベンケイガニは危険を感じると倒木や石の隙間に隠れる習性があるので、刺激しないようにそーっと近づき観察しました。とっても可愛いし、かっこいいし最高です!
野生のカニを観察したら、水族館で甲殻類の真髄をしっかりと学びましょう。
すさみ町立エビとカニの水族館は、道の駅すさみの敷地内に立っています。水族館の観覧前後で食事や買い物が楽しめますので、紀伊半島の海で素敵な1日が過ごせますね。
それでは、魅力的で謎多き甲殻類の世界へ飛び込んでみましょう。
愛と専門性に満ちた甲殻類のマスター水族館
多様な甲殻類と魅力的な水棲生物のスーパーラッシュ!
甲殻類は昆虫やクモやムカデと同じ節足動物です。形態や生態も多様であり、ミクロサイズのミジンコから全幅(脚を広げた長さ)が3 mを超えるタカアシガニまで、非常に多くの種類が知られています。生息域もとても幅広く、陸上・淡水・海洋・超深海において甲殻類は力強く暮らしています。
人類にとって身近な生命である甲殻類。彼らは、我々の想像をはるかに超えた驚異の存在なのです。
チケットを買って有料エリアに入ると、たくさんのウツボたちがお出迎え。一際目を引くのは、最大級のウツボ類であるニセゴイシウツボ。本館の飼育個体は体重18 kgもあり、かなりの大型サイズです。
壮大で美しい和歌山の海には、不思議でダイナミックな魚たちがいっぱいです。本当に紀伊半島の自然は素晴らしい!
それでは、本館が誇る全国屈指の甲殻類展示を見ていきたいと思います。
「甲殻類=おいしそう」と考えている方は多くいらっしゃると思います。ですが、本館屈指の大型種をご覧になれば、「甲殻類=強そう」と感じられるでしょう。かっこよくパワフルな甲殻類の魅力に、とことん惚れていただきたいと思います。
この勢いでどんどん甲殻類の展示観覧を進めていきます……というこのタイミングで、彼らにとって恐ろしい天敵も現れます。「硬そうな装甲をまとった甲殻類に怖いものなんてあるの?」と思われるかもしれませんが、実はとてつもなく恐ろしい最強の敵が存在します。
それはタコです! 大型のタコ類はエビやカニが大好物であり、水族館でも甲殻類が餌として与えれています。そのうえ、非常に柔らかい軟体ボディなので、カニのハサミ攻撃でもなかなかダメージを与えられません。
甲殻類が恐れるミズダコの威容。ぜひ目に焼きつけてください。
すさみ町ではイセエビ漁が盛んです。豊かな海で育ったおいしいエビの味は格別! 漁師さんの技で獲された海の恵みが、我々の食卓に幸せをもたらしてくれています。
ご当地ということで、水族館にはすさみ町のイセエビ漁の展示資料が満載。イセエビの生態、すさみの第一次産業についてたっぷりと学べます。
甲殻類はエビとカニだけではありません。彼らは実に多様な姿・生態・能力を秘めており、簡単には説明できないほど複雑なグループなのです。グソクムシ類やシャコ類やヤドカリ類など、ユニークで興味深いスターたちを本館の展示で存分に観察してください。
淡水生物飼育が趣味の方の中には、可愛い淡水エビ類を飼うのが好きな人もいらっしゃると思います。見た目の可愛さは美しさ、神秘性は水中の宝石と言っても過言ではありません。
本館の展示水槽には、美を極めた淡水エビ類が大集結。うっとりとした心地で、カラフルな水の妖精たちとの憩いのひときを楽しめます。
同じ淡水甲殻類として、我々の身近にいるのはザリガニです。外来種として問題になっていますが、筆者はアメリカザリガニが大好きです。ザリガニたちはただ生きているだけであり、人間の身勝手に翻弄されて日本に連れてこられた被害者なのです。
今一度、偏見のない純粋な科学の目でザリガニたちを見ていただきたいと思います。そうすれば、彼らの本当の魅力に気がつくはずです。
ユニークな甲殻類の生体展示はさらに続きます。ここからは、なかなかお目にかかれない風変わりな仲間たちの登場です。サイズも姿形もバリエーション豊かな甲殻類は、どこまでも我々を魅了し、生命の神秘を感じさせてくれます。
本館では各種生物の展示を通して、甲殻類の分類について深く学べます。中でも、観覧者の方々に押さえていただきたいポイントは、カブトガニは甲殻類ではなくクモやサソリに近い種類の生き物であるのと、ダンゴムシはエビやカニと同じ甲殻類だということです。
生体を観察し、キャプションを読めば、甲殻類が何者なのかを明確に理解できます。「甲殻類のそっくりさん」であるカブトガニ、「実は甲殻類だと知られていない生き物」であるダンゴムシ。それぞれの秘密を改めて学んでみましょう。
甲殻類たちが導く生命の神秘の世界
中盤戦に入り、展示は佳境! まだまだ甲殻類たちは我々を魅せてくれます。
姿も生態もバリエーション豊富。不思議な種類の生体展示を通して、甲殻類の世界の壮大さが心から実感できます。
本館では甲殻類を「見て学ぶ」だけでなく「触って学ぶ」体験もできます。甲殻類の体に実際に触れ、彼らの命を視覚と触覚で感じ取っていただきたいと思います。なお、生き物ですので強く引っ張ったりはせず、優しく背中にタッチしましょう。
次なる区画で来館者を驚かせるのは、本棚のごとくズラリと並ぶ膨大な展示水槽です。巨大な図鑑のように、多種多様な甲殻類が大集合しており、知的探究心を強烈に刺激されます。
この記事では到底全ての種類を紹介できないので、筆者のお気に入りの子たちをメインにお見せしたいと思います。
図鑑型の水深での筆者のお気に入り紹介は続きます。というか、みんな可愛くかっこいいので、推しだらけです(笑)。生体の観察はもちろん、キャプションも余すところなく読んでいただき、ユニークな甲殻類たちの魅力に浸ってください。
タッチングプールと図鑑水槽に別れを告げ、通路の生体展示の観覧を進めていきましょう。甲殻類はどんどん登場していきます。それぞれの種類は不思議な秘密をたくさん有しており、観察する楽しみ、生態を学ぶ楽しみは尽きることがありません。
そして、来館者の視線を強く集めるのは、特大級のアミメノコギリガザミ。この子はすさみ町の河口にて発見された特大個体であり、甲羅の長さが20 cm以上にも及びます。ここまで大きなアミメノコギリガザミはめったに見ることができないので、ぜひ本館を訪れて巨大カニの勇姿をご覧ください。
甲殻類以外の水棲生物展示も、とっても素晴らしいです。
筆者が特に惚れたのは、アカハライモリの赤ちゃん。親とはまったく異なる姿をした小さな幼生、可愛すぎてたまりません! この萌えは実際に見た者だけが味わえる特権だと思います(笑)。
メイン建屋を一巡したら、外に出て隣の「海の環境学習館」に向かいましょう。ここではすさみ町の自然環境学習ができるうえに、ケープペンギンにも会えます。
学びと憩いの環境学習館。生き物たちに囲まれて、素敵な時間をまったりと過ごせます。
究極の学習体験でした! 生き物好きの人が本館に行けば、瞬く間に甲殻類の虜になってしまうと思います。学術施設で生き物の真髄を知ったとき、強い探究心が芽生えるのだと実感しました。
今後も、自然界の水域へ行って、どんどん甲殻類を観察したいと思います。
すさみ町立エビとカニの水族館 総合レビュー
所在地:和歌山県西牟婁郡すさみ町江住808-1(道の駅すさみ内)
強み:超多種の甲殻類が集結した豪華な生体展示、甲殻類の生態・分類を体系的に学べる専門性の高さ、タッチングプールや図鑑型水槽など生体の魅力を引き出す創意工夫
アクセス面:海岸線の道の駅と同じ立地なので、車がほぼ唯一のアクセス手段です。旅行者の方は、関西国際空港や和歌山市の街でレンタカーを借りて向かいましょう。なお、関空からは車で2時間以上かかるので、和歌山県内での宿泊をオススメします。ぜひ海辺の宿を予約し、優雅なドライブ旅行を楽しんでください。
全国に大勢いらっしゃる甲殻類マニアの皆様に、絶対訪れていただきたい超専門水族館です! 多種多様なエビやカニを生体展示の中核としつつ、陸上甲殻類のダンゴムシや鋏角類のカブトガニも一緒に飼育展示されていて、甲殻類の定義について体系的に理解できます。そして非常にバリエーション豊かな形態の甲殻類を拝めるので、彼らのとてつもない多様性に来館者は度肝を抜かれます。
さらに、館内の至るところに甲殻類に関するキャプションや学術標本が配されていて、一度観覧すれば膨大な量の知識を身につけられます。個々の種類の生態解説がとても詳しく、どんどん甲殻類の魅力に引き込まれてしまいます。
まさしく、甲殻類の専門性の高さではピカイチの水族館だと思います。すさみ町、本当に最高です!