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【長編SF小説】十月は黄昏の銀河帝国

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先に連載した長編SF小説「銀河皇帝のいない八月」の続編。 数々の障害を乗り越え銀河皇帝に即位した女子高生、遠藤空里(あさと)。 だが、その地位は安泰とは程遠いものだった。 空里を…
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記事一覧

十月は黄昏の銀河帝国 ①

十月は黄昏の銀河帝国 ①

プロローグ

 火星軌道に星百合が咲いた。

 百合の花に似た、巨大な鉱物から成る何か。
 だがそれは生きている。
 生物なのだ。
 星百合は超空間に道を造り、星と星の間を繋ぐ。
 そして今、その道の出口であるスター・ゲートを潜って何隻かの宇宙艦が姿を現し、太陽の方向へと舵を切った。
 ややあって、さらに一隻の船が現れてその軌跡を追った。
 両者の行く手に横切るのは、第三惑星の軌道……

 ……だ

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十月は黄昏の銀河帝国 ②

十月は黄昏の銀河帝国 ②

2.銀河皇帝召喚

 ざわめく銀河帝国元老院議会……

 議長ツェガール大公が静粛を求め、クアンタの提議に応えた。
「その調査についての上申書はすでに受領しております。領外宙域であるアサト一世の母星への途上、帝国宇宙軍機動艦隊の襲撃があったと……」
「その通りです。優先順位として、ルージィ卿のご指摘された疑問の前にこの事実を〈法典〉に照らし詳らかにすることが元老院の務めと信じます」
 言いながらク

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十月は黄昏の銀河帝国 ③

十月は黄昏の銀河帝国 ③

3.月面ドライブ

 白い大地と黒い空……

 二つの色しかない世界を、遠藤空里は疾走していた。
 月面車は〈虹の入江〉に広がる月塵の上を順調に進んで行く。
 このバギーのような乗り物は、乗員を守る外装が無いので宇宙服を着たまま運転する必要があった。そもそもが空気のある惑星上で使うための運搬作業車なのだ。
 だが、もうそんなことは気にならないくらい空里は運転に慣れてきていた。

「もう少し進路を右

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十月は黄昏の銀河帝国 ④

十月は黄昏の銀河帝国 ④

4.駆獣機(クーガー)

 まるで今の自分の境遇のようだ……

 元老院専用艦の居住区からドッキングベイへ向かう狭い通路に差し掛かりながら、ミ=クニ・クアンタは考えた。
 四方は元老院警備隊の屈強な兵士たちに囲まれ、逃げようのない状態で道はますます狭くなってゆく……正に、今の窮地そのものじゃないか。
 だが、時間は常に一方通行で流れてゆく。この先に何が待ち受けていようと、歩き続けるしかないのだ……

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十月は黄昏の銀河帝国 ⑤

十月は黄昏の銀河帝国 ⑤

5.バンシャザム

 金属製の三又顎から、人造人間の残骸がぼとりと落ちた。

 最初の獲物を仕留めた部下の駆獣機が隊列に戻るのを待ちながら、ゲイレン将軍は指揮官席のスキャナーで近場に他の敵がいないことを確認した。
 丸腰とはいえ、ソルジャー・ゴンドロウワを抵抗する隙も与えず仕留めるのは簡単ではあるまい。
 だが、我々バンシャザムなら話は別だ。
 駆獣機という強力な武器があるからではない。それを使い

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十月は黄昏の銀河帝国 ⑥

十月は黄昏の銀河帝国 ⑥

6.シェンガ特攻

 駆獣機の頭部から金属製の三又顎が恐ろしい勢いで飛び出す。 

 ネープはすかさずハンドルを切り、すんでのところで荷台に噛み付かれるのを回避した。だが、それもいつまで続けられるか分からない。
 追いすがる三機の駆獣機が立てる地響きと月面車自体の振動で、空里の体は激しく翻弄された。シートベルトをしていなければ、たちまち放り出されていただろう。
 前方からエネルギービームの火線が立

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十月は黄昏の銀河帝国 ⑦

十月は黄昏の銀河帝国 ⑦

7.アベンジャー

「第二分隊が全滅したようです」

 射撃手の報告に、ゲイレン将軍はスコープを引き下ろすと先行して車両を追って行った第二分隊の行く手を探った。爆発に伴う砂塵が低重力下で湧き上がっているのが、かろうじて確認出来る。
「シールドを抜かれたというのか?」
「不明ですが、空襲があったとのことです。攻撃で擱座した一機が残り二機の大破を確認しています」
 機動可搬型とはいえ駆獣機の感力場シー

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十月は黄昏の銀河帝国 ⑧

十月は黄昏の銀河帝国 ⑧

8.アサト出陣

 メタトルーパーは飛ぶように跳躍しながら、カグヤ宮へと向かった。

 ネープはバイザー上に表示された各情報を確認し、シールド発生装置の二機が、敵に破壊されたことを確認した。だが、この破壊ペースでは宇宙から宮への直撃が可能となる前に、空里の脱出を許してしまうだろう。
 敵もそれは承知しているはずだ。だとしたら、その目的は後続する陸戦隊の降下を少しでも宮に近付けることだ。
 案の定、

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十月は黄昏の銀河帝国 ⑨

十月は黄昏の銀河帝国 ⑨

9.プランC

 金属棒を振るって暴れる巨大な人形機械生物。

 その首の部分に座乗し完断絶シールドに守られている人物は、銀河帝国広しといえどもただ一人しかあり得なかった。
「分隊、玉座機に攻撃を集中! シールド内の乗員を確保しろ!」
 ナ・バータ準司令はそこで息を継ぐと、一際強い声で続けた。
「銀河皇帝だ!」
 嵐のようなパルスビームの一斉射撃が、空里を乗せたスロンに襲いかかる。
 だがそれで止

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十月は黄昏の銀河帝国 ⑩

十月は黄昏の銀河帝国 ⑩

10.ブラック・バード

 レイゲン将軍の駆獣機が座礁艦に到着した時には、すでに地上での戦闘はあらかた終わっていた。

 生き残ったゴンドロウワたちは艦内へと撤退し、兵たちは各所からの侵入を試みている。一番大きな突破口であるメインドッキングベイのハッチも、連続射光線砲によって灼き切られようとしていた。
 制圧まではあと少しだが、万一銀河皇帝が小型艇などで脱出を図っても、上空に展開した量子機雷群をか

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十月は黄昏の銀河帝国 ⑪

十月は黄昏の銀河帝国 ⑪

11.三人の魔女

 クナナ=キ・ラと、ヌカカ=キ・ラは、この戦闘を心底楽しんでいた。

 高価な最新型完断絶シールド発生装置を手に、低重力の座礁艦内を舞うように走りながら、先導するレディ・ユリイラの行く手の障害をはらってゆく。
 この特殊なシールドはあらゆる攻撃を跳ね除けるだけでなく、触れた物質を圧壊させる力も持つ、危険なものだった。盾であり、同時に強力な武器なのだ。
 立ち塞がるゴンドロウワた

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十月は黄昏の銀河帝国 ⑫

十月は黄昏の銀河帝国 ⑫

12.スターフック作戦

 追っ手の乗ったリフトが迫る。

 エレベーターシャフトの中を降下しながら、ネープはそれをどう止めるか決めた。
 やはりリフト下部の、反発場発生装置を破壊するのが得策だろう。リフトを支える四本のガイドレールの間には十分な隙間がある。そこから下へ潜り込めば装置に手が届くはずだ。
 ネープは上昇して来たリフトを待ち構えて、その屋根の上に立った。
 次の瞬間、一条の細い光が屋根

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