見出し画像

【光る君へ】第2話感想【ネタバレ含む】

今回の裏のテーマを敢えて見出すならば、「真実と偽りの姿」というところかな?と思いました。

前回の時点から6年が経ち、今回から吉高由里子によるまひろが登場しました。吉高まひろが最初のセリフから衣裳の重さ、儀式ばかりの生活への不満をブーたれていて笑えました。これだけでもキャスティングの妙に満足してしまいます。

そんなまひろは6年前に母を喪った事件、そしてその際の父の対応への不満を引きずっています。父や、父のいる家への反発もあって、恋文として書く歌の代筆業に邁進する日々を送っています。
歌の代筆をするとき、まひろは客から姿を隠し、声音を作って男のふりをしています。女性が外で仕事をすることへの偏見からでしょうか。そんなまひろの下に訪れる客の一人・麻彦が、まひろの作った歌を自分の慕う女性に贈ったところ突き返されてしまったといいます。
そんな中、まひろは三郎――道長に再会します。道長の「お前は一体誰なんだ?」という問いに、まひろははぐらかすように自分の仕事を答えます。まひろは代筆仕事について話しますが、それでは三郎の本当に知りたいことへの回答としては不十分でしょう。まひろはまひろで三郎に素性を尋ねられますが、まひろはその疑問を自ら流してしまいます。別れ際、「好きな人がいるなら、いい歌を作ってあげる」というまひろに道長は「歌はいらぬ」と答えて去っていきます。その返答に当惑したまひろは、去っていく三郎のことを何やら思わし気に見つめます。

麻彦が再びまひろを訪ねます。字の読み書きができもしないのに女性に「できる」と偽った麻彦をまひろは「嘘はいずれあらわになってしまう」と諭し、真実を話すように勧めます。そしてまひろは、その自らの言葉によって道長との会話をフラッシュバックさせます。まひろは麻彦に「歌なぞいらぬ。まことの姿を見せよという意味だったのではないか」と言いますが、その助言はそっくりそのまま、まひろ自身にも返ってくるものでした。ここで道長の言葉の核心に迫ったまひろは心を痛めます。
麻彦はかくして、思い人の心を射止めました。しかし上手くいっているかに思われたまひろの代筆仕事は、今後の出世を見込む父に露見したことでピンチを迎えます。父への反発から仕事を始めたまひろの「代筆仕事は私が私でいられる場所なのです」という主張は本心でしょうが、「まことの姿を見せよ」と他人に説き、そして自らへの戒めとしたまひろにとって、素性を隠して仕事をする自分が本当の自分の姿であるとは、何とも哀しく皮肉なことです。それでも何とか父や見張りの目をかいくぐって出勤しようとするまひろは、道長の窮地にこれまた偶然遭遇したようですが、この後どうなるのでしょうか…。

その他、雑感です。
◆裳着の儀式の後にまひろが読んでいた和歌「人の親の心は闇にあらねども 子を思ふ道にまどひぬるかな」はまひろの曾祖父にあたる藤原兼輔のもので、子を思うゆえに惑う親のひたむきな心が詠まれています。この和歌の意味からしても、そしてその和歌が先祖の手になるものであることからしても、まひろが葛藤しながらも父を理解したいという気持ちが伝わってきます。
◆儀式ばかりの毎日に愚痴ったり、まひろの代筆業の顧客がひっきりなしに現れたりと、この時代ならではの大変さが現代人の目線で伝えられていて面白いです。
◆今回登場した孟嘗君の「家臣に鶏の声を偽らせることによって関所の役人に朝が来たと勘違いさせ、関所を開かせて敵から逃げおおせる」という故事は、史実でも清少納言が和歌に詠んでいます。百人一首にも採られていますね。のちに紫式部は清少納言の漢文の素養を批判しており、紫式部が孟嘗君の話をしていることでそのことを思い出しました。こじつけかもしれませんが、「鶏の声を偽る」というこのエピソードもまた、素性を隠しながら交錯していくまひろやその客、そして道長を暗示しているような気がします。
◆道長がまひろに言った「会えるまで通う」は妻問婚の時代における最大級のストレート求愛じゃないですか!お前、好きな人のこと、ほんとにめっちゃ好きなのね!!
◆詮子は円融天皇の心を取り戻すために和歌を詠みますが、天皇からは拒絶されてしまいます。「文学の力で帝の心を掴む」という詮子の取った戦法はこの時こそ成功しませんでしたが、二人の子である一条天皇の時代には皇后定子、中宮彰子が文学サロンを形成していき、それぞれ清少納言や紫式部など周囲の女房をも巻き込んだ正攻法となり、その延長として生まれたものこそが『源氏物語』です。こうしてのちの時代に文学が帯びた政治性の、いわば伏線となっている場面なのかなと思いました。
◆詮子は東三条殿に下がることにしますが、円融天皇からは懐仁親王は宮中に置いていくように命じられてしまいます。兼家が入れ知恵した、「皇子を人質にとって退位を促す」という戦略は天皇には見抜かれていたようです。彼女はこの先「母として生きよ」という天皇の言葉通り、一条朝になってからは国母として政治を左右する権力を備えた女性となっていきますが、それがこの時に言われた言葉通りなのかと思うと…この先予想される展開に切ないものを感じます。
◆師貞親王が母娘と関係を持ったというトンデモな話はたしか即位後のことだった気がするのですが、即位前のエピソードとして持ってきています。そのことを為時が兼家に報告し、兼家に懐仁親王の即位のための陰謀を決意させる…というストーリーに仕立てたようで面白いです。
◆詮子は使用していた局(部屋)の名前から「梅壺の女御」と称される一方、散楽では「アキの女御」と呼ばれています。「アキ」は「詮子」という名前から来ているものですが、『源氏物語』にも「梅壺の女御」なる人物が登場しており、彼女は立后後に「秋好中宮(あきこのむちゅうぐう)」と呼ばれるようになります。そういうわけで、源氏物語との連想が今回も出てきているようです。
◆「嘘を謝罪することによって仲良くなるかもしれない」という助言は、まひろの少女時代を踏まえたものですね。
◆前半で兼家は天皇に「都にはびこる窃盗犯を検挙するために、盗賊をとらえた役人に褒美を出す」ことを進言し、兼家を嫌う実資もその意見を評価します。しかし後半で三郎は、ある男が盗みの冤罪をかけられている場面に遭遇します。役人が褒美めあてで盗みの罪をでっちあげる有様となり、兼家の進めた政策は褒美が却って裏目となってしまったようです。政治をつかさどる貴族社会がいかに民衆の実態から隔絶されているかが推して知れます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?