英文学とラノベの融合【読書感想文】ジャスパー・フォード『文学刑事サ-ズデイ・ネクスト (1)ジェイン・エアを探せ!』(2005)
初回は20年以上前、訳本を読んで強く印象に残っていたが、今回は Jane Eyre を読んだのをきっかけに、満を持して原書で読んでみた。
内容はほとんど忘れてしまっていたが、まごうかたなき傑作だった。
舞台は、第一次大戦も第二次大戦も起きておらず、クリミア戦争(史実では1853-1856)が今も延々と続き、ウェールズが独立し、飛行船が空を飛び、シェイクスピア劇を本当は誰が書いたのかが人々の最大の関心事になっているパラレルワールドのイングランド。
両方の作品のネタばれになってしまうが、この小説の世界の『ジェイン・エア』は実際のものとは結末が異なり、この小説を愛する主人公がそれを変える(読者にとっては正規のものに戻す)ことが、同時にこの作品のクライマックスとなっている。
しかも本来の『ジェイン・エア』のクライマックスは、言われてみれば相当にヘンな代物で、それはこの小説の主人公サーズデイ・ネクストが介入することによってつじつまが合う様になっているのだ。
『ジェイン・エア』を読んだことがなくても十分楽しめる小説だが、ぜひ一読してからこの小説に取り掛かってもらいたい。
難しいのは、歴史改変、数々のSF的ガジェット、バンパイアハンター、時間捜査官、軍事産業と政府の癒着など、ラノベやアニメのようなエンタメ要素を詰め込みながら、主人公は37歳の純文学好きの女性で、大人の恋愛がきちんと描かれてもいる、というように、読者層を想定しにくい点だ。
イケメンも美少女も登場しない。この小説のイングランドでは、古典文学が最高の娯楽で、驚いたときには神の名ではなく「ディケンズ!」と叫ぶのだ。
英文学科卒で、正統派SFやファンタジーはもちろん、80〜90年代のラノベ(2000年代のウェブ小説、転生モノはノータッチ)を読んでいた私のような人間にはドンピシャだが、世間的にはあまり多くない人種だろう。『ジェイン・エア』を読んだことのある人にはぜひ読んでほしいけど、おすすめもしにくい。
しかしテイストとしては、『ビブリア古書堂の事件手帳』シリーズに近いかもしれない。
シリーズは7作ほど出ているようだが、次作を読むにはまたいろいろ準備が必要なのでひとまず置いておいて、次は購入済みの『高慢と偏見とゾンビ』を読むために『高慢と偏見』を再読するつもり。
97点。