藤子不二雄Fと諸星大二郎と原哲夫【読書感想文】小田雅久仁『残月記』
朗読。
『月がふりかえる』
自分によく似た人間と入れ替わってしまい、ささやかな家族との幸せを失う恐怖を描いている。
『世にも奇妙な物語』風であり、藤子不二雄Fの作品のようでもある。3篇の中では一番面白かった。
92点。
『月景石』
不思議な石の力で月の世界を行き来するSFダークファンタジー。
前半の、語り手と叔母、語り手と恋人との関係を描いたパートが面白い。しかしそれが月の世界のパートでうまく生かされていない感じがした。
1話目もそうだが、日常に忍び込む違和感や、人のちょっとした表情や癖を描くのがとてもうまい。エンタメ作家にしておくのがもったいないくらい。
諸星大二郎に漫画化してほしい。
85点。
『残月記』
筆力で読ませるが、既読感のある近未来ディストピア小説。ゲームっぽくもある。
退屈ではないが、新味はそれほどなかった。後半は愛の物語寄りにし過ぎか。
原哲夫に漫画化してほしい。
90点。
どれももうひとつ完成度に不満があるが、まだまだ伸びそうな作家さんだ。
朗読については、人物ごとに声優が割り当てられていて、効果音やBGMが入るのは、イメージがアニメやゲーム寄りに限定されてしまうので、個人的にはノーサンキューだった(ドビュッシーの『月光』の使い方はとてもよかった)。
これは大きな問題だと思う。
無数にある小説について、朗読や演出のバリエーションに無限の可能性があって、正解が見えないけど、シェイクスピア作品のように個々の作品に無数のバージョンを作り続けるわけにもいかない。
でも近い将来、読者が聴きながら随時カスタマイズして、朗読が自動生成されるようになって、それがプレイリストとしてスポティファイて共有されるようになるかもしれない。
それでも私は無機質な合成音声を好むだろうか。イメージを限定せず、想像を掻き立てるために。