#95 昔からの霊感が不意に発動した夜
みなさんの中には「霊感があるよ」という人もいらっしゃると思う。実は僕も少しある。見えたり聞こえたりということはなく、「境界線が分かる」という珍しいタイプだ。人にとってどうかは分からず、自分との相性だけが分かる、自衛隊みたいな霊感かもしれない。
霊的なもの
霊的なものに対する態度は、個人によってかなり異なると思う。キリスト教などの一神教の場合は認めない、信じない人が多く、八百万の神の日本では「そういうことも、あるかもね」という態度の人が多いような気がする。僕は、各種占いや占星術にはあまり興味はないが、いわゆる「気の流れ」のようなものは、自分の体が実際に反応するので、存在するのではないかと思う。あるいは、存在すると考える方が毎日の生活が豊かになると思えるので、それでいいか、という態度でいる。
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元気が出ないときは、好きなものを眺めて。
ここしばらく、なんだか冴えない日が続いていた。そんな時、友人の長橋知子さんの記事「元気が出ないときは、好きなものを眺めて。」を読んだ。
長橋さんは文具がお好きで、ある日ふと立ち寄ったホームセンターでペンのセットを眺めていたら、帰りの足取りが軽くなったという内容だ。これを読んで、「そうだ!」と思い立った。僕の場合、囲まれているだけで幸せなもの、それは楽器だ。自分が演奏しない楽器でも、とにかく楽器屋さんにいるだけで幸せなのだ。
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世界で一番音楽が身近な日本
仕事で20カ国ほどを訪ねて、僕の知る限りでは、日本ほど音楽や楽器が日常にあふれている国は見たことがない。東京近郊で電車に乗っていると、楽器ケースを持っている人を見ないことの方が少ない。他方、クラシック音楽の本場であるはずのドイツには名門オーケストラや音楽大学も多いが、なんというか「特別な人のもの」という感じで、日常に音楽があふれている感じはしない。
街中でクラシック音楽のコンサートのチラシが貼ってあることも少なく、楽器ケースを抱えている人もあまり見ない。統計によると、日本では吹奏楽、合唱、バンドなど全ジャンルを含めて、中学・高校で音楽演奏に関わったことのある生徒の比率が約10%で、これは世界中でも際立って高い。世界最大の楽器メーカーであるヤマハが日本で育ったのは納得がいく。しかし同時に、音楽を志す学生が音楽で食べていけている率が低いのも、日本の特徴だ。分母が大きいからだろうか。
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「気」にあたった!
フランクフルト中央駅からトラム11番線で30分弱、Session という楽器店に向かった。自分が演奏する管楽器はなさそうだが、そこそこの規模のお店らしい。日本にいる頃も、「なんだか調子が悪いな」と思った時は、休みの日に楽器屋回りをしたものだ。楽器屋にはなぜか共通の「におい」があり、それに囲まれていると安心して元気が湧いてくる。
しかし、中央駅を出て10分くらいした頃、異変を感じた。最初は、寒いから風邪気味なのかなと思ったが、しばらくするとそれは確信に変わった。「自分が入るべきではないエリアに入った」と身体が告げている。上で僕の霊感は、「境界線が分かる」霊感だと書いたが、それは「ここから先には入らない方がいい」「ここから先の土地は、自分とは合わない」ことが分かる感覚だ。「土地の気」との相性が悪いと、急な吐き気を感じることが多い。
その後、楽器店 Session の店内を30分ほど回った。一番素敵だったのは、アコースティックギター売り場。録音機材コーナーでは、かつて勤めていた会社の機材も見つけることができた。しかし、イタリアの Daminelli、オランダの Music All In、ドイツの Thomann、あるいはヤマハや山野楽器の銀座店と比べれば、申し訳ないがコンビニ程度の楽器店だった。
「早く帰ろう」と思って表に出ると、さらに気にやられる。店内では「合わない土地の気」が「楽器店のプラスの気」で多少緩和されていたのだろう。何か悪いものを食べた時のような吐き気が続くので、すぐにトラムに乗り込んだ。
悪い気から避難する方法
「悪い気」から逃れる方法は、僕の場合二つある。一つはなんといっても物理的にその場所から離れること。その日は、Session のあるエリアからトラムで15分くらい戻ってくると、多少吐き気が引いてきた。でも、このままではダルムシュタットまで帰るまでに車内で吐いてしまいそうだ。
次の方法は、「人混みに入って、悪い気を肩代わりしてくれる人に渡してしまう」あるいは「自分にとってプラスの気があると分かっている場所に移る」ことだ。これは、霊感がある人は意外とみんな実行している方法なはず。異なる種類の人(人種、性別、年齢、職業、思想)が混ざっている場所ほど、誰かに肩代わりしてもらえる可能性が高い。
フランクフルト中央駅に着くと、駅の人混みの中をしばらく歩き回り、少し体調が回復するのを待って、いつも行く駅近くの大好きなドイツレストランへ行った。そこで夕食を食べているうちに、体調は回復した。
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境界線の神様
日本にいて車で走っていても、「この交差点から向こうは自分と気が合わない」と分かることがある。そのことに気づいたのは大学生の頃だ。逆に、「このエリアにいると、守られている」という場所もなんとなく分かる。その意味で、今住んでいるダルムシュタットはかなり相性がいい。霊感と呼んでいいかどうかは分からないが、昔からの感覚を確認し、同時に自分が住んでいる場所との良い相性を確認した夜だった。
実は少し調べると、ローマ神話にも日本神話にも、「境界線の神様」が存在する。今度ちゃんと調べて、お祀りしている神社に詣でてこようか、と思う。
今日もお読みくださって、ありがとうございました🎸⛩️
(2023年12月3日)