二日目のカレー
金曜日はカレー曜日。
ひと月に一度くらいの頻度で、我が家にはカレー曜日がやってくる。
我が家のカレーはひき肉のカレー。トマト缶を1缶まるっと入れた、ひき肉とトマトのカレー。にんじんもじゃがいもも入らない。入るのはスライスした玉ねぎとひき肉とトマト缶のみ。
朝のうちに具材をぐつぐつ煮ておいて、粗熱を取ったらすぐに夜まで冷蔵庫で待機。帰宅後すぐに鍋を冷蔵庫から出して、再びぐつぐつしてから、カレールーを入れてすぐに食べる。再び粗熱を取ったら、タッパーに入れてそのまま冷凍庫へ。
二日目のカレーはいつでも冷凍庫で眠っている。
彼ーらはウェルシュ菌の繁殖を抑えるため、休眠状態に入るのだ。起こされた時、それが彼ーらにとっての二日目だ。
二日目の彼ーらは、レンジに放り投げられる。わけもわからずマイクロ波を浴びさせられ、彼ーらの内に潜む水分子をフルフルと振動させていく。彼ーらはじわじわとマイクロ波のエネルギーを吸収し、温度を上げて、ぐつぐつと怒り狂い始める。少しばかり粘着質な彼ーらは、ぼすんと頭から何かを噴射する。
私は危険を察知し、彼ーらがこれ以上怒り狂って、電子レンジの中を彼ーらまみれにしないように、さっと、ストップのボタンを押す。
私は彼ーらをマイクロウエーブの襲来から救い出すと、次は鍋に入れる。次なる彼ーらの敵は電力発生コイルである。私には全く理解ができないが、インダクションヒーティング対応の鍋は電力発生コイルの活躍により熱を帯び、鍋に入れられた彼ーらは再び沸騰させられるのだ。
私は彼ーらが……
と、ここまで書いてみて何を書きたいのかが全くわからなくなったので、仕切り直し。
冷凍しておいたカレーを温め直し、ごはんの上にカレーをたっぷりとかけて、真ん中に卵ポケットを作ってナマタマゴ(ナマタマゴは志村けんコントをする研ナオコ風で再生をお願いします。好きなんです。ぬぁむぁたむぁごぅ)をポトンと落とす。卵の周りにチーズをたっぷり乗せてから、トースターでチーズに焦げ目がつくまでしっかり焼く。
二日目のカレーで作る焼きカレーは、たいていがお昼ごはん。
じくじくと沸騰する焼きカレーをトースターから取り出すのは至難の業。湯気が立ちのぼるアッツアツの焼きカレーを食べるのは勇気がいるけど、できたてを味わいたい。こんがりと焼けたチーズとカレーとごはんをスプーンですくって、スプーンの上に小さな焼きカレーを作ると、ハフハフしながら口の中に放り込む。程よく水分の飛んだ味の濃いカレーとこっくりとしたチーズがごはんにしっかりと絡んで、口の中が美味しいでいっぱいになる。
カレーは皿で混ぜて食べたい派だけど、焼きカレーは混ぜずにスプーンで小さい焼きカレーを作るのが楽しい。バランスよく食べていって、真ん中の卵は崩さずに外堀から崩していく。少し味変をしたくなったら、卵のはじをスプーンで崩すと、卵の黄身がとろりと流れてくる。卵が辛口のカレーに絡んでまったりとした味わいに変わる。半熟になった卵の真ん中の部分は、それだけで食べたいから、ほとんど最後まで手をつけずに取っておく。
ここから少し私の葛藤が始まる。
卵が最後か、カレーが最後か。大抵の場合、カレーの勝ち。だって焼きカレーだし、締めはカレーだよね、ということで半熟の卵を食べてから、最後にスプーンにバランスよく乗せられたチーズとカレーとごはんを一口で食べる。
こんなに幸せな昼食があっていいのだろうか、という満足感のもと、私は二日目のカレーを食べ終える。満腹になったところで、キンキンに冷えた水が入ったグラスを傾け一気に飲み干して、私の幸せなカレー曜日は終わりを迎える。