伝える前に、伝える内容を顧みよ:『論破力より伝達力 人を動かす、最強の話法』(1/2)【間違いだらけの読書備忘録(12)】
こんにちは、さらばです。
備忘録3冊目です。
上念 司『論破力より伝達力 人を動かす、最強の話法』
2022年11月初版と、珍しく(?)わりと最近の本です。
著者は経済評論家の上念 司さん。Webでこの方の記事を幾つか読んで面白いと思ったのと、「伝える」ということには並々ならぬ興味があるので、タイトルに惹かれて手に取りました。
思てたんと、ちょっとちがう
まず読み始めてすぐに「んん? 思てたんとちょっとちがう」と思いました。ただし、いい意味で。
どう違っていたのかを説明する上では、本書のあとがきにある文章を引用するのが早いでしょう。
つまり、読み始める前のわたしは「言葉の使い方」みたいな、直接的な伝え方のテクニックみたいなものが書かれた本なのかな? と思っていたのですが、実際には「伝わるかどうかは、ほとんど準備で決まる」みたいな、間接的な伝え方のテクニックが書かれている本でした。
いや、直接的な話も出てはくるのですが、あまり印象に残らないというか、明らかに上念さんの熱の入り方が違う感じがします。
で、あとがきを読んで「ああ、やっぱそうなのか」と納得した次第です。
正直な話、直接的なテクニックを知りたい願望があったというより、「趣味:戦略」なわたしからすると、チームで戦略を議論するときとか、つくった戦略を実行するためのチームビルディングとか、そういうものを行うにあたっての思考を加速させてくれるネタがあればいいなあ、と思っていたので、そういう意味で期待以上の内容でした。
経営者と管理職と担当者の役割
本書は恐らく、企業の中間管理職くらいのレイヤーのひとたちを想定読者として書かれており、部下を動かすといった視点で話が展開されます。
その想定読者であろう"上司"に対して、上念さんは第一章の冒頭から「上司の話はつまらない」と切り出します。
部下にとって上司の話はつまらないのが当たり前で、にもかかわらず多くの上司がそれを理解していない。部下が面白そうに聞くのは、そこが会社であり、あなたが上司で部下か部下だから……といった話が展開されます。
なぜこの話が冒頭に来るかというと、そもそも「伝わるとか伝わらないとか以前に、伝える価値のある内容を伝えようとしているのか」ということを本書では問題にしているからです。
伝える価値のある内容というのは、部下にとってインセンティブ(利)のある内容で、それは突き詰めると「部下が成果を上げるのに役立つ内容」ということになります。
部下の役割は「成果を上げる」ことで、上司の役割は「部下に成果を上げさせる」こと。だから上司は部下が成果を上げられるよう、適切な指導やサポートをしなければなりません。
無茶な目標を押し付けて、達成できなければマジギレするような上司は自分の役割を勘違いしています。
ただし、上司が部下に成果を上げさせ、部下が成果を上げるためには、もっと上のレイヤー……つまり経営層が「儲かる仕組み」を作れているかが最も重要です。
つまり各レイヤーの役割はこのようになります。
経営者が役割を果たしていなければ、上司は伝えるべき内容を持ちません。そうなると当然部下は成果を出せません。しかしこういう会社に限って、問題解決を部下に丸投げしたり、精神論を持ち出したりします。
だからまず「あなたの会社には、伝えるべき価値のある内容があるのか?」ということを考えるべきだと本書は教えてくれます(そしてそれがない会社なら辞めたら? と率直にすすめています)。
ひとは大義名分があれば動ける
伝えるべき価値のある内容、それを上念さんは「大義名分」という言葉で表現しています。
ひとを動かす原動力はインセンティブで、インセンティブを喚起するのが大義名分です。そして大義名分とは「仕事の意義」や「企業の存在価値」や「儲けのメカニズム」などに紐付く内容です。
これらを高頻度で伝えることで、企業の従業員は主体的に動き出し、成果を上げやすくなるとのこと。
ただしこれを成立させるためには、まず経営層が上司に伝えなければなりません。それができて初めて上司が部下に伝えられるようになります。
「あなたの会社には、伝えるべき価値のある内容(儲かる仕組み)があるのか?」
「それを経営者が上司に伝える努力をし続けているのか?」
というふたつの問いをクリアして初めて、本書でいう「伝達力」が生きる可能性が出てくる……というような内容に本書の半分近くを費やしているのですから、わたしが「んん? 思てたんとちょっとちがう」と思ったのも不自然ではないでしょう。
と、いうわけで続きは次回。
お読みいただきありがとうございます。
さらばでした!
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