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鹿島槍天狗尾根遭難の報告書から学び取ったこと(原文)⑰

学習院大学山岳部 昭和34年卒 右川清夫

⑨ 黒田正夫氏の雪崩体験記より(山と渓谷昭和.27.12月163号)

 現象が起こってから、その原因を考えることは割にやさしい。 しかし遭遇する前に知ろうとする事ははなはだ難しい。 まして予防しようとすることは不可能と云ってよいかもしれない、雪崩予知の研究もなされつつある。 出そうな場所について雪崩が出た直後そこの地形と積雪の性質についてはかることが第一だ。 黒田氏の経験した雪崩の原因はつるつるに凍った雪面に、融着することなく新雪が積もったために、一番滑りやすい状態にあった。 雪自身の重みだけをそのつるつるした面と雪との間の摩擦でやっと支えていたのを、そのときはスキーで新雪を切って、上下の縁を切って離し、そこに人間の重みが加わったのでひとたまりもなく滑り落ちた。

 このさい、ただ、底面の摩擦力だけで支えられていると思うのは間違いで上下左右の傾斜の緩いところにある、より安定的な積雪層が下から押し上げ、上から引っ張り、横からも引き上げていると考えなくてはならない。 それをスキーできってしまうから下の方の積雪層は押されて崩れてしまう。 すると下のささえがなくなってしまうので、上の層も崩れおちると云うことである。

 傾斜の上に底面が密着している粉体はある厚さになると、自分の重みで崩れ落ちるその限界は、傾斜角と厚さと雪質で定まり、急なほど薄くて崩れる。 相当の傾斜なら10センチ、普通の傾斜なら20センチ~30センチで崩れる。 もちろんこれは旧雪の上に新たに積もった新雪の厚さである。 これが思いがけない厚さに達すると思いがけないゆるい傾斜で崩れる。 と体験記を書かれている。

黒田正夫氏 雪層断面図(スケッチ)

 また同じ山渓で“冬山の気象”で高田測候所長の国井幸次氏は、低温で多量の降雪が急斜面に積もると積雪の内部摩擦が小さいから流動現象を起こすことがある。 これを乾燥新雪雪崩などと云っている。 これは厳冬に多い。 次に気温の上昇や温かい南風のために湿雪となったものが起こす雪崩で、これを湿潤新雪雪崩と云っている。

要するに山岳の気候変化が平地と異なる点は
①  平地の気候変化と反対であること
②  気圧は高さとともに逓減する事
③  強風がいつも吹いていること
④  天気変化が激しいことなどである

 黒田氏、国井氏、らの教訓はこれからの冬山登山にかかせない貴重なアドバイスと受け止めて、鹿島槍遭難に関連して学んだこととして素直に受け止めたい。

「鹿島槍天狗尾根遭難の報告書から学び取ったこと(原文)⑯」から

「鹿島槍天狗尾根遭難の報告書から学び取ったこと(原文)⑱」へ

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