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鹿島槍天狗尾根遭難の報告書から学び取ったこと(原文)⑮

学習院大学山岳部 昭和34年卒 右川清夫

永田 専修大学山岳部のテントはどの辺に。
小谷 私たちよりずっと上だと思います。 天狗の鼻には私たちだけ。 なおかつテントを動かしました。
永田 降る雪が多くて、ですか。
小谷 そうです。 みんながいるうちでしたよ。 みんながいても強風雪で苦労して動かしたくらいです。 だから4人がいなくなってからは、朝から晩までこっちを掘れば、あっちといった具合で。 寝ていてはテントがつぶされてしまうのだから。 それはきつかったね。 ある報告書の記述の中でテントに入って就寝なんて書いてありますが、こっちは寝ずに雪をかいていたんです。
右川 雪は結構湿っていた?
小谷 いやいや。 ガスっていたというより吹雪いていた方が多く、粉雪よりは湿っていました。 視界が無いくらい吹雪いていました。 簡単にいえばブリザードですが。 雪の状態は時間によって変わりました。
右川 星野さんの云う、雪庇の形成はあったのですか?
小谷 無いと思いますよ。
舟橋 実際に自分の目で見て雪庇がずれ落ちたと、断層を見たという事は誰が言った。 わたしは見ているよ。
小谷 気を付けて見れば後から行った人たちはみんな見ているはずですよ。 テント取りに行った者はもちろんです。 天狗の鼻はこういう形をしているんだよ。 ここからこっちに尾根が出ているんですよ。 テント張ったのはここに張ったんですよ。 いま問題になっているのは、ここにずーっと亀裂が入っていたと云う事ですね。
舟橋 じゃあ、これは雪庇じゃないんだ。 断層なんだ。 ずり落ちたあとなんだ。
小谷 そうだと思います。 このあたりは登って行く時、クマザサが出ているような尾根を登って行ったのです。 亀裂が入っていたところは熊笹がオーバーハングのように生えていたところです。
舟橋 おれたち下から見ているから雪庇だけのように見えたけど。
小谷 そう、みなさんがご覧になったのは、この尾根をこの辺から見ているのでしょう。 景色は眺める位置で大いに異なりますからね。
贄田 星野さんが言っていたけど、天狗尾根はちょっと右に曲がっていると。 それをまっすぐに行っちゃった。
小谷 そうですかね。 あなたの推察に対してわたしはそうですかねと言うだけです。 こうした点をいまさら細かく究明したってしょうがないんでしょう。 みんながそれぞれに推察してみても4名が浮かばれるとは思えない。 私は話したくないな。
(中略)
舟橋 下から見たのとは違うんだね。
贄田 この距離がどのくらいあったんですか?
井ケ田 僕の記憶では20mあったかどうか。
贄田 音は聞こえなかったのかなあ。
舟橋 雪庇の崩落と間違えるくらいだから。 音もあっただろうな。
小谷 じゃあ、もう少しくわしく言うと、その彼らが出て行ってから、ある時間たって、ものすごい大地響きがしました。

_おお、と嘆息_(出席者全員)

小谷 それはそうですよ。 ここから落ちているんだから。 距離は約1000m近く落ちているんでしょうし大量だから。
贄田 僕も音がしたと推察したんだよな
小谷 音がしたというのと地響きはちがうんだよ。 一日ここにいて、音イコール雪崩イコール彼らが遭難とは、連想したくてもしたくなかったんですね。
(後略)

鹿島槍ヶ岳遭難究明座談会(2010年7月25日)議事録より抜粋③

「鹿島槍天狗尾根遭難の報告書から学び取ったこと(原文)⑭」から

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