音姫
外出先のトイレに行くと、もう必ずと言っていいほど【音姫】が設置されている。いわずもがな、用を足している間に流水音が流れるというあの機械です。
今思えば、小学校高学年くらいから一部の女子を中心に「トイレで用を足している音が外に漏れるのが恥ずかしい」なんて話題が出るようになってきた。そして、中学生くらいになると用を足すときに一度、個室から出る前にもう一度、トイレの水を流すことは暗黙の了解になっていた。
わたしはたまたま友達との会話で「トイレのとき、水2回も流すの面倒だよねぇ」と話題に上がったことがあって、そのとき友達に「なんで水流すの?」と尋ねて教えてもらったからこの暗黙の了解を知っているけれども。友達に尋ねなかったら、この暗黙の了解には気付けずに大人になっていたかもしれない。
というのも、聴覚障害のあるわたしは、トイレで用を足す音というのが聞こえない。正確には、補聴器のフィッティングによっては聞き取れないこともある。補聴器は、人の話し声以外の雑音をカットするように調整されていて、トイレで用を出す音の音域はカットされがち。
ましてや、壁を隔てた他の個室の音なんて全く分からない。だから、自分の用を足す音が隣の人や外で待っている人に聞こえているだなんて、その時まで全く知らなかった。なんと恥ずかしい‼︎‼︎‼︎
それで、友達に教えてもらってからは極力水を流してトイレに入るようにしていた。そして、音姫なるものが設置されるようになってからは、音姫を押してから用を足す。
のだけれども、いかせん自分は周りの個室の音なんて聞こえないから、音姫を押し忘れることがしょっちゅうある。それでこの前聞こえる友達に「みんな、律儀に音姫使ってるの?」と尋ねてみた。
そしたら衝撃的な返事が返ってきた。
「音姫ねぇ。座ると自動で流れてるよ。」
え?なにそれ。いちいち手をかざしたりボタンを押したりしなくても、音姫の音は流れていることがほとんどだとのこと。なんと。
そんなわけで、トイレに入ってほっと一息チョロチョロ……の時点で慌てふためいて音姫を探して手を添えなくても、そんなに恥ずかしい思いはしていないことが発覚したアラサーの春なのでした。
ちなみに、同じ難聴の友達ともこの話題になったんだけどみんな「音姫の使い方は、学校の先生に教えてもらった!」とか「音姫、存在は知っているけどなんのためにあるのか知らなかった!」という声をよく聞く。そんなもんです。
そういえば、消防署の近くとか高架の近くとか音問題で人気のない部屋も、わりと気にせず借りがちだよね。聴覚障害者たち。