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2022 立冬 山茶始開(つばき はじめて ひらく)
お茶の世界にはいくつかの作法が散りばめられていて、そのうちのひとつが、お茶をいれた茶杓に銘をつけること。季節を表す季語や、和歌銘・禅語銘・風流銘……といろいろあるのだけれども、特に薄茶のお稽古の際には季節の言葉を添えるのが通例で。
わたしも例に倣って、行きしの電車の中で茶道手帳に載っている言葉をスマホで調べては、その日のお稽古で使う銘を考える。
ちなみにこのマガジンは、途絶えた時期もあったけれども、なんとか立て直して、以前からお稽古をした日の二十四節気と七十二候をタイトルにしていて。
二十四節気は、今回の「立冬」のように暮らしの中でも身近な言葉たち。でも、月に3回程度お稽古に行くので、それよりもう少し機微な変化を感じられるように七十二候も併記している。
【二十四節気】
全体を春夏秋冬の4つの季節に分け、さらにそれぞれを6つに分けて、節気と中気を交互に配した暦のこと。
【七十二候】
二十四節気の各節気をさらに約5日ずつの3つに分けた期間。気象の動きや動植物の変化を知らせる短文でなり、古代中国で考案された季節を表す方式の一つで、日本に渡来してからは日本の気候に合わせた内容になっている。
11月7日から11日までは、はじめて冬の気配があらわれてくる頃。銀杏の葉が黄色く色づき始め、紅葉(もみじ)が見ごろとなる立冬の初候、山茶始開(つばき はじめて ひらく)とのこと。
「山茶花」はさざんかなのに、「山茶始開」はつばきって読むの不思議よね。自分でもよくわからなくなってしまったから、とりあえずここ最近は小春日和だしと、今日の銘は「小春」にした。この季節は、なんとなく「小春」を選びがち。
さて今回は、炉開きをして初めての炉を使ったお稽古。だから、難しいお点前とかはなしに、まずはスタンダードなお薄とお濃茶のお稽古をしていただいた。
炉になると正面が変わったり、お湯を汲む柄杓の深さが変わったりと、「あぁ、そういえばこんな感覚だった」をじっくり取り戻す時間。先日のお茶事のお礼にわたしが持って行ったお菓子と先生が用意してくださったお菓子をいただきながら。
そういえばこのお菓子、いつもは先生がご贔屓にしている和菓子屋さんから「お稽古用に」とまとめ買いしているものを使っている。けれど、今月はお茶事もあって、その注文は一旦ストップ。先生がわざわざデパートの和菓子屋さんで買ってきてくれたとのこと。
箱を開けると、色とりどりの練り切りたちがキラキラと並んでいた。
「あなたは、どれにしたいの?」
と尋ねてくださるもんだから、あれやこれやと悩んでいたんだけれども、そんな様子を見た先生はそのうちのひとつを手に取って
「わたしはね、あなたにはこのお菓子をと思って買ってきたのよ。華やかで可愛らしいでしょう。」
とニコニコしていた。
なぁんだ。最初から先生の中では決まってたんだ、と拍子抜けしつつ、その桃色のきんとんを受け取って茶室へ向かった。
でも、お茶を点てながらよくよく考えたわけです。
実家へお土産にケーキを買っていくにしても「母にはチーズケーキで、祖父にはショートケーキで……」みたいに、相手の顔と好きなものを思い浮かべながらひとつひとつ選ぶじゃない。
ってとは、これは、その、つまり、デパ地下の和菓子屋さんのショーケースの前で、先生がわたしの顔を思い浮かべながら「これ、ひとつ」と注文してくださっていたということですよ。これは……!
なんて事実に気付いて浮かれていたら、夏よりも深くなった柄杓でお茶碗にたっぷりとお湯を注いでしまって、それはもう大服のお茶を点てることになってしまったのでした。
茶釜でブクブクさせたあっついお湯は、じんわりと、わたしたちをあっためてくれました。えへへ。
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