2021.07.17 鷹乃学習(たかすなわちがくしゅうす)ー水の音の涼しさをみるということー
ついに関東も梅雨明けしたとのことで、東京の気温が炎天下30度越えした今日も、わたしは足繁くお茶のお稽古に勤しんでいた。
今日は、かの篤姫が、井伊直弼に茶を振る舞ったときにされたお点前とも呼ばれる貴人点前と夏の訪れを感じさせる洗い茶巾のお稽古。
この「洗い茶巾」のお点前は、お茶碗の中に水を仕込んで、茶巾を取り出すタイミングで水の音を楽しむ。昨年の夏にお稽古していただいて以来、二度目のお点前。
前回の「2021.07.10 温風至(あつかぜいたる)」でも触れたけれど、茶室の外の世界で移りゆく季節に合わせて、お点前は変わってくる。そして、特に「水」や「湯」を扱うときには「音」を楽しませることを忘れない。
お茶の先生もわたしに聴覚障害があることはご存知で、還暦なんてとうの昔に過ぎてしまっているけれど、わたしへの連絡はいつもメールでくださる。焼き物の種類、「膳所(ぜぜ)焼き」なんていうわたしが全く聴き取れない濁音なんかを説明するときにも口の形を見せてくれたり「ほら、”せ”に点々よ」なんて言い換えてくれたりする。
「あなたも、きこえにくい以外はみなさんと同じ生徒ですからね。」とこのご時世も相まって一対一で、でもどこも省かずに丁寧に説明してくださる。
そしてそれらと同じように、「今のお湯の組み方は、音が鳴っててだめよ。この音は、下品だもの。」とか「蓋置が竹のときはコンっといわせて、瀬戸のときは音を鳴らさないのよ。壊れちゃうでしょ。」なんて、見てもわかる理由をも添えて音のマナーも見てわかるように教えてくださる。
きこえにくいから音についての作法は省きましょう。なんてことはない。
この洗い茶巾のお点前でも、先生が昨年のお稽古のときに
「水のチョロチョロっていう音が、涼しさを感じさせるのよ。見てごらんなさい。水の線って綺麗でしょう」
とおっしゃっていたことが、ふっと脳裏をよぎる。
そんなことを考えながら水の入った茶碗から茶巾を取り出して、水の線がスッと茶碗に流れていく様子を眺める。そして、ほんの一瞬の静寂の後に、先生がぽろっとおっしゃった
「あら、涼しい音が出せるようになったじゃないの」
とのひと言に、思わず笑みが溢れてしまう。
わたしも今、チョロチョロという音を吹き込んだこの水の線に涼を感じたような気がします。
なんて思ったけど、これを言語化していたら、多分次のお点前をド忘れしてしまう。「ありがとうございます」というひと言に留めて、お稽古に戻った。
お稽古を終えて窓の外に目を向けると、緑色のはち切れそうなブドウが実っていた。先生曰くこの葡萄は巨峰で、これから紫色に変わっていくらしい。
「次にあなたがいらっしゃるときには、紫色になっているんじゃないかしら」
なんて教えていただいたので、次のお稽古に行くときの楽しみが、またひとつ増えた。