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2021.10.17 菊花開(きくのはなひらく)お菓子とお茶と雑念と。

「お茶を習っている」と話をすると、結構な確率で「おいしいお菓子を食べられるんでしょ?」と尋ねられる。それはあながち間違いではない……というか、そのとおり。

わたしが茶道を始めたのは高校生のときだったんだけれど、そのきっかけのひとつは確実に、放課後においしいお菓子が食べられることだった。

わたしの通っていた高校はいわゆる自称進学校で、7:30に0限が始まってから長い日は7限まで授業があった。放課後には頭も身体もヘロヘロで、身体のありとあらゆる場所が糖分を必要としていて。

一年生の秋くらいまでは毎日早起きして学校に行き、授業が終わったら塾に行って好きな人と勉強して、夜家に帰る、というサイクルを回り続けることに必死で部活に入るなんてことはすっかり頭から抜けていた。けれど、2年生にあがるタイミングで、ちょっと部活でもしてみようかな……と思うようになった。

中学部から内部進学してきた同級生たちの何人かが部活をしていて、彼女たちと同じクラスになったことも、部活に入ることの後押しになったんだと思う。それで入ったのが茶道部。

週に一回しか活動がないし、定期考査前は部活ができなかったからそんなにお稽古の回数を重ねることはできなかったけれど、細々と続けた理由のひとつはやっぱり、放課後においしいお菓子を食べられることだった。

周りは割と運動部が多かったから「それを部活というだなんて!」と言われたし、わたし自身もこれはご褒美タイムだなと思っていた。そんなもんだからもちろん、お点前の腕は全然上達しないまま卒業した。

今お茶を教えてくださっている先生も「お菓子はちょこっとじゃなくてたくさん食べていきなさいね。お菓子、楽しみにしてるでしょ?」と菓子器いっぱいにお菓子を出してくれる。だからやっぱり、食べ盛りを過ぎたオトナになってもおいしいお菓子を楽しみにお稽古をしたっていいんだろうなと(勝手に)思っている。

お稽古のときのお菓子は、基本的に先生が用意してくださる。長年お教室をされていることもあって、お菓子も行きつけのお店があるようで、特に主菓子(練り切りとかおまんじゅうとか割とがっつりしたお菓子)は、そのお店の季節のものを戴くことが多い。

対してお干菓子(落雁やふやきのような水分のない乾燥したお菓子)は、社中のみんなが「これみなさんに」ともってくるものも多い。賞味期限が長くて、数もたくさん入っているものが多いのもそうなる理由だと思う。

わたしは、まだまだおいしいお菓子をたくさん知っているわけでもないし社中でも一番のひよっこ。だから、みなさんが買ってきてくださるお菓子を食べながらお勉強中。

なんだけど、先日おばあちゃんから届いた宅急便の中に、地元仙台で一番おいしい(とわたしが思信じて疑っていない)賣茶翁(ばいさおう)のお干菓子「みち乃くせんべい」が入っていた。

千利休も愛したという、昔から地元で愛されるお菓子。本店まで買いに行かないと買えないこともあって、お待たせにはぴったり。そんなお菓子が届いた翌日がお稽古日だったこともあって、それを持ってお稽古に向かった。

お稽古が始まる前のご挨拶。ちょっぴり緊張しながら、「地元仙台のお干菓子でして。みなさまでぜひ」と先生に渡すと「あらまぁ。なんというお心遣いなの。ありがとうございます。」と、それはそれは丁寧に受け取ってくださった。

お稽古が始まって、薄茶を点てはじめる。すると先生が「あなたが持ってきてくださったお菓子をいただきたいから、わたしにもお茶を点ててくれないかしら」とおっしゃるので一杯目は先生に。

「お菓子をどうぞ」そう言葉を掛けてお茶を点てはじめると、「優しい甘さでおいしいお菓子だわ。普段のお稽古じゃなくて、お茶会の席で使いたいわね。」とひとこと。

こんなご時世ということもあって、普段のお稽古は文字通り練習の場。自分たちのためにお茶を点てることが多い。そんなお稽古の場ではなくて、きちんとお着物を着てお客様をもてなすお茶会の席で使いたいというのは、最大級の褒め言葉だ。

この「みち乃くせんべい」はとてもお上品なお菓子なんだけれど、それを知ったのはつい最近。今は天国にいるひいおばあちゃんが大好きなお菓子で、それはもうバリバリと食べていたから、小学生くらいのわたしも一回のおやつで5枚くらいバリバリと食べていた。なんと舌の肥えた子供だったんだろう。

そんなことを思い出しながら、大好きだったひいおばあちゃんとわたしのお気に入りのお菓子を、誰かに褒めてもらえるってなんで幸せなんだろうと身体の真ん中をツーっと熱いものが流れていった。それは沸き上がった御釜のお湯で点てたお茶であり、わたしの遠い思い出。

***

ひいおばあちゃんの実家は戦前お手伝いさんのいるようなお金持ちで、平成の終わりくらいまで武家屋敷を持っていたし、某百貨店の区画の不動産を持っているような人だったから、いわゆるお嬢様。

がしかし、令和になると武家屋敷は更地になり、不動産も相続税が着実に膨れ上がっているので、わたしは思い出しか知らないし、今のわたしはみち乃くせんべいを一枚ずつを味わいながら食べることしかできない。

あぁ、あの優しい甘さはクセになるから、バリバリ食べたいよ。みち乃くせんべいをバリバリ食べられるようなオトナになりたいよ。ひとくちずつ丁寧に味わうのも、いいけどね。でも、豪快にバリバリする背徳感のような贅沢な思い出も、口にするたびに思い出すんだろうな。

あのあったかい気持ちから4日も経ってしまった今日は、雑念ばかりが頭を駆け巡る。あかんな。やっぱり、お稽古の記録はその日のうちに書こう……なんてことを考えている木曜日。

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