こちら側のドア
今の補聴器にも慣れてきて、最近はアナウンスの音声も聴き取れることが増えてきた。電車の駅、車内、バスの車内……それからエレベーターでも。
「こちら側のドアが開きます」
なんてアナウンスがあって、入ったときと反対側のドアが開いたりする。
止まる階が二つしかないときは、入ってきたときと反対側が開くというのは暗黙の了解なので、今までは聴き取れなくてもそんなに困らなかった。だけれども、聴き取れるようになってから不思議だなぁと思うことがある。
それが「こちら側のドアが開きます」というアナウンス。「ねぇ、こちらってどちらなのよ」と毎度つっこみたくなる。
というのも。わたしは聴こえにくい側の耳の聴力がほとんどないので、補聴器は良聴耳だけに装用している。両耳きこえると音の方向が分かるらしいのだけれども、わたしにはどう頑張っても音の方向は掴めない。もう29年も掴んだことがないから、きっとこの先も音の方向を掴むことは難しいんじゃないかなと思っている。
だから、あの「こちら側のドアが開きます」のこちら側がどちらなのかはいつも分からない。キコエル人たちは、ちゃんと分かるモノなのだろうか。
せっかくアナウンスが聞こえても、「こっち」がどっちか分からなくては意味がない。片方のドアは赤色に、もう片方のドアは青色に塗ってあったりしたら「赤色のドアが開きます」みたいなアナウンスになるだろう。そうしたら、音の方向を掴むのが難しい人たちもアナウンスの恩恵を受けられるんじゃないかなと思う。
「あか」と「あお」は母音も音数も同じだから聞き取りにくいし「あか」と「みどり」くらいの方が良いのかな。色弱の人たちにとっても見やすい色だと良いんだろうな。
そんなことを考えていたら、「こちら側のドアが開きます」というアナウンスと共に乗った側のドアが開いた。今日乗ったエレベーターは、3箇所でドアが開くエレベーターだった。