物語の中に出てくる名作全部読みたくなる『君を守ろうとする猫の話』 夏川草介 /著
この夏休みに楽しみにしていた『本を守ろうとする猫の話』を読むことができました。こちらは2017年に出版された長編ファンタジー夏川版『銀河鉄道の夜』と言われた作品『本を守ろうとする猫の話』の続編です。2024年2月に出版され、ずっと読みたくて気になっていました。あのトラネコにまた会えて嬉しいです。
読み手の年齢ごとに響く言葉がある
この物語は、少女ナナミのファンタジー要素のある冒険が描かれています。前作の世界観を引き継ぎ今回も登場人物にとって、また筆者や私達読者にとっても大切な“本”が鍵となる壮大なストーリーでした。中にはハッとする文章があり何度か辿って噛み締めました。広い年齢層である中学生から大人の読者の心に響く言葉にきっと出会う作品だと実感。それはときに名作の引用であり、ときに登場人物の台詞として登場します。読み始めてすぐにいいなと思った言葉を忘れないように、付箋をスタンバイしたくなりました。
物語のなかに現実に出版された本が登場するのですが、こえはある意味読み手にその解釈をまかせることにもなります。「〇〇の話なんだ!」と何回か気づきを与えながらも、既読勢には「ああそうだ」と促し 未読勢には「今度機会があれば読んでみたいな」と思わせる実に魅力的な表現の数々でした。読み手の数だけ感想の幅があること、それを含めて“ゆっくりと作品を味わったり折に触れて読み返したり、ずっと考えることをやめない時間”そのものの存在に魅力を感じました。
作者がこのシリーズで触れた名作集が欲しい!
この守る猫シリーズには、先ほどお伝えした通りいくつもの現実にある有名な作品が登場します。作中に本が出てくるといえば、個人的にはビブリオミステリである『ビブリア古書堂の事件手帳』シリーズが思い浮かびます。主人公栞子さんの手にする本のジャンルは多岐にわたり、小説の内容も相まってとても印象的です。
その作品を集めた『栞子さんの本棚 : ビブリア古書堂セレクトブック』なるものが出版されているんです。ちょうど今手元にあるのですが、個人的にこれが欲しかったで賞をお届けしたいくらい良い本です。しかも最初に収録されているのが夏目漱石著『それから』なんです。読みながら、これだと発見したんです。このような夏川草介さんのセレクブックが読みたい!と。著作権があって実際に形にするのはめちゃくちゃ大変だとは思うのですが、何卒ご検討いただきたい案件です。(ちなみに『神様のカルテ』シリーズと同じカスヤナガトさんによる表紙版の『草枕』文庫本は持っています。)
おわりに
医師である筆者は命の近くにいて、日々たくさんのことを感じておられるでしょう。『スピノザの診察室』では内科医の言葉が胸を打ちました。この物語ではまた違った角度から様々なことを考えました。そして何より『君を守ろうとする猫の話』自体が私にとって純粋に大切にしたいと思える作品でした。もし、これから読まれる方がいらしたらぜひこの言葉の先を見つけてください。わたしイチオシの言葉たちです。
想像力は
希望は
言葉は
見たいものは
お読みいただきありがとうございました。
桜
𓃠素敵な表紙を描かれた宮崎ひかりさんのお話がnoteにありましたよ。
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