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人は誰でも恩知らず:ポジティブイリュージョン<福山桜子:本気で変わるコミュニケーション>

<恩知らずな人>

「都合のいい時だけ助けを求めるくせに、こっちが必要な時は何もしてくれない」
「アイツは自分がやってもらうのが当たり前だと思ってる」
「チームのアイデアなのに自分の手柄にして、しかもコッチの悪口を言ってる」
恩知らず、恩を仇で返す。
うーん、聴いていると、こちらもムカついてくる話、ありますね。

私が仕事をしている芸能界というところだと「私が育てた」VS「事務所の力もあったけど、同じ事務所でも売れない人はいる。結局、自分の実力」というような、こじれ話は耳にします。

そういう経験ありますか?
小さな経験でもいいです。
そこその金額を奢ったのに「ご馳走様でした」がない。
自分のことは後回しにして手伝ったのに「ありがとう」がない。

そういうヤツは、自己中心的で、プライドが高くて、やってもらって当たり前、自分の実力が認められるべきだと考えているどーしよーもないヤツなのでしょうか?

確かに、そういう側面を持っている人もいます。
ただ、それだけではありません。
人間は、そもそも、恩を感じにくい生き物なのです。

<ポジティブイリュージョン>

ポジティブイリュージョンというバイアスがあります。
「なんか良さそうじゃん。自分に自信があるっていいことじゃん、自己肯定感があるってコトでしょ?」と思うかもしれません。

しかし、ポジティブイリュージョンの場合はイリュージョン=幻想です。
現実より、自分のことを高く評価していたり、非現実的に将来を楽観視していたり、周囲の出来事や人を自分がコントロールしているという思い込み状態。
「自己肯定感」は「自分の中の価値をキチンと認められる」という意味なので、別ものです。

もちろん、ポジティブイリュージョンがプラスになることもあります。しかしながら、これが働いて「恩知らず」になっていることもあるのです。

例えば、A君という売れっ子のタレントさんは、素人さん状態で事務所に入ったとしましょう。事務所の社長のBさんは「この子は売れる!」とコネも時間もお金も使った。そして有名になったところでA君は事務所を辞めて独立。「円満退社」をうたっているけれど、実は、A君は「同じ事務所でも売れてない人も辞めてった人もいる。ここまで来られたのは自分の実力。一人でもできる」と言っている。

パッと聞くと「A君は恩知らず」かもしれない。
けれど、ポジティブイリュージョン状態だと、そうは考えられない。
他人にしてもらったことには焦点を当てられず本気で自分の実力だと思っている。

そして、人間は基本的に、みな、誰しも、うまくいってる時、ポジティブイリュージョン状態になりやすい。

結果が出た時、最も努力したのは自分だと思いたい。自分の力が認められたと思いたい。「この状況は自分がコントロールしている」と思いたい。ゆえに「誰かのおかげ」よりも「自分の力」のほうに目がいってしまいやすい。
そうなんです。そもそも、人は恩を感じにくい生き物なのです。

「そんな小さな話じゃない!こっちは売り出すのに何億もかけたし、私と事務所の信用で契約できたんだ!」

おっしゃりたい気持ちはわからなくもないのですが、これが厄介なことに、成功が大きければ大きいほど、本人が手にしているものも大きいので、よりポジティブイリュージョン状態に酔いやすく、恩を感じにくいんですね。

そして、ここで忘れてはいけないのは、A君だけではなく、Bさんの方もポジティブイリュージョン状態にあるということ。

どういうことか。

人はひとりで生きられないが、自分のことは認めて欲しい

<助けた人も自分の力だと思っている>

ポジティブイリュージョン状態になっているのは、A君だけではありません。じつはBさんも、そういう状態になっています。結果が出ずに辞めていった他のタレントのことは忘れ、A君の不満を解消しなかったことがあったのも忘れ、A君の努力には触れず、「自分の力があったからこその成功」だけに目が行き、「自分のおかげ」「自分の力」に酔っている。

本人の努力ゼロで生き残れて売れるほど芸能界も甘くない。それでも「自分の力」の方が大きいと思っている。いや、思いたい、のです。使った時間や労力、資金が大きければ大きいほど、それが1番の成功理由だと思いたいのです。

人は一人では生きられません。見えるところでも、見えないところでも、たくさんの人の力を借りて生きている。感謝を口にする人も多い。実際、そう思っている人は多くいます。しかし、それと同じくらい、人は「この状況は自分が作ったものだ」とも思っています。それはあなたも、そして私も同じです。

私も「恩知らず」やってしまったことはあります。お世話になったのに、忙しくなり、自分のことで精一杯になって連絡を疎かにしてしまった。

「サポートしたこと」の方ばかりに目がいってる頃もありました。考えてみるとそういう時、私の場合は、別に本当の理由があったと思います。「むちゃむちゃやってるのに自分の努力が認めてもらえない」そう感じていた頃に、ポジティブイリュージョンが発動していた。さらに、自分で「かなり無理をして」やっていたのも辛くなった原因だと思います。後悔はしてないですけどね。落ち着いて考えてみれば、その時その時は楽しかったし、その経験があったからこそ、できるようになったことや、好きな自分を発見できたこともあるのです。

<しっかりコミュニケーションする>

それぞれの思うところを正直に話し合い、落とし所を見つけ、お互い感謝することができれば、こういうことではモメません。

A君は海外進出したいけど、今の事務所はそこが得意ではないのが独立理由かもしれない。マネージメントでストレスがあったのを長い間我慢していたのかもしれない。B社長はA君の知らないところで、とても時間を使っていたのかもしれない。投資した分が十分な利益になっていないから、会社の為に少しでも残って稼いでほしいと思っているのかもしれない。もっと一緒に夢が見たいのかもしれない。

そこは、包み隠さず話し合うしかない。「過去」ではなく「今」に焦点をあてて、双方が納得する答えが導き出す努力をする。
「過去」を苦い後悔にせず、未来に繋ぐ「今」を作る。

A「一人では絶対にここまで来られませんでした。感謝しています」
B「君が努力したからこそ、ここまで来た。こちらこそ夢を見させてもらった。楽しかった、ありがとう。この先も応援するよ」

想像力を作動させて、きちんとコミュニケーションをすれば、こういう未来もやってくる可能性はあるのです。

<期待しない。過度の負担を背負わない。しょーもない人はほっとく>

とはいえ。

話し合いもコミュニケーションもできないし、本気でイリュージョンに脳が浸りきっていて、感謝できない方々もいらっしゃいます。想像力ゼロ。ガチで「俺の力」を信じて疑わない、もはやイリュージョニストな方々。

もうね、そういう人とは関わってはいけない。ほっとくしかない。
サヨナラです。
いつまでも「恩知らず」と罵っていても時間の無駄。
話を聴いてくれる人に思う存分に愚痴ったり気分転換をしっかりして「次」。

期待し過ぎず、恩が売りたい時はハッキリ伝え、見返りを期待せずにはいられないほどの負担を背負わない。

それでも、またきっと人に関わり、助け助けられ、感謝し感謝され、感謝を忘れ忘れられ、期待しちゃって哀しい想いをすることもあるでしょう。

が、「今」をシッカリ楽しむことだけは忘れないようにしようと思うのでした。

人は誰でも恩知らず。だからこそ、感謝を思い出していきましょう。




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