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【短編物語】みかん君といっしょ 第2話 ~ 愛と友情のストーリー ~

 箱に詰められてから数ヶ月が経ちました。大半のみかんたちは腐って死んでしまったり、人間の手に攫われて食べられたりと、箱の中はがらんと静まり返っています。辺りを見渡し気がつけば、残っているのはポンすけとイヨちゃんとみかん君だけになっていました。
 今までの、楽しい日々が嘘のように、三人は不安と恐怖に怯える日々を送ることになったのです。いつものように体を寄せ合って静かに声を潜めていました。その時、口を開いたのはみかん君でした。
「おい、お前ら、このままここで一生を終えてしまっても平気なのか?」
 二人は、顔を見合わせては、また黙って俯いてしまいました。そして、みかん君は、突然、意を決したように声を張り上げて言いました。
「よしっ! 箱から、出るぞ」
「えっ!」
 二人は声を揃えて言いました。
「どうやって?」
 ポンすけは息を吹き返したようにみかん君に訊きました。
「あそこの小さな穴が見えるか? 三人で力を合わせて穴を広げるんだ。穴から外を覗いた時、不思議な胸騒ぎがした。外で何かが待ってるような気がするんだ。おれは、こんなところで死ぬのはごめんだからな」
 小指の爪ほどの小さな穴を指差してみかん君は言いました。ポンすけとイヨちゃんは、一呼吸置いて頷きました。そして、声を揃えていいました。
「よしっ! やってみよう」
 すると三人は口々に、夢を語りだしました。
「わたし、綺麗なお花畑に行ってみたいわ」
「僕は、夜空に輝く星をこの目で見てみたいな」
「まかせろ。おれがお前らの夢を絶対に叶えてやる!」
 三人は意気揚々と早速穴を広げるための道具を探し始めました。しかし、使えそうな道具は、一つも見つかりません。みかん君は考えました。そして、自分の頭についている、木の枝を壁にぶつけてへし折りました。バキッ! すごい音と同時にその場に倒れこみました。
「みかん君! 何をしてるんだ! 大丈夫? しっかりして!」
 ポンすけが、みかん君の背中を抱え上げて言いました。イヨちゃんは泣き出してしまいました。みかん君はゆっくりと体を起こして言いました。
「お、おれは大丈夫だ。これを使って穴を広げるぞ」
「みかん君……」
 涙ぐみながら、ポンすけが呟きました。
「時間がない。急ぐぞ。いつ人間の手が伸びてきて、おれらは捕まるかわからないからな」
 みかん君はそういって、立ち上がるやいなや、木の枝を穴目掛けておもいっきりぶつけました。次は三人で、枝を持って、掛け声と同時に全力でぶつけました。
 その作業を、ひたすら繰り返し、穴はあと少しというところまで広がりました。もう、三人は、大量の汗が顔には流れ、枝を持つ手は、少しも力が入りません。地面に、ぐったりと、三人はしゃがみこんでしまいました。そして、ポンすけが情けない声で言いました。
「みかん君、もう僕動けないよ……」
 イヨちゃんも、頭のリボンが破けて、すっかり元気を失っています。
「情けねーな~。おれは、まだまだ動けるぞ。お前らは、少し休んどけ」
 そういって、みかん君は、再び枝を手にしました。そして、最後の力を振り絞って、穴を広げ続けました。二人が、ぐったりと眠ってしまっても、夜中まで作業を続けました。頭が、ズキズキと痛み、視界が薄れていくのを感じました。それでも、手を止めません。 
 そして、遂に、大きな夢への扉が完成しました。みかん君は、その扉を見て、薄っすらと笑みを浮かべ、そのまま倒れこみました。
 朝の眩しい光が箱の中に差し込み、ポンすけとイヨちゃんが目を覚ましました。二人は目を擦りながらゆっくりと体を起こしました。そして、すぐに穴の方へ振り返りました。大きな外へ繋がる扉が光とともに目に飛び込んできたのです。初めて、箱の中に光が差し込んだことによって、暗く澱んだ空気が新鮮なものへと入れ替わりました。
「すごいよ! 大きな扉が完成しているじゃないか! みかん君、みかん君。僕らが眠ってしまったあと、君が一人で完成させてくれたのかい?」
 ポンすけが扉の横で、すやすや眠るみかん君のもとに駆け寄って言いました。
「すごいわ、みかん君! これで私たち、外に出られるのね」
 続いてイヨちゃんも目を輝かせながら言いました。
 そして、二人の声でみかん君は、目を覚ましました。
「もう朝か……。いやおれはあの後、すぐに寝たぞ。誰かが手伝ってくれたんじゃないのか」
 眠たい目を擦りながらみかん君は、冷めた口調で呟きました。
「何を言っているんだ、みかん君。この中には、僕ら以外に誰もいないじゃないか。ほんとに君はすごいよ! ありがとう! みかん君」
「素敵よ、みかん君」
 二人の、言葉にみかん君の頬が真っ赤に色づきました。そして、みかん君はすぐに次の言葉を発しました。
「よしっ。いよいよ外に出るぞ。お前たち心の準備はいいか?」
 真剣な表情で、二人は軽く頷きました。
「いいか? 何があっても離れるなよ」
 みかん君は強い口調で言いました。
「いくぞ!」
 そういって、みかん君を先頭に三人は一気に外へと飛び出しました。すると、そこには今までに見たことがない情景が広がっていたのです。どうやら、みかんの箱は人間の家の庭に置かれてあったようです。運良く三人は人間に見つかることなく箱から脱出することに成功しました。眩しいほどの太陽の光と、心地良く頬をかすめる風、三人はすべてに感動していました。

#第3話に続く


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