書籍:「教える」ということ
こんにちは。
3人娘を育てている、ベンチャー企業のCTOです。
「教える」ということ 日本を救う、[尖った人]を増やすには
APU学長の出口治明さんが2020年に出版された、「教える」ということ、という書籍を読みました。
本書は、人に何かを教えることについて、様々な観点から語った書籍です。
子育てをしている親や、会社で後輩に何かを教える社会人にとって、「教える」ということの解像度をあげるための示唆を得ることができます。
今回、本書からいくつか内容をピックアップいたします。
教育の二つの目的
本書は、教育の目的の整理から始まります。
日本における教育基本法第一条では、教育の目的を以下のように規定しています。
教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。
出口さんは、これを以下のように解釈しています。
自分の頭で考える力を養う
社会の中で生きていくための最低限の知識を与える
自分の頭で考える力
現代はVUCAと呼ばれるような時代です。
社会や技術は、凄まじい速度で変わっています。
現状がいつまでも続くのであれば、自分の頭で考えことが無くとも、特に困ることはないでしょう。
しかし、VUCAの時代においては、自ら考える力がなければ、変化が加速する社会において、それに対応することができません。
先人の真似
考える力を身につけるには、先人の真似をすることから始めると良いでしょう。
料理はレシピどおりに作るところから始まります。
スポーツや芸術においても、型があり、それを学ぶところから始めます。
考える力を身につけるには、優れた先人の思考の型や、思考のパターン、発想の方法を学ぶ必要があります。
アリストテレス、デカルトなど、多くの先人が残した著書があります。
それらを読み、超一流の思考のプロセスを追体験し、考えるクセを身に着けていくことが、最も普遍的な方法と言えます。
タテ・ヨコ・算数
出口さんは、思考の枠組みとして、タテ・ヨコ・算数を提唱しています。
タテは、時間軸を指します。
昔の人の考え方や、歴史を学ぶことです。
ヨコは、空間を指します。
世界の他の国の考え方を学ぶことです。
算数は、エビデンスや統計情報といったファクトを指します。
エピソードやストーリーに引きずられることなく、ファクトを認識することです。
例えば、夫婦別姓について考える際、歴史上はどうだったのか、世界ではどのように認識されているか、数字上はどうか、といったことを揃えて考える必要があります。
源頼朝と北条政子は夫婦ですが、別姓であることから、中世日本では夫婦別姓ではなかったと言えます。
世界をみると、OECD37カ国の中で、夫婦同姓は日本のみです。
(なお、本書では、夫婦別姓の是非については議論されていません)
このように、歴史、世界、数字について知ることで、自分の頭で考えるためのベースラインを押さえることができるでしょう。
社会を生きるための知識
大人になって社会と向き合っていく際に必要な知識というものは、確実に存在します。
出口さんは、現在の民主主義社会において重要な知識を、七つ挙げています。
国家
政府
選挙
税金
社会保障
お金
情報の真偽
これらについて学ぶことが重要です。
選挙とは
本書では、選挙を題材として、これらの知識の重要性を語っています。
行政や司法は、法律によって動きます。
その法律を作っているのが立法であり、選挙で選ばれる国会議員はこの立法府に属します。
つまり、国民の選挙の結果が、日本の政府を動かしていると言えます。
その選挙の際に、具体的にどのような行動を取れば良いのか、知る必要があります。
スウェーデンでは、若者の選挙・政治参加意識が高いと知られています。
スウェーデンは、選挙に関する基礎教育があり、小学校で使われている社会の教科書では以下のように書かれているそうです。
投票は自主的なものです。
そして、それは独裁制の国に住む人々がもっていない民主制の権利です。
人々は、ある政党の主張のすべてに賛成できなくても、彼らがもっとも重要であると思う問題についてよい意見をもっているとすれば、その政党に投票します。
出口さんがロンドンに住んでいた時、「選挙の仕方」として次のような話を聞いたそうです。
選挙では、必ず事前予想が出る。
その予想通りで満足なら、3つの方法がある。
投票に言ってその名前を書く、白票を出す、棄権する。
この3つの方法のどれを採っても結果は同じになる。
事前予想に不満なら、あなたの意思表示の方法はたった1つしかない。
投票に行って違う名前を書くことである。
以上が、選挙の仕方のすべてである。
このような、シンプルで具体的な選挙の仕方を、子どもたちに学校で教えるべきだと出口さんは言います。
政治とは
出口さんは、政治を簡単に述べると「市民が払った税金をどうやって分けたら、みんなが豊かに暮らせるか」を考えることだと述べます。
我々は、所得の約4割を社会保険料と税金として負担しています。
その使いみちを決めるのが政治と言えます。
選挙に行くということは、税金の使いみちに対して注文を付けるということと言えます。
以上、「教える」ということ、という書籍の一部をピックアップしてご紹介しました。
高等教育の重要性や、会社で働くようになったあとの学習について、教育に関する知識者との対談も記載されています。
出口さんは、本書に限らず、リベラルアーツの重要性について、よく語ってらっしゃいます。
出口さんは「哲学と宗教全史」や「全世界史」といった著書も出版されており、人文知に興味がある人にとってはフォローすべき方だと感じております。