No. 9. 難しい言葉も使えば分かるし役に立つ(齋藤孝「世界の見方が変わる50の概念」)
突然ですが次の11ケタの数字、暗記できますか?
14916253649
かなり厳しいと思います。どうやら人間の短期記憶では7ケタ程度の数を覚えるのがやっとみたいです。でも、こう眺めてみてはどうでしょうか。
1 4 9 16 25 36 49
実はこの数字、2乗の数を並べて書いただけです。一見乱雑に見えることでもルールさえ掴むことができれば、案外簡単に見えたりするものです。
難しい”概念”を4ページに
本書は具体的な物事に共通する“概念”を紹介したものです。ですから概念は抽象的で分かりにくいものです。ためしに目次を読んでみても“オリエンタリズム”とかいう武勇伝を語りそうなものから“中庸”などもはや読み方すらアヤシイ概念まで難しい言葉がズラッと50個並んでいます。しかし本書ではそんな堅苦しい言葉が1つにつきおよそ4ページ、身近な例で置き換えられて書かれているため無理なく読み進めることができちゃいます。
”知っている”から”使える”へ
では概念を理解するといったいどんな意味があるのでしょうか。難しい言葉を覚えることにどんな意味があるのでしょうか。本書では次のように述べています。
どうやら覚えるだけでなく使ってみることが大切なようです。たとえば私が参考になった概念の1つとして“模倣の欲望”というものがあります。模倣の欲望とはフランスの思想家ルネ・ジラールが著書「欲望の現象学」で、“欲望は他者の欲望を模倣することでできている”と説いたものです。これを自分に当てはめてみると研究室にあるパソコンのモニターが思いつきます。私の所属する研究室では留学生が2名在籍しているのですが、そのうちの1人がパソコンのモニターを持ち込みました。冷静に考えればそこまでモニターは必要ないのですが、私はすかさず新しいモニターを導入しました。まさに模倣の欲望と呼べるものでしょう。本書では各概念の紹介の最後に概念をどう使うかのヒントが書かれています。ここを読めば使える概念の習得により近づくことができるでしょう。
使える概念はストレスを減らす
また使える概念を習得することにはこんなメリットがあるようです。
考えてみると普段の生活で抱えている不安の多くは“なんとなく不安”というケースが多いのではないでしょうか。おばけと同じです、正体が分からないから怖いのです。そんなときに使える概念を身に付けておけば、ぼんやりとした不安の原因もつかめるはず。私は“実存主義”という概念に共感しました。ドイツの哲学者ハイデガーが唱えた実存主義には、人間は何らかの運命に支配された存在だと決めつけるのではなく、自分で自分の進むべき道を選択して、自分をその選択した道へと向かわせる“投機”という考えがあります。自分で考えた実験が上手くいかないとき、イライラしてしまうことがあります。実存主義という概念を理解していればイライラの原因が失敗を運命や運のせいにしていたのではないかと考えることができます。実験をすると決めたのは自分なのだから自分が成長すればきっと実験はうまくいく。そう考えると成長していくことも実験ももっとワクワクしていきそうです。
本書にはほかにも身に付けるべき、身に付けると楽しくなる概念が盛りだくさん。乱雑な毎日に概念を、新しい見方を手に入れたいというかたはぜひ。
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