No. 8. 仕組みが分かる、世界が変わる(小高知宏「機械学習をめぐる冒険」)
2022年2月18日、文学賞「星新一賞」で初めてAIを使って執筆した小説が入選を果たしました。星新一といえば言わずと知れたショートショートの神様。そんな星新一の名を冠した文学賞でAIが書いた小説が入選というのはまさに星新一のショートショートのようです。
まずタイトルが好き
本書はそんな機械学習について誰でも分かりやすく全体図を知ることができる1冊です。余談ですがタイトルはおそらく村上春樹の小説「羊をめぐる冒険」のオマージュ。また、本書には電気羊というキャラクターが登場しますが、これはフィリップ・K・ディックの小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」を意識したと思われます。こういう遊び心大好きです!
AI≠機械学習≠ディープラーニング
まず、私を含め多くの人が勘違いしていると思われるのが「AI」「機械学習」「ディープラーニング」はそれぞれ別の意味の言葉だということ。私は今までAIと機械学習が全く同じものだと思っていました…。正確にはAIというソフトに機械学習が組み込まれており、ディープラーニングは機械学習の手法の1つ。
本書はそんな根本のところから懇切丁寧に教えてくれるので序盤からつまずくことなく楽しく読み進めることができます。また、本書はデータサイエンスの本にも関わらず最後の10ページほどを除いてプログラミングコードが一切登場しません。なんなら高校数学は本書全体を通して1度も登場しません。
やっぱ生き物ってすごい
本書を読んで一番の収穫は「機械学習の手法は生物の模倣である」ことを学べた点です。たとえばA駅からB駅までの最短経路を知りたい、これは“最適化問題”と呼ばれる問題で機械学習では主に”進化的計算”という手法が使われます。
突然ですが、最近なにかと叫ばれている“多様性”という言葉、どうして重要なのか考えたことはあるでしょうか。生物学的に答えるなら多様性は種の保存に欠かせないからというのが答えになります。たとえば全人類が暑がりの場合、地球温暖化の進行によって人類は滅亡してしまいます。高温に耐えられる人間、寒冷地に適応できる人間、そんな“幅”を持たせることで種はあらゆる場面に対処できるわけです。
進化的計算はこの原理を応用します。つまり、入力するデータ(今回であればA駅からB駅までのルートの候補)を切ったり、挿げ替えたりして様々な種類の子データを作成。その中で適応度の高いデータ、すなわち距離の短いルートを選択し孫データを作成する。これを繰り返すことで最短経路で移動してくれる正解データが得られるわけです。こんな風にAIなんてカッコいいテクノロジーも実は自然をヒントに作られていたんですね。やっぱり生き物ってすごい…。
大学4年生のとき。電子顕微鏡の講習会で技術職員の方がこんなことを仰っていました。
「最近の技術は発達しすぎて中身が分かりにくくなっている。昔のテレビはダイヤルを回すことで周波数を合わせていたが、今ではボタン1つでチャンネルが変えられる」
世界には普段目にもつかない驚きの技術で溢れていますが私たちはそれが当たり前のように思っています。せっかくならその技術の仕組みを知ってみるのはいかがでしょうか。まるで魔法のような世界が見えるはずです。
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