「雷の道」の前書きのようなもの
図書館は昔から好きな場所だった。
だけど昔から読書が好きだったわけじゃない。
子供の頃はうだる夏の中、よく涼みに行った。
御影石の床に寝そべると、ひんやりして気持ち良かった。
司書のお姉さんに見つかってよく怒られた。
でも僕たちは仲良しだった。
高校生の頃はデートの場所だった。
僕たちは厳しい大人たちの目を盗んで同じ時間と空間を共有した。
それだけで満足だった。
高校を卒業して僕は少しだけ大人になった。
絶望を経験し闇の中を歩いた。
そして光の道標として、または一つの逃げ道として本を読むようになった。
図書館に通い暑さも寒さも空間の広さも忘れてひたすら読んだ。
貪るようにして。
村上春樹も村上龍もその時に知った。
「ダンス・ダンス・ダンス」「69」
シナリオも読んだ。
「北の国から」
「ロックの心」もその中の一冊だった。
熊本大学の教授が翻訳した。
それは古き良きロックの歌詞を紹介するというものだった。
「ロックというのはノリの良い音楽だけど、歌詞もそこそこ文学的だから、ちゃんと読んでみてね!」
というのが作者の意図する事だったと思う。
(のちにボブ・デュランがノーベル文学賞を受賞し証明した)
僕は今まで聞いたこともなかった音楽をその本で知ることが出来た。
サンダーロードもその一つだ。
「雷の道」
もう決して若くはない男が、もう決して若くはない女に求婚する歌だ。
彼は彼女の家の前に立つ。門に手をかけ想いをめぐらせる。
その数秒間によぎった想い、意識。
もちろん英語の歌詞を完全には理解出来なかったけど、何度も何度でも聞いた。
そしてイメージがやってきた。
言葉や形には出来ない、若かったからこそ描ける特有の観念。
それが心の奥にこびりついた。
あれから随分時間が経ち、掘り起こして文章にしてみたもの。
それが「雷の道」だ。
それがどれほど見当違いなものであっても、こうにしかならなかった。
人生と同じだ。
どんなにがんばったって、今にしかならない。
僕は正しい方向に向かっている。多分。