時計の契約:第2章5時
第2章:夢幻
5時:深い夢の中へ
「遙、また夢をみたんか?頭痛いか?薬飲んでなかったやろ」どういうことかと思い、俺はゆっくり部屋を見渡した。リビングの部屋の隅に父さん、母さん、弟の時翔の写真が一枚ずつ並んでいた。そうか、俺は時翔と話す夢を見ていたんだ。家族は俺が5歳の時に事故で死んでしまった。断片的な記憶が蘇ってくる。家族で少し遠いところまで遊びに行った帰りだった。俺は寝ていたから何があったのか分からなかったが気付いたときには、上下さかさまの車、飛び散ったガラス、動かないおとう、、さん、、、あの日のことがフラッシュバックする。もぅやめてくれ・・・。頭の奥でズキンズキンと脈打つ音が響く。
「俺だけが、助かったんだ・・・なんで、俺だけ・・・」震えが止まらなくなった。のど元に痞えるのは罪悪感よりも深い、喪失感だった。じいちゃんが薬と水をテーブルにおいてくれる。あの日のことをたびたび夢に見ては、そのたびに心は傷付き涙があふれ、泣いて起きてはじいちゃんを困らせていた。俺が生き残った理由に意味が欲しかった。なぜ俺だけが助かったのか、唯一俺を苦しめる疑問だった。どれだけ時間がたっても、薬を飲んでもこの胸の寂しさや孤独感は心に空いた大きな穴を埋めることはできなかった。一つも俺を癒すことはなく、孤独と寂しさが体を侵食し苦しめてくる。また泣いている俺に、寄り添いじいちゃんは赤ちゃんをあやすように優しく抱きしめてくれた。
「遙がそばにおってくれて、じいちゃんは嬉しいぞぉ」この言葉には嘘がないんだと思うとこれだけが俺の支えとなっていることを痛感した。俺もじいちゃんがいてくれて、本当によかったよ。
その夜、俺は昨日の誕生日プレゼントで買ってもらった魔法系のゲームに没頭していた。幻想的で美しい背景と魔法の本を探しに出る旅が描かれているこのゲームは、まるで夢のような世界へと俺を誘う。このゲームは勇者は出てこず、魔法使いの主人公と悪魔が織り成すストーリーとなっている。小説からゲームへと移り変わった世界に俺は魅了されていた。
小説なんて普段読まない俺が、なぜかこのゲームに夢中になっている。流行りのゲームでもなければ、友達は誰も知らないようなマイナーゲームだ。だが、その幻想的な世界観と、新たな展開に胸が躍るような魅力に引き込まれていった。小説も全部読んだ。小説とゲームでは内容が違っていてまたそれがよかった。小説にはなかった新しい展開や発見が、俺をワクワクさせる。
悪魔を退治するために必要な呪文の最後の言葉が見つからず、夜も更けていく。それでも、このファンタジーな雰囲気、音楽、絵柄が俺を引き留める。ただこの空間にいるだけで、不思議と心が落ち着いて呪文の欠片を探す作業も、俺にとっては楽しみの一つになった。
しかし、気付けば夜の5時。疲れが襲ってきた俺は、ゲームを終え部屋の明かりを消した。ゆっくりと枕に頭を置きゲームの余韻に浸りながら、しばらく天井を見つめていた。
ゲームのBGMが頭の中で鳴りやまない。クラシックのようなゆったりとしたメロディーが眠りを誘った。