夢が叶うという罠
ここまで生きてわたしは
何を成し遂げたろうか
叶った夢など一つもない
あれこれ振り返れば
大したことはできてない
そう思えてしまうのだ
それどころか
あれやらかして
これ言っちまった
後悔ばかり浮かんでくる──
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こんにちは!
フジミドリです♡
【癒や詩絵物語】シーズン2
私は道術家です。日々の暮らしから、気づきと理解を得て自由自在になってきました。
物語と詩が浮かびます。旧知の朔川揺さんは柴犬の絵を描いてくれました。
ご覧になって、癒される方がお一人でもいらっしゃるなら嬉しいご縁です。
では早速──
☆☆☆
ある日のこと、初老の塾講師は出勤した後、個別授業の教室番号を確認しておりました。
すると、彼のすぐ後ろにいた同僚講師と事務の女子大生がお喋りし始めます。
「久しぶりだね。今の時期は就活が大変でしょう。もう決まったかな?」
「この間、教員試験を受けたんですよ」
「先生になるんだね。どうだった?」
「はい。うまくいったんじゃないかなと」
「へぇ~あのさぁ、教師ってのはね……」
同僚講師は語り始めます。長い間、生業として生徒に教えてきた経験を熟々と。
女子大生は、小学校教師が夢の仕事だったらしく熱心に耳を傾けているようです。
聞くつもりはないのに、二人の会話が彼の耳へ潜り込んできます。途端に、もやもやした思いが浮かんできました。
☆☆☆
『こいつ、言うことが時代遅れなんだよ。今どき端末1台ありゃあ学習内容はAIが教えてくれる。教師なんてもういらねえのさ』
『労働人口も減るんだし、学校なんかなくしちまって、小学生から職場体験でもやった方がいいんじゃないのかい?』
『小遣い程度で子供は喜ぶし、人手不足が解消できるってもんだ。高校も大学も、生きていくのに不要なことばっか詰め込んでるし』
『夢の仕事なんて叶えなくていいのさ。夢は寝ている時に見るもんでね。起きてまで見るもんじゃないよ。自分を見失う』
☆☆☆
夢を叶えるために生きている
そんな人はどれだけいるだろう
若いうちならいいかもしれない
歳が重なるごとに夢は萎んで
いつの間にか破れてしまう
すんなり叶う夢なんてない
それはもう夢とは言わない
夢を追いかけている時は
日々の暮らしが色褪せて見えた──
ああそうか……
わたしは今ここで
夢を叶えているのだ!
あれやらかしてこれ言って
後悔ばかりの人生こそが
叶えたかった夢なのだ
起きて立ち歩けば休み食べて出す
日々の暮らしは光輝く奇跡の御業
ああこのままでよい……
わたしはこのわたしを生きる
夢から覚めるその日まで
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