協働のムーブメント ~「感情」がガソリンとなる現場【いちばん身近な協働論】
今回は、関わる人たちの「感情」が現場のガソリンとして有効に機能し、大きな協働のムーブメントが巻き起こるようなケースについて、その仕掛けを記述していきたいと思います!
1、「感情」が、協働のムーブメントを巻き起こす!
▶自由意思の現場だからこそ、感情が大切
「感情」というと、どこか理性に欠けるもののようで、現場からむしろ排除すべきだと感じる方もいるかと思います。確かに仕事をする上で、感情をグッと堪えて業務にあたることもあるでしょう。
しかし協働の現場というのは、トップダウンの指示命令で動く現場とは、少し異なります。協働プロジェクトに参画するかどうか、各主体の自由意思に委ねられるケースも多いでしょうし、ボランティアの方が関わる現場ならなおさら、各々の自由意思が重要となります。
それぞれの人たちが、「一緒に取り組んでみたい」とか「積極的に取り組みたい」と思えるかどうか。それが協働の現場では、とても大切なことです。
▶現場を動かすガソリンは感情
協働に関わる人たちが、何をどう考えているかという感情は、現場のガソリンのようなものです。
「やってみたい」気持ちが、次のアクションにつながります。
義務になってしまった途端、本来のダイナミックな躍動感を失い、協働は形式的なものになってしまうでしょう。
だから現場のガソリンである感情を、上手く導くことが必要です。
▶感情を導くと、現場にムーブメントが起こる
関わる人たちの感情を大切に、上手く導いていくことができれば、協働の現場は少しずつ呼吸を始め、動きが生まれます。
安心して意見が言えて、意欲が大切に扱われる現場において、それぞれの主体性が動き出すのは当然でもあります。
例えば、「自分たちの取り組みにカッコいい名前を付けたい」という、ほんの小さな動きであったとしても、名前を付けたことで取り組みが対象化され、さらに熱心に、俯瞰的視点で取り組むきっかけになることもあります。するとまた新しい動きが生まれます。
小さな小さな、時に取るに足らないように思えるような一つ一つの動きは、次第に大きな協働のムーブメントにつながっていくのです。
2、協働のムーブメントの特徴
それでは協働のムーブメントとは、具体的にどのような現象なのでしょうか?ここでは、特徴を3つ説明していきます。
▶相乗効果で、想定以上の展開が生まれる
感情がガソリンとして機能すると、結果的に当初の想定以上の展開が巻き起こるということがあります。
それらは、関わる人たち同士の相乗効果によって生まれます。
例えば、一主体の単独の取り組みが、協働プロジェクトを通して他主体にも取り入れられ、新たな場所で展開されることになったり。それが一つの事例として注目され、セミナーで事例発表する機会が舞い込んだり…!
楽しく動いた先には、さまざまな展開が待っています。
▶ダイナミックに役割が入れ替わりながら続いていく
フラットな関係性が築けている現場でよく見られる現象ですが、互いの役割が必要に応じて入れ替わります。
協働プロジェクトの一参画主体が、リーダーシップを発揮して、プロジェクトの仕組みづくりをけん引するようになったり。ボランティアの一参加者だった人が、翌年にはボランティアを受け入れる側になったり。リーダーの不在を、別の者が立場を超えて補う動きを見せたり。
指示命令で役割が固定されていないからこそ、流動的に、自在に役割が入れ替わりながら、それぞれが力を発揮していきます。
このような協働プロジェクトは、変化に対して柔軟に対応できるので、簡単に動きが止まってしまうことがありません。力強い現場となります。
▶共演者・共感者の輪が、大きく広がる
協働プロジェクトが進行感をまといながら、どんどん動いていくと、手の届く範囲を超えて、共演者・共感者が広がります。
口コミの場合もあれば、HPやSNSでの情報発信の場合もあると思います。
思わぬところから、協働に参画したいという申し出が来たり、先進事例としての視察依頼が来たり、海を越えて海外の方からもSNS投稿に「いいね!」が来たり。
一つ一つの広がりを喜び、新たな出会いを楽しみながら協働を進めて行くことは、とても幸せな在り方です。
3、現場で「感情」をガソリンにする方法
ここからは、関わる人たちの感情を大切に、それを現場のガソリンにしていく方法について考えていきましょう。
▶ワクワクするビジョンを語る
関わる人たちの感情を大切にすると言っても、てんでばらばらな想いを束ねていくのは大変です。収集がつかなくなりそうですよね。
そこで、協働プロジェクトを進めるにあたって、一貫して未来へのビジョンを語り続けることが必要となります。どんな未来を実現するための協働なのかということを、伝え続けるのです。意識合わせです。
その際、なるべくワクワクするビジョンであることが大切です。ワクワクするからこそ、「楽しそう!一緒にやってみよう!」という気持ちで参画する人たちが増えていきます。
また、ビジョンは必要に応じて語り分けることも必要です。自分の所属する組織の中の人たちと、外の人たちでは、立場が違うので、win-winとなる部分が異なります。
全く違うビジョンを語るという意味ではなく、同じビジョンなのですが、少し違う視点から語り分けることが有効です。
「このような未来を実現することで、このような良い事がありますよ」と言う時の、「良い事」の内容を、相手の属性によって語り分けるということです。
▶対等なディスカッション
一定のビジョンが共有された状況下で、互いの相乗効果によって生み出される価値は、大きなエネルギーを秘めています。それを可能にするのは、対等なディスカッションです。
「こうしたらどうか?」「ああしたらどうか?」「それだと、こんな問題が発生するんじゃなか?」「それなら、こう工夫したらいいんじゃないか?」。
そのような対等なディスカッションを重ねることで、一緒にアイデアをすり合わせていくことができます。
対等なディスカッションが上手くいかないケースでは、「こうしたらどうか?」「それじゃだめだ!こういう問題があるじゃないか!」となってしまい、そこで話が終了してしまいます。
そうならないために、相手の発言にまずは興味を持ち、課題点があるなら、解決策を一緒に考える姿勢を持ちたいものです。
▶一緒に未来を創る実感
一つ一つ意見やアイデアが実現していく実感が得られることは、次の一歩に進む上で重要です。
「どうせ何を言っても変わらないんだから…」という閉塞感が漂ってしまうと、誰も意見を言わなくなってしまいます。
一つ一つの声を大切に扱い、その想いを尊重し、こまめに実現していく現場では、一緒に未来を創る実感が得られます。すると、また新たに意見を伝えてみようという循環が生まれます。
小さなことからで大丈夫です。例えば「会場の配席を車座(輪のような配置)にしてみたら、一体感が生まれるんじゃないか」という小さな声を、ちゃんと聞いて、ディスカッションをする。そして賛同が得られたら、トライアル的に実行してみる。そして振り返りを行う。
こういう小さな一つ一つの積み重ねで、大きなムーブメントは生まれていくものだと思います。
4、自立的であることの必要性
さて、今まで協働の現場における感情の重要性を述べ、感情を現場のガソリンにする方法について考えてきました。
ここで、一つ陥りがちな落とし穴についても言及しておきます。
▶他者の感情に飲まれないように…
他者の感情を大切にしようとすると、他者の感情のひしめき合いの中で、自分を見失ってしまうことがあります。
耳を傾けることの難しさと対処法については、以下の記事で記述しています。
他者の感情を大切に扱うと同時に、あくまで他者の感情として、一定の距離を保つことも同時に必要となります。
▶自立的であること
その際、自分自身が自立的であることが重要です。
時にはNOを言わなくてはならない時もありますし、ぶつかり合いの狭間で苦しい思いをする時もあるでしょう。
多様な主体間の協働を叶えることは、それなりの難しさをはらんでいます。
互いに協力し合いながらも、自立的であること。それを体現していくことで、豊かな協働を育むことができます。
5、協働のムーブメントを「仕組み」に変換
▶仕組み化で協働を安定的に育む
関わる人たちの感情を現場のガソリンにして、協働のムーブメントを生み出すことができたら、今度はそれらを仕組み化することを考えます。
仕組み化することで、協働のムーブメントを一時の盛り上がりで終わらせることなく、継続的に安定して育んでいくのです。
新たに制度を整えたり、予算を確保したり、これまでの過程を可視化して公開したり。さまざまな方法で仕組み化を検討します。
そうすることで、関わる主体が入れ替わっても、途絶えることなく、次の主体が引き継いでいけるようになったり、よりスムーズな連携が可能となったり、サポート体制が拡充したりします。
有効に機能する仕組み化を目指しましょう。
▶それでも感情をガソリンに!形骸化させないで!
協働プロジェクトが大きなムーブメントを生み、それらを仕組み化した時、忘れないでほしいのは、それでも感情が現場のガソリンだということです。
このことを忘れてしまうと、物事はあっという間に形骸化してしまいます。
飽くまで協働プロジェクトの現場は、感情を大切にしてこそ、呼吸できるものです。自由意思で集う現場だからこそ、「やってみよう!」という気持ちが何よりのガソリンです。
そのことを忘れずに、現場での対話を楽しみながら、素敵な協働のムーブメントを巻き起こしていきましょう!!
※このnoteでは、各地での協働の推進を目的に、協働や協働コーディネーターについての一般論や考察、個人での地域との関わりなどを発信しています。