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庭にカラリと立つ、オリーブの木に寄せて

学生時代は、クラシック音楽に傾倒していたので、ヨーロッパを中心にいろんな国へ行った。

その中でもう一度行きたい国を、たったひとつだけ選ぶとしたら、スペインだ。


文化も食も、素晴らしい。
住んでみたいと思う国。

食を支えている大きな柱は、「オリーブ」だと思う。オリーブオイルに魚介とニンニクを入れてグツグツさせる“アヒージョ”は定番料理。スペインは、オリーブオイルの産出世界一だとか。



スペインを周遊する旅の途中、私は都市と都市の間を観光バスで移動した。コンクリート舗装されていない太く真っ直ぐなハイウェイをひたすら走った。

ハイウェイの両脇は、オリーブ畑。
日本で言う「一面××の景色」とは比べ物にならないくらい広い。一面どころではない。時速100キロで走っているバスの窓から見える景色が、1時間も2時間もずっと同じなのである。
雑草も生えない乾いた土地に、ボサボサ頭のオリーブが群をなして、どこまてもついてくる。怖いくらいの生命力だな、と思った。



それから十年以上の時を経て、
我が家の庭には、オリーブの木が植っている。

結婚祝いに友人たちが、贈ってくれたものだ。
もともとは、室内用の観葉植物だった。

友人に結婚祝いのリクエストを聞かれて、
一人暮らし時代からの憧れで、「大きな観葉植物」と答えた。贈られてきたのが、たまたまオリーブだったのだ。なんだか運命を感じた。あのスペインのオリーブとは別人のように、スマートな佇まいだったけれど。

それから、マンションの一室に、オリーブとの生活が始まった。仕事から帰ってきて緑があると、癒された。
暑い部屋の中で、水をあまりあげなくても、元気に育ってくれた。



一軒家に移ったタイミングで地植えした。

同じ頃、赤ん坊が生まれることもあって、この家の中だと、ひっくり返されるされるかもしれない。避難させたくて、思い切って外に植えたのだ。

ぬくぬくと育っていたオリーブは、急に外に出されたんだから、たまったもんじゃあ、なかったと思う。

家の中ではそれなりに見えていたのに、
外で見るオリーブは、細く頼りなかった。
台風が来ると折れてしまわないか、冬の寒さを越せるのか、と心配した。



6年経った今では、風でも寒くても、ビクともしない。いつのまにか、幹は太く、高さは私の背丈の二倍近くまで育った。

ここ3年ほどは、5月〜6月に剪定する。
一年目は、どこをどう切ったものかと思案した。けれど、息子娘の散髪に比べたらどうってことない。オリーブは動かないし、どれだけ切っても7月にはまたボサボサ頭になるんだもの。
そろそろ、長いハサミを使っても届かなくなるほど高い。来年はもっと、思い切って切らなければ。


オリーブは雄の木・雌の木が揃わないと実がなりにくいらしが、わが家のオリーブは昨年から1本だけで結実している。
実にたくましいやつ。




今年は、初めてコガネムシがついた。
はじめ見かけた頃は、美しく輝く緑色と、カメオのような形に、子ども達と見惚れた。

けれど、しばらくすると、様子がおかしい。
剪定のついでに、木を揺らすと、10匹ほどボトボト落ちてくるようになった。ひー。
それから急いで木酢液をふりかけ、毎日見張るようにした。最近はほとんど見かけないので、効果があったのだと思いたい。



それから最近のことをもう一つ。
近所の人が、このオリーブを見て、声をかけてくれるようになった。
立派な木ですねぇと褒めてもらったり、
剪定した枝をもらっていいですか?挿木して育ててみたいので、と言って頂いたり。
木を巡って、コミュニケーションが生まれているのも、なんだか嬉しい。幸福の木と、呼ばれるだけのことはある。



植物を育てるのは、子育てみたいだ。

ちゃんと育つかしら、
変な虫がつかないかしらと、心配する。

ちょうどよい大きさに、きれいな形に、とこちらが思っていても、なかなかそうは育たない。

思いもよらず結実すると、手を叩いて喜ぶ。

生命力に圧倒される。

育つ過程で人が集まり、コミュニケーションが生まれる。






スペイン旅行や新婚時代の思い出と、
育児への思いと。

私は勝手に色々なものを背負わせているけれど、
オリーブは、今日もカラリとし、
わが家のシンボルとして立っている。


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せやま南天
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