数学 このでっかくて美しくて理解不能なもの サイモン・シン著「フェルマーの最終定理」の感想 のようなもの
数学がとても苦手なくせに、数学にまつわる物語に心が惹かれる。
NHKスペシャルで時々、そういう私をくすぐる番組が放送される。
数字が苦手なくせに、数学者が明らかにする数字の秘密にゾッとする。
特に「リーマン予想」
素数を扱う問題なのだけれど、万物の元となる素粒子のふるまいの数式と素数の出現に関する数式が同じになったとか、世の中、いや世界?宇宙はどうなってんねん、という雑なツッコミになってしまうほどすごすぎる。
勝手気ままに現れ、自分と1以外割れる数がないのだってたまたま、偶然だろという感じの素数って、やっぱそんなに特別な数なんですかね?という感じ。
人間が勝手にこじつけた(ように見える)素数と、物理の一番基礎みたいな素粒子がものすごく深い関係?
神様とかは信じないが、宇宙を作る元となる何らかの理屈、理論、法則は本当にあるらしい。
それはどこかに隠されていて、人間にはまだ理解し切れないけれど、その片鱗を数学の中に(あるいは物理学・生物学・etc.の中に)垣間見せるのだなあ。
ものすごくでっかい虚無をのぞき込む感じがする。
その数学(あるいは別の学問)自体がすごいし、数に魅入られ、とことんいじり回し、その関係性を追求し、ものすごく抽象的なことを理論として構築すできる数学者という人たちが同じ人類とは思えないほどすごい。数学者は4次元とか5次元とかの図形や空間を思い描けたりもするらしい。
上に挙げた番組(他にもトポロジーを扱ったものとか色々あった気がする)は、何年にも亘って不定期に放送されたものだが、今年のゴールデンウイークあたりで一挙放送されていたようだ。
私は、「もう見たけど」とか言いながらやはりワクワクしてまた見た。
そしてその後、やはりイッキ見枠で「笑わない数学」という番組を見つけて気に入ったら、2か月ほど前からレギュラーとして毎週水曜日、NHK総合で放送されるようになった。
この30分番組を、私は結構楽しみにしている。
Nスぺでも使われていた質の高いCGも良いし、ちょっと物足りない感はあるけれど取り上げられた数学に関する解りやすい解説も良い。
そして意外にも、МCのパンサー尾形がとてもいいw
先日、数学界最大の難問とされた「フェルマーの最終定理」に関する回を見た。
そして改めて、孤独のうちにたった一人7年をかけて予想を証明したアンドリュー・ワイルズという現代の数学者に興味を持った。
ポアンカレ予想を解いたロシアの数学者が、全ての栄誉を辞退して人前から姿を消し以来ひっそりと生きている、というのがどこかで頭に引っかかっていたからかもしれない。
結局私は、難しい数学自体より、真の孤独のうちにきわめて抽象的な問題に挑み続ける数学者という人たちに(下世話な)興味があるのかもしれない。
それともう一つ、これはNスぺで取り上げられていた記憶がなくて「笑わない数学」で初めて知ったのだけれど、フェルマーの最終定理を解く最大の鍵となった予想を立てた日本人がいた、のだそうだ。
谷山=志村予想 と言われる予想だ。
日本の数学者、谷山豊と志村五郎が、戦後10年ほどの時期に提唱した。
番組内で、谷山が「悲劇の数学者」という表現をされていて、私はそこにも引っ掛かりを覚えた。
そして番組の最後、クレジットに
サイモン・シン著「フェルマーの最終定理」
という文字を見つけ、すぐさま本棚に走った。
奇跡的に、ごちゃごちゃした本棚からすぐにそれは見つかり、私はさっそく中身をペラペラめくると、かなりのページを割いて谷山と志村のことも取り上げられている。
本の奥付を見ると、平成24年第20刷となっている。
10年ほど前に買った本らしい。20刷だから話題の本だったこともうかがえる。
そして確かに私は読んだ覚えがある。
読んだ覚えはあるのだが、中身を全く覚えていなかったw
もちろん、さっそく、改めて読み始めた。
フェルマーの最終定理の元となったピュタゴラスの定理のギリシャ時代から始まり、ある種の人々を虜にした数の不思議と数論の歴史に触れ、やがてフェルマーが17世紀にこのたちの悪い「フェルマーの最終定理」に関するメモを残す。
フェルマーって、結構タチの悪い人だ。
そしてその証明に取り組んだ数学者たちの功績と人生に触れながら、やがて本書の主人公アンドリュー・ワイルズ博士がどのように数学者として歩み、この定理を証明したかにつながっていく。
難しい専門的な数論の本ではないが、彼らが取り組んだ論理がどういうものかを簡単な数学の問題として示してくれてある。
それと同時に、最終定理の証明に大きな足跡を残した数学者の人生にも触れてあるところが面白い。
本になるくらいだから当然なのかもしれないが、取り上げられた人々は苦労の多い、という言葉ではちょっと足りない悲劇的な人生を送りがちであった。(もちろんそんな人たちばかりではない)
数論の歴史や発展、数論そのものの素人向けの解説、研究者たちの人生・・・そんなあれこれがからみあい、簡単に「これを論じた本だ」と要約はできないのだけれど、フェルマーの最終定理にまつわるあれこれが幅広く複雑に絡み合いながら書かれていて、分厚い本なのに最後まで飽きずにすいすいと読めてしまう。
もちろんこれを読んだとて、フェルマーの最終定理の証明がどんなものか、数学的に理解することなんてできない。
そんなことができるのは世界でも、そして数学者の中でも一握りらしいですよw
でも、数学そのものの美しさや奥深さ、難しさが垣間見られる。
そして、そういったものに取りつかれた人たちの、研究の部分とともに人間の部分が描かれ、数論という無機質なものに、ものすごく濃く華やか(と言っていいかどうかわからないけれど)に彩を添えている。
時々読み返したくなる本だと、すっかり忘れていたくせに思ってしまう。
冒頭に書いたように、私は数学がとても苦手だ。
数も図形も、頭の中だけで抽象的に扱うことができない。
色々な割り勘の会計なんてすごく嫌だ。特にアルコールが入った飲み会(今ではすっかりなくなりましたね)なんて絶対無理。
自分の分の感勘定でうんうん言っている私の横で、全員分をさらりと簡単にこなす理系の人たちを、別の生き物を見るような尊敬のまなざし(褒めているのだろうか?)で眺めていたことを思い出す。
そんな私だが、数学を扱ったドキュメンタリ―番組や本は別物。怖いもの見たさなのか、惹きつけられてしまう。
特に、頭の中で具象化ができない(紙と鉛筆で式や計算、図形などを見えるようにしないと解らない)ので、数論をCGなどで分かりやすく解説してくれる上質な映像は本当に素晴らしい。
私にとって、数学者が扱うような数学は、とてつもなくでっかくて暗くて深い穴だ。
底があるのかどうかも分からない。
私は、素人向けのきれいなグラフィックの番組や本で、その深淵を、手すり付きの安全な場所からそっとのぞき込み、その途方もない暗さと大きさ、そして美しさをほんの少しだけ実感する。
数学者たちはその深淵、巨大な穴に身を投じていく。
私のイメージでは、それは穴に対して虫けらやごみ屑のように小さい。
(とんだムスカ発言である。バルス!)
中には闇に呑まれてしまう人もいるだろう。
けれどもその穴の中に、想像もつかない美しいものを見つけ、浮上してくる人もいる。
もしかすると美しいものを見つけたまま、穴の中から戻ってこない人もいるかもしれない。
現在も超難問に挑み続ける当事者たちにとってはそれどころではないだろうが、私はそういう人たちに興味が尽きない(下世話である)。
そして、やっぱり、苦手なのに数学そのものが、とてつもなくでっかく美しく、解らな過ぎて惹きつけられてしまうのだ。
※アンドリュー・ワイルズ博士は今も現役の数学者でいらっしゃるし、志村五郎博士も2019までご存命で、研究者人生を全うされておられることをつけ足しておきますね。皆さんご安心ください。
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