2021年前半に読んだ中で心に残った本10冊+おまけ
2022年1月。
下書きに眠っていた記事をなんとなく開いてみて、この記事がほとんど書きあがっているのに更新しないまま放置しっぱなしになってしまっていた事実を思いっきり眼前に突きつけられました。
前半・後半とかなくもう過ぎてしまったよ2021年…。
一応先日、読書メーターの方で2021年に読んだ中から心に残った本のランキングも作ったのです。
だからこの記事を編集して、前半も後半もまぜこぜにした「2021年に読んだ中で心に残った本」で書き直そうかな……とも思ったんですが。
それをやると文字数が結構なことになるので、本記事に追記して修正してそのまま出すことにします。
情報が古い部分もありますが、2021年の7月下旬~9月上旬に書いていた文章ということを踏まえてお読みいただければ幸いです。
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こんにちは。ごぶさたしてます。
半年に一度のペースで更新している振り返り記事を今回も書いてみたく、今年の1月から6月にかけて読んだ74冊の中から、印象深い本たちを選んでみました。
相変わらずごった煮感に満ち充ちた選書ではありますが、よかったらお付き合いくださいませ。
以下、おまけ以外の10冊は読了順に並んでいます。
(わざとみたいな順番ですが本当に読了順です)
ネタバレだと感じられる表現を含む部分もあるのでご注意ください。
① スマホ脳
アンデシュ・ハンセン/新潮新書
去年読んだアダム・オルター『僕らはそれに抵抗できない 依存症ビジネスのつくられかた』(ダイヤモンド社)が心に残っていた流れで読了。触っていなくても、視界に入る場所に置いておくだけで集中力を削いでしまう事はすごく意識するようになりました。
最近は休日に敢えてスマホをカバンの中に入れて触らないように心がけてるんですけど、まだこんな時間なのか!と休日が長く感じられて嬉しくなります。手に取ってロック解除してちょっとSNS確認……で平気で費やしている時間も、その一回は10分や15分であったとしても蓄積されるとすごい量になりますよね。
Facebookの元副社長や初代CEOを務めた方々の、後悔に満ちた発言も興味深い。スマホを使っているつもりが、いつの間にやらスマホに使われてはいないかを振り返るためにお勧めの一冊。
② 世界が終わるわけではなく
ケイト・アトキンソン/東京創元社
12話収録の連作短編集。当事者である登場人物の視点だとバタフライエフェクトの諦念でも、そのひとたちの世界を俯瞰できる立場にいる読み手であるわたしからしたらルーブゴールドバーグマシンの達成に唸れる。そんな特異な読書体験をくれる一冊なのです。
死は決して世界の終わりと同義ではない。その事実は時として、優しい光明になり容赦のない絶望にもなる。死ぬことって一回しか出来ないからこういう物語が生まれ得るのかな。想像の果てを見てみたい。『テロメア』と『時空の亀裂』が特に好きです。
③ 白い病
カレル・チャペック/岩波文庫
中国発の伝染病が広がり世界中で猛威を振るう……という内容の、80年前に書かれた戯曲。
「新聞に書いてる!」VS「みんな言ってる!」という不毛な争いに、正常性バイアスやら行使される強権やら…。今このタイミングで、書店で積まれ推されるのも納得というやつです。逆に冷静に読めるし、物語を通して今を客観視するきっかけにもなり得るんじゃないかな。時を経てもなお読み継がれるに値する物語が持つ説得力って、人間の普遍性と同義ってことなんだろうか。ちょっと悲しい。でも感じ取ることはできる。衆愚を前にどう行動するかを選び取ることもできる。いまを生きている人々の特権。
④ 戯作三昧・一塊の土
芥川龍之介/新潮文庫
『戯作三昧』目当てで手に取ったのだけどめちゃくちゃ良かったですね…。いつの時代も読み手は身勝手だ。創作者の苦悩と、高揚が燃え上がる刹那の美をこの文章で読めた事がすごく良かった。芥川の中でも特に好きな作品になりました。
他の収録作も『雛』『秋』など、嫋やかさや切実さ、しんと美しい情景描写、時代を映し取った台詞といったものを堪能できる短編を味わえました。ところで優れた古典作品を読む時に、いったん現代の価値観を傍へ置いておく事はとても重要だと頭では理解しているんですが。それでも『あばばばば』はもう少し早く出会いたかったな~と思っちゃいました。
⑤ DEATH NOTE 短編集
大場つぐみ・小畑健/ジャンプコミックス
連載終了からだいぶ経ちますが、それでも好きな漫画を挙げろと言われたら、今でも必ず候補に入れる作品です。なので正統な続編としての新作が読めるだなんて冗談抜きで夢みたいですよ本当に。
夜神月がいなくなった後の世界で、キラになれなかった者や、キラにならなかった者を描く続編。夜神月という強烈な個性を持つキャラクターがいては決して描けなかっただろう展開を見事に読み切り漫画として成立させていて、まさしく令和の新しい『DEATH NOTE』世界を見せてもらえた事に感謝でいっぱいです。面白かった!
ところで本編連載前のプロトタイプ『鏡太郎編』も同時収録されているのですが、そちらが発表されたのが2003年なんですよ。で、一番新しい『aキラ編』は2020年3月。17年の時を経てもなお、並べて眺めても絵柄に全く違和感が無いあたり小畑健さんの画力ほんと尊敬に値します……。
⑥ 私は散歩とごはんが好き(犬かよ)。
平野紗季子/株式会社マガジンハウス
新時代の食エッセイで読み手を魅了する平野さんの最新作!
雑誌連載をまとめた一冊なので、レイアウトを再現するためなのか掲載誌と同じサイズ(のはず)。持ち運びは大変だけど文字みっしりに写真も沢山なので読み応え抜群です。
内容は食の観点から東京という都市の奥深さを、旺盛な好奇心と軽やかな足取りで駆け抜けるように読める素晴らしいものです。ねぎしの牛タン定食ひとつとっても抜群の臨場感と説得力。
私はコーヒーを飲むにしたってついつい駅前のチェーン店を選びがちな保守的な人間なので、写真と言葉を通して平野さんの五感を介してめぐる東京の街はどこもかしこもまだ見ぬ世界ばかりでして。
・午前中の国立
・洋菓子めぐりに尾山台
・駒沢公園通りの古書店SNOW SHOVELING
・中華食堂の味を求めて飯田橋
あたりに行きたくなりました。あと鎌倉もいいね。いま行くとしたら営業状況を事前に調べてから行った方が良いのが世知辛いけれど。続いていてほしいと願うばかりだ。
⑦ 戦闘妖精・雪風(改)
神林長平/ハヤカワ文庫JA
なんとなく再読したら、何度目でも心に思いっきり突き刺さる一冊だ……って途方にくれた(←誉め言葉)ので入れました。敵の情報を持ち帰るために、戦闘機「雪風」と共に必ず生還する事が義務付けられているパイロットの連作短編。
「機械の最適化」と「人間の最適解」のあいだに広がる相違って、SF作品に限らずAIなどを踏まえた現代においても語るに値するテーマだと思うんですよ。加えて戦うことの意味や人間の存在意義を問いながらも、文章自体は読みやすさと骨太さを両立していて。そこに不意打ちでSFならではのブラックジョークが飛び出したりするのが堪らないのです。
ちなみに本作はシリーズの一作目でして、初読時は当然ながら本作しか知らない状態でした。その後続刊を読んでこの後の展開を把握したので、今回の再読では○○の選択に対して全く違う印象を抱いた次第。再読ならではの面白さってやつです。
⑧ ティファニーで朝食を
トルーマン・カポーティ/新潮文庫
村上春樹さんの翻訳です。映画は観ていないので比較できませんが、原作とはだいぶ雰囲気が違うみたい。
小説で読むホリー・ゴライトリーは、放埓な振る舞いが時として憎らしくなることだってあるのになぜか嫌いになれない。そういう人物に出会えるのも、小説の面白さで奥深さだと思います(現実はいったん苦手だと感じたら、他の部分を見ようともせずに遠ざかる事の方が多いし)。
という事を考えながら読み進めるうちに、圧倒的な読後感へと連れていかれる作品です。時の経過は幸せを祈ることを諦める理由にはならない。
そして本作は全4話収録の短編集ですが、最後を飾る『クリスマスの思い出』はアメリカ文学における屈指の名短篇だと思います。有名すぎる表題作に隠れてしまうのがもったいないので全力で推したいです。
⑨ サリンジャー 生涯91年の真実
ケネス・スラウェンスキー/晶文社
『キャッチャー・イン・ザ・ライ』や『ナイン・ストーリーズ』で有名な作家・サリンジャーの評伝映画の原作本。
長年ファンサイトを運営されている著者ならではの愛に満ちた仕上がりで、未発表の物も含めた作品のあらすじや批評まで掲載されている点が大変ありがたい一冊です。
迎合と無縁だった人間性や、編集者などの周囲の人に裏切られる経験が重なった結果、若くして隠遁生活に入る事を選んだサリンジャー。でも作品と己自身が分かち難く結びついているが故に、他者との交流を断つ事はその時の最善手であっても最適解ではなかったんじゃないかと正直思う。否定する権利もないし、幸せだったことを祈るしか出来ないのだけど。
……ちょっと私はサリンジャーに対しては敬愛が強すぎて冷静に書けそうにないです。彼の作品はこれからも何度でも読みますし、本作もずっと手許に置きます。
⑩ コロナ脳 日本人はデマに殺される
小林よしのり・宮沢孝幸/小学館新書
私はテレビを観ないのでネットニュースの話になりますが、去年から疑問に思っていた事があります。
本日の新規感染者数は○人、重症者数は●人に
という記事タイトルがこれまでにも何度となく散見されてきたんですが、これ中身を読んでみると感染者数の方は「新規」なのに対して、重症者数は「累計」なんですよ。
ちゃんとリンク先の文章を全部読めば「重症者は1人増えて●人に」等の詳細は分かるものの、タイトルしか見ない人にとっては今日感染確認された○人のうち●人が重症、という誤解を招きかねない書き方じゃないか? という点が気になって堪らず、モヤモヤした気持ちを抱いていました。
実際の状況以上に恐ろしいものとして受け取られてしまうんじゃないか??って。
そんな中、
・日本で発表されている新型コロナウイルスの死者数は直接死と関連死が区別されていないこと
・PCR検査が陽性なら死因によらず全て「新型コロナウイルスによる死者」として厚生労働省に報告する事になっていること
を知って驚きました。
以下リンク先は2021年8月28日のニュースです。
>また、20代の男性は死因は外傷でしたが、死後の検査で感染していることがわかったということです。
>都の集計では、20代の人が亡くなるのは2人目です。
実際にこう書かれているんです。
これが「東京都では20代の若者でも2人コロナで亡くなっている」という言説になっていくっておかしいと思いませんか?
いまだにニュースを見れば「過去最多を更新」「○曜日では過去最多」などの文言が並び、誰もが常に隙間なくぴったりとマスクを着け、あらゆる場面で消毒を徹底し外出を控え、著名人の感染報告が毎日のように大々的にニュースになる。
でも一年以上が経って、東京都の福祉保健局や厚生労働省などが発表する様々なデータが出揃ってきた事で、おおっぴらには口にしづらいけれど「コロナって本当にそこまで恐れないといけないウイルスなのか?」という疑問が胸に渦巻いていました。
そんな時に出会えたのがこの本でした。
ずっと感じていた違和感への回答を見事に解説してくれるのみならず、自殺者数の増加を筆頭に、私の浅薄さでは思い至れなかった様々な点まで指摘されていて。
読んでて少し泣きそうになりました。
確かに今までウイルスと細菌の違いすら知らなかった。
4月に発売になった本ですが、いま読んでも構いません。全然古くなってない。
対談形式で分かりやすいので、コロナを恐いと感じている人にこそ読んでほしい。
コロナ禍を終わらせるために必要なのは「正しく恐がる」ことだと思う。その一助になってくれる一冊です。
最後にこちらの動画を紹介します。
日本でもロックダウンが必要だと考える人に見てほしいです。
おまけ① クエーサーと13番目の柱
阿部和重/講談社文庫
誕生日プレゼントに貰ったので特別な一冊。
伊坂幸太郎さんとの共著『キャプテンサンダーボルト』を除けば著者初読みなので、地の文の文末に「た」が見当たらず全ての場面が現在進行形で描かれる独特な文章が本作だけなのかそれとも著者の特徴なのかが気になるところ。徹底したリアリズムと、約束されていた予定調和を超えていく結末のカタルシスにえもいわれぬ高揚感を得たのです。
今では「推し」って表現が完全に市民権を得てしまったけど「クエーサー」も悪くないね。切実でひたむきな不即不離。
おまけ② あんなに、あんなに
ヨシタケシンスケ/ポプラ社
これも誕生日プレゼントで貰いました。
親と子の喜怒哀楽に満ち充ちたいつものほのぼのイラストを「あんなに、あんなに」の言葉にのせて眺める事が、自分が子供の頃の出来事や生じた感情を追体験する事でもあってダイレクトに涙腺にくる一冊。
(クレヨンしんちゃんの映画『オトナ帝国の逆襲』が好きな人にはとても響くと思う)
もし自分に子供がいたらその子に想いを馳せながら読む事になるのかな~~とも感じるんだけど、今の私は自分の子供の頃を振り返るのと同時に、老いていく母を想わずにはいられなかった。身長だってとっくの昔に追い抜いているのに、思い浮かぶのはいつだって子供の頃に頼りにしていた大きな存在だった姿というのも不思議な話ですよね。
おまけ③すでにnoteに記事を書いているという理由で削った名作たち
『推し、燃ゆ』宇佐見りん/河出書房新社
『一文物語集』飯田茂実/e本の本
『未來のイヴ』ヴィリエ・ド・リラダン/東京創元社
『ZOO』乙一/集英社
『gift』古川日出男/集英社文庫
以上です!
去年後半の半年間よりも読了冊数は減ったのですが、それでも選ぶのに難儀したのは喜ばしいことです。
今は恋人から借りたプレステ2で『ペルソナ3フェス』というゲームをプレイしている真っ最中でして、その影響で本を全然読めていなかったりします。
2021年後半の読了冊数は前半以上に少なくなるのがほぼ確定という具合。10冊選べるのかなほんとに。
でもそれはそれとして名作だと感じます『ペルソナ3』。
終盤の展開やキャラクター達の台詞のひとつひとつが今のコロナ禍に重なるものがあって身をつまされるのと、このタイミングでプレイできたおかげで自分の死生観に向き合うきっかけをもらえたのと。
いつかnoteでも記事を書いてみたいものです。
※前回の記事はこちら。