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まいにち易経_0221【虚栄の宴:笑顔の裏に隠された本音】引きて兌ぶ。[58䷹兌為澤:上六]

上六。引兌。 象曰。上六引兌。未光也。

上六は、引いてよろこぶ。 象に曰く、上六引いて兌ぶは、いまだおおいならざるなり。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

「和して同ぜず」という言葉をご存知でしょうか。これは孔子の教えの一つで、「調和は大切だが、ただ単に同調するのではない」という意味です。この考え方は、今日のテーマと深く関連しています。

さて、ここで皆さんに質問です。リーダーとして、どのように部下や同僚を喜ばせるべきだと思いますか? ここで、易経が警告している「引きて兌ぶ」という概念について説明しましょう。これは、不適切な方法で人々を喜ばせようとすることを指します。

例えば、高い地位にある人が、自分の周りに取り巻きを作ろうとして、言葉巧みに人々を喜ばせようとする行為です。具体的には、若い社員を集めて自分の昔の成功談を延々と語り、自慢するようなケースが挙げられます。
このような行為は、一見すると人々を喜ばせているように見えるかもしれません。しかし、実際には自己中心的で、真の意味でのリーダーシップとは言えないのです。

昔、ある村に「いつも笑顔の老人」と呼ばれる人がいました。彼は村人たちに常に冗談を言い、笑わせていました。村人たちは彼のことを好きでしたが、実は彼の冗談の多くは他人を軽んじるものだったのです。ある日、若い旅人がこの村を訪れ、老人の本当の姿を見抜きました。旅人は村人たちに、「真の喜びは他人を貶めることではなく、互いを高め合うことから生まれる」と教えました。これは、まさに今日のテーマに通じる教訓です。

では、適切な「喜ばせ方」とは何でしょうか?それは、相手の成長や成功を心から喜び、支援することです。つまり、自分の栄光を語るのではなく、他者の可能性を信じ、彼らが自己実現できるよう導くことなのです。

これは、現代の組織心理学でも裏付けられています。例えば、「サーバント・リーダーシップ」という概念があります。これは、リーダーが自分の欲求よりも部下のニーズを優先し、彼らの成長をサポートするリーダーシップスタイルを指します。このアプローチは、長期的には組織全体の成功につながるとされています。

また、「心理的安全性」という概念も重要です。これは、チームメンバーが自由に意見を言い、失敗を恐れずにリスクを取ることができる環境を指します。真のリーダーは、このような環境を作り出すことで、チーム全体の創造性と生産性を高めることができるのです。

ここで、もう一つ興味深い例を挙げましょう。古代ギリシャの哲学者ソクラテスは、「産婆術(問答法)」と呼ばれる教育方法を用いました。これは、教師が一方的に知識を与えるのではなく、質問を通じて生徒自身の中にある知恵を引き出す方法です。現代のリーダーシップにも通じる考え方ですね。つまり、リーダーの役割は答えを与えることではなく、フォロワーが自ら答えを見つけられるよう導くことなのです。

易経の教えに戻りましょう。「引きて兌ぶ」行為は「志の低さそのもの」だと言われています。これは厳しい言葉に聞こえるかもしれません。しかし、これは自戒の念を込めて述べられているのです。つまり、リーダーとしての自分自身を常に振り返り、行動を慎重に考える必要があるということです。

リーダーシップは孤独な旅路でもあります。時に、周りから理解されないこともあるでしょう。しかし、真のリーダーは短期的な人気よりも、長期的な影響力を選びます。それは、時に厳しい決断を下し、不人気になるリスクを負うことも意味します。

ここで、日本の歴史から興味深い例を挙げましょう。戦国時代の武将、上杉謙信は「義の武将」として知られています。彼は、敵対していた武田信玄が塩不足で困っているとき、自らの領地の塩を送ったと言われています。これは短期的には不利益をもたらす行動でしたが、長期的には謙信の名声と信頼を高めることになりました。これは、真のリーダーシップの本質を示す好例と言えるでしょう。

最後に、皆さんにお伝えしたいことがあります。リーダーシップは地位や権力ではありません。それは、他者のために尽くす姿勢、そして自己の行動を常に振り返る謙虚さにこそあるのです。易経の教えは、何千年も前のものですが、その本質は今も変わっていません。

皆さんは、将来のリーダーとして大きな可能性を秘めています。しかし、その道のりは決して楽ではありません。常に自己を省み、他者のために尽くす覚悟が必要です。そして、短期的な人気よりも、長期的な信頼を選ぶ勇気が求められます。

今日学んだことを、ぜひ日々の生活や仕事の中で実践してみてください。小さな行動から始めればいいのです。例えば、チームメンバーの意見をより丁寧に聞く、彼らの成功を心から喜ぶ、そして自分の過ちを素直に認める。これらの小さな行動の積み重ねが、やがて大きな変化をもたらすでしょう。


参考出典

不正な悦ばせ方
兌為沢の卦が示す、悦ぶ、悦ばせることにも、正と不正があると説く。
「引きて兌ぶ」とは、小人の不正なる悦ばせ方である。
高い地位にある者が、取り巻きを作ろうと、言葉巧みに悦ばせようとする。若い社員を集めて、自らの昔の成功談を語り、自慢することもその一例である。その姿は志の低さそのものである。自戒して、慎むべきである。

易経一日一言/竹村亞希子

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