★まいにち易経_0712【啓蒙:求める心が未来を拓く】我より童蒙に求むるにあらず。童蒙より我に求む。[04䷃山水蒙:卦辞]
匪我求童蒙。童蒙[來]求我。
師、自ら進んで無知蒙昧な者を教え導いてはならない。自分の無知蒙昧を自覚している者から進んで師に教え乞い求めるものでなければならない。
カルト教団の信者のように、一方的に教義を詰め込まれているだけでは、一生涯無知蒙昧を克服することはできない。
ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る
まず、『山水蒙』という言葉自体について少し説明させてください。「山」と「水」という自然の要素が組み合わさっているのがお分かりでしょうか。山は高くそびえ立ち、水は低いところを流れます。これは、知識や経験の豊かな教える側と、まだ学びの途上にある学ぶ側の関係を表しているのです。
「蒙」という字は、草木が地面から芽を出そうとしている様子を表しています。つまり、何かが始まろうとしている、成長しようとしている状態なのです。私たちの人生も、常に新しいことを学び、成長し続ける過程にあると言えるでしょう。
『山水蒙』の教えの核心は、「匪我求童蒙。童蒙[來]求我。」という言葉にあります。これは「我、童蒙を求むるにあらず。童蒙、来りて我に求む。」と読みます。
どういう意味かというと、「私が教えを与えようとして学ぶ者を求めているのではない。学ぶ者の方から私に教えを求めてくるのだ。」ということなのです。
江戸時代の儒学者、伊藤仁斎という人物をご存知でしょうか。彼は若い頃、儒学の難解な古典を必死に学んでいましたが、なかなか本質が理解できませんでした。ある日、「新鮮な魚は目が澄んでいて、はっきりしている」という言葉にハッとさせられます。
仁斎はこの言葉から、学問も同じではないかと気づきました。本当に理解できていれば、それを明快に説明できるはずだ、と。それ以来、彼は難しい言葉を使わず、誰にでも分かるように儒学を説くようになりました。これこそが、真の理解と学びだったのです。
この逸話は、『山水蒙』の教えとも通じるものがあります。仁斎は、自らの疑問や求めに応じて学びを深めていったのです。そして、その学びは単なる知識の蓄積ではなく、実践的で生きた知恵となりました。
教える側の視点
さて、ここで少し視点を変えて、教える側の立場について考えてみましょう。『山水蒙』の教えは、教える側にも重要なメッセージを投げかけています。それは、学ぶ側の意欲を尊重し、その求めに真摯に応えるということです。
例えば、皆さんが将来、チームのリーダーになったとしましょう。チームメンバーの誰かが、あるプロジェクトについて質問してきました。この時、どう対応するのが良いでしょうか?
『山水蒙』の教えに従えば、まずはその質問の背景にある意欲や関心を大切にします。そして、単に答えを教えるのではなく、その人が自分で考え、答えを見つけられるようサポートすることが大切です。
これは、古代中国の思想家である孔子の教育方法とも通じるものがあります。彼の教えもまた、「童蒙来求我」の精神に基づいています。孔子は弟子たちに対して、決して一方的に教えることはせず、弟子たちが質問を持ってきた時に、初めて教えを授けました。このようにして、弟子たちは自ら学びたいことを見つけ、それを深く追求する姿勢を身につけたのです。
(意訳)人に教えるには、相手に基本的な理解があることが前提だ。問題が理解できずに悩んでいる様子がないなら、教えない。何か言いたくてもどう表現すればいいか分からず困っているのでなければ、教えない。一度教えても反応が鈍かったり、一つのことを教えたら三つのことを推測できる能力がない者には、それ以上教える意味がない。
ここで、もう一つ興味深い例を紹介しましょう。20世紀の偉大な物理学者、リチャード・ファインマンの話です。ファインマンは「ファインマン・テクニック」と呼ばれる学習法を考案しました。これは、学んだことを他の人に教えるつもりで説明してみるという方法です。
例えば、難しい物理の概念を学んだら、それを小学生にも分かるように説明してみる。そうすることで、自分の理解が不十分な部分が明らかになり、さらに学びを深められるのです。
これも『山水蒙』の精神と通じるものがあります。教えることで学び、学ぶことで教える。この相互作用が、真の成長をもたらすのです。
ここまでの話をまとめてみましょう。
常に学ぶ姿勢を持ち続けてください。知識や技能は、誰かに与えられるものではなく、自ら求めて得るものです。
分からないことがあれば、恥ずかしがらずに質問してください。質問することは、学ぶ意欲の表れであり、成長への第一歩です。
将来、人を指導する立場になったら、相手の学ぶ意欲を大切にしてください。押し付けるのではなく、相手が自ら考え、気づくのをサポートしてください。
学んだことを他の人に分かりやすく説明してみてください。それが、自分の理解を深める最良の方法の一つです。
学びと教えは双方向のプロセスだということを忘れないでください。教える側も学ぶ側から多くのことを学べるのです。
最後に、私の経験から一つアドバイスをさせてください。ビジネスの世界では、常に新しい課題が現れます。そのたびに「これは自分には難しすぎる」と尻込みしてしまっては、成長の機会を逃してしまいます。
代わりに、「これは面白い挑戦だ」と前向きに捉えてみてください。そして、必要な知識やスキルを積極的に求めていってください。そうすることで、皆さんは常に成長し続けるリーダーになれるでしょう。
『山水蒙』の教えは、何世紀も前の中国で生まれましたが、その本質は今でも十分に通用します。むしろ、情報があふれ、変化の激しい現代だからこそ、この教えの価値は高まっているのかもしれません。
皆さんが、この『山水蒙』の精神を胸に、常に学び、成長し続けるリーダーになることを心から願っています。
参考出典
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