見出し画像

まいにち易経_0115【家庭のバランスアート】父は父たり、子は子たり、兄は兄たり、弟は弟たり、夫は夫たり、婦は婦たり、しかして家道正し。[37䷤風火家人:彖伝]

家人有嚴君焉。父母之謂也。父父子子兄兄弟弟夫夫婦婦。而家道正。正家而天下定矣。

彖に曰く、家人は、じょくらいを内に正し、男くらいを外に正す。男女正しきは、天地の大義なり。家人 に厳君ありとは、父母のいなり、ちちちちたり、は子たり、あにあにたり、おとうとおとうとたり、おっとおっとたり、つまつまたり、しかして家道かどう正し。家を正しくして天下定まる。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

まず、この「風火家人」という言葉を見てみましょう。「風火」というのは、風と火という自然現象を指しており、「家人」は家族を意味します。風は火を強めることもあれば、火を消すこともある。家族も同じで、互いの行動や言葉が他のメンバーに影響を与え、家庭全体の調和を保つかどうかが決まるのです。

易経には「父は父たり、子は子たり」とありますが、これは「父親は父親らしく、子供は子供らしく」という意味です。これを聞くと、現代のリーダーシップに関しても何か思い当たる節があるでしょう。会社やチームでも、それぞれのメンバーが自分の役割を理解し、それをしっかりと果たすことが重要だということです。

ここで、少し昔話をさせてください。私が若い頃、ある大企業の経営者として多くのチームを率いてきました。その中で気づいたのは、成功するチームとそうでないチームには、明確な違いがあるということです。成功するチームでは、メンバー全員が自分の役割を理解し、それに徹しているのです。父親は父親の役割を、子供は子供の役割を果たすという、まさに「風火家人」の教えが息づいていたのです。

また、家庭での役割とチームでの役割を混同してはいけません。例えば、家では父親がリーダーシップを発揮するのが自然ですが、会社では必ずしもそうではありません。状況や課題に応じて、誰がリーダーシップを取るべきかが変わってくるのです。ここで重要なのは、「役割」を理解することです。リーダーシップを発揮する時と、サポートに回る時、その判断が求められます。

さらに、易経の教えはただ役割を果たすことだけではありません。それぞれの役割に対して、責任と誠実さを持つことが求められます。リーダーとして、あるいはチームの一員として、あなたがどんな立場にあろうとも、その場で果たすべき役割を全うすることが、組織の成功につながります。

少し別の話をしましょう。アフリカのサバンナで生きるライオンの群れを考えてみてください。ライオンの群れにはそれぞれ役割があります。メスのライオンは狩りをし、オスのライオンは群れを守る。お互いが自分の役割を果たすことで、群れ全体が生き延びるのです。もし、オスが狩りに出たり、メスが戦いに挑んだりしたら、どうなるでしょう?群れ全体が危険にさらされます。これは、人間社会でも同じことが言えるのです。

また、役割を果たす中で、互いの力を補完し合うことも重要です。風と火の関係性のように、お互いがどのように影響し合い、支え合うかが、組織全体の成長や発展に繋がるのです。例えば、あるメンバーが短所を持っていたとしても、他のメンバーがそれを補うことで、チーム全体が強くなるのです。これは、リーダーとしての大切な役割でもあります。チームの中で各メンバーの強みを理解し、それを最大限に引き出すことが求められます。

そして、もう一つ大事なポイントがあります。それは、各々の役割を尊重することです。リーダーが部下の仕事を軽視したり、部下がリーダーの判断に対して不満を持つことは、組織の調和を乱します。家庭でも、父親や母親が子供の意見を無視したり、子供が親のアドバイスを軽視するような状況は、家族の絆を弱めます。互いに尊重し合い、信頼を築くことが、最終的に強いチームや家庭を作るのです。

例えば、日本の茶道においても、「おもてなし」という言葉がありますが、これも一種の役割分担です。亭主は客人を迎え入れる役割を果たし、客人はそのおもてなしを受け入れる役割を果たします。どちらかがその役割を怠ると、茶会の雰囲気が壊れてしまいます。つまり、役割を果たしつつ、相手を尊重するというのは、どんな場面でも重要な考え方なのです。

最後に、皆さんに覚えておいてほしいことがあります。リーダーシップとは、ただ指示を出すだけのものではありません。それは、チームの一員としての役割を理解し、その役割を全うしつつ、他のメンバーの役割を尊重し、補い合うことです。これが、組織を成功に導くための鍵であり、易経の教えが私たちに伝えている重要なメッセージでもあります。

「風火家人」という易経の一節は、一見すると家庭内の教えに見えますが、その本質はリーダーシップや組織運営にも通じる普遍的な真理を含んでいます。皆さんがこれからリーダーとして歩んでいく中で、この教えを心に留め、役割を果たしつつ、他者を尊重し、組織全体の調和を保つことを心掛けてほしいと強く思います。


参考出典

父は父たり、子は子たり
家庭が円満であるためには、親子、兄弟、夫婦が各々の持ち場を守ることである。父は父らしく、子は子らしく、兄は兄らしく、弟は弟らしく、夫は夫らしく、妻は妻らしくあるのがよい。
すべての存在には区別役割がある。「父の役割とは」「子の役割とは」と自らに問いかけ。

易経一日一言/竹村亞希子

#まいにち易経
#易経 #易学 #易占 #周易 #易 #本田濟 #易経一日一言 #竹村亞希子 #最近の学び #学び #私の学び直し #大人の学び #学び直し #四書五経 #中国古典 #安岡正篤 #人文学 #加藤大岳 #風火家人

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集