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まいにち易経_1206【過ぎたるは及ばざるが如し:リーダーのためのバランス術】飛鳥これが音を遣す。上るに宜しからず、下るに宜し。大いに吉なり。[62䷽雷山小過:卦辞]

小過。亨。利貞。可小事。不可大事。飛鳥遺之音。不宜上宜下。大吉。

小過は、亨る。貞しきに利あり。小事しょうじには可なるも大事には可ならず。飛鳥ひちょうこれがのこす。のぼるによろしからずくだるによろし。大いに吉。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

今日は易経の中から「小過」という教えについてお話ししたいと思います。これは「しょうか」と読みますが、「少しく過ぎる」という意味です。若い皆さんにとって、この教えはとても大切なものになるでしょう。

まず、イメージしてみてください。空高く飛ぶ鳥の姿を。その鳥は声は聞こえるのに、姿が見えないほど高く飛んでいます。皆さんも、時々そんな風に感じることはありませんか?目標に向かって一生懸命頑張っているのに、周りの人には自分の努力が見えていないような。そんな経験はありませんか?

この教えは、そんな状況に警鐘を鳴らしているのです。高く飛びすぎると、疲れてしまいます。そして、着地する場所を見失ってしまうかもしれません。これは仕事や勉強、人間関係など、人生のあらゆる面に当てはまる教訓です。

私も若い頃は、仕事に没頭するあまり、家族との時間を疎かにしてしまったことがあります。毎日遅くまで働き、休日も出勤する日々。確かに仕事では成果を上げましたが、気がつけば子どもの成長する姿を見逃していたのです。これは私の人生における「小過」、つまり少し行き過ぎてしまった瞬間でした。

皆さんにはこんな経験をしてほしくありません。バランスを保つことの大切さを、若いうちに学んでほしいと思います。

では、どうすればいいのでしょうか?
答えは簡単です。「やりすぎたな」と感じたら、すぐに立ち止まって考えることです。鳥が高く飛びすぎたと感じたら、地上に降りて休むように。私たちも、行き過ぎを感じたら、一度立ち止まって休憩する必要があるのです。

これは決して「頑張るな」という意味ではありません。むしろ、長期的に頑張り続けるために必要な知恵なのです。マラソンを走る時のことを考えてみてください。スタートダッシュで全力疾走すれば、確かに最初は他の人より前に出られるでしょう。でも、そのペースを最後まで維持できるでしょうか?おそらく、途中で力尽きてしまうはずです。

人生も同じです。長い人生のレースで、バランスよく力を配分することが大切なのです。

ここで面白い例を紹介しましょう。アメリカの心理学者ミハイ・チクセントミハイが提唱した「フロー理論」というものがあります。これは、人が最も幸福で生産的になる状態を説明したもので、課題の難しさと自分の能力のバランスが取れている時に「フロー状態」になるというものです。

つまり、課題が簡単すぎれば退屈してしまいますし、難しすぎれば不安や焦りを感じてしまう。ちょうどいい難しさ、ちょうどいい挑戦が大切なのです。これは「小過」の教えとよく似ています。行き過ぎず、かといって怠けすぎず、ちょうどいいバランスを見つけることの大切さを教えてくれているのです。

皆さんも日々の生活の中で、このバランスを意識してみてはどうでしょうか。仕事で新しいプロジェクトを任されたとき、全力で取り組むことは大切です。でも、そのために睡眠時間を削ったり、友人との約束をキャンセルしたりするのは「小過」かもしれません。そんな時は、一度立ち止まって考えてみましょう。本当にそこまでする必要があるのか、別の方法はないのか、と。

また、趣味や自己啓発にも同じことが言えます。新しい言語を学び始めたとき、最初は意欲に燃えて毎日何時間も勉強するかもしれません。でも、それを続けていくうちに疲れてしまい、結局は挫折してしまう。そんなことにならないよう、無理のないペースで継続することが大切です。

「継続は力なり」とよく言いますが、その継続を可能にするのが「小過」の教えなのです。

さて、ここまでお話ししてきて、皆さんの中には「でも、大きな成功を収めるには、時には極端なことも必要なのでは?」と思う人もいるかもしれません。確かに、歴史上の偉人たちの中には、常識を超えた行動で成功を収めた人もいます。
しかし、よく考えてみてください。彼らは本当に「行き過ぎ」ていたのでしょうか?むしろ、周りから見れば極端に見えても、本人の中では絶妙のバランスを取っていたのではないでしょうか。

例えば、アップル社の共同創業者であるスティーブ・ジョブズは、仕事に対して完璧主義だったことで知られています。一見すると、これは「行き過ぎ」のように見えるかもしれません。しかし、彼の完璧主義は、製品の品質を高め、顧客満足度を上げることにつながりました。つまり、彼にとってはそれが「ちょうどいい」バランスだったのです。

大切なのは、自分自身のバランスポイントを見つけることです。それは人それぞれ異なるでしょう。ある人にとっての「行き過ぎ」が、別の人にとっては「ちょうどいい」かもしれません。自分自身をよく観察し、自分にとってのベストなバランスを見つけることが重要なのです。

最後に、この「小過」の教えを日々の生活に活かすためのヒントをいくつか紹介しましょう。

  1. 定期的に自己点検する時間を設ける:
    週に一度、あるいは月に一度でも構いません。自分の生活を振り返り、バランスが取れているかどうかチェックしてみましょう。仕事や勉強に偏りすぎていないか、趣味や友人との時間が確保できているか、など。

  2. 「NO」と言う勇気を持つ:
    時には、新しい仕事や役割を断ることも必要です。自分のキャパシティを超えそうな時は、丁寧に断る勇気を持ちましょう。

  3. 小さな成功を祝う:
    大きな目標に向かって頑張るのは素晴らしいことですが、その過程での小さな成功も忘れずに祝いましょう。それが、長期的なモチベーション維持につながります。

  4. 休息の重要性を理解する:
    休むことは怠けることではありません。むしろ、次の行動のためのエネルギー補給なのです。適度な休息を取ることで、より効率的に物事を進められるようになります。

  5. 多様な経験を大切にする:
    一つのことに没頭するのも大切ですが、時には全く異なる分野の経験をすることで、新しい視点や発想が生まれることがあります。

これらのヒントを参考に、皆さん一人一人が自分なりの「小過」のバランスを見つけていってほしいと思います。


参考出典

行き過ぎに注意
飛ぶ鳥の鳴き声はするが、姿は見えない。高く飛び過ぎてばかりで止まる場所を得ないのでは、疲れてしまう。飛び過ぎたな、無茶をしたなと思ったら、速やかに力を抜いて地上に降りて休むのがよい。
これはやりすぎを戒める、日常のあらゆる事柄における教訓である。
雷山小過の卦名「小過」は、少しく過ぎる。日常的な事柄に関して少しずつ行き過ぎや過ちがある時を説く。

易経一日一言/竹村亞希子

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