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まいにち易経_0530【中庸:囚われなく、その時に適切な】怒るべきときには烈火のごとく怒る。

「中庸」と聞いて、あなたはどんなイメージを抱くだろうか。もしかすると、穏やかで、優柔不断な人間像を思い浮かべるかもしれない。しかし、それはとんでもない誤解だ。中庸とは、ただただ波風を立てずに生きることではない。その核心には、状況に応じて最善の行動を選び取る知恵と勇気が詰まっているのだ。

近所に、いつも静かに微笑むおじいさんがいる。彼はまさに中庸の達人だ。毎朝、公園のベンチに腰掛け、鳩に餌をやりながら通り過ぎる人々と挨拶を交わす。彼の穏やかな態度は、まるで風に揺れる柳のようだ。しかし、彼の人生は決して穏やかではなかった。戦後の混乱期を生き抜き、家族を守り抜いた彼の眼差しには、深い決断と強靭な意志が宿っている。

ある日のこと。近所の子供たちが騒ぎを起こし、公園の花壇を荒らしてしまった。大人たちはどうすべきか悩み、誰も行動を起こさなかった。そんな中、そのおじいさんはゆっくりと立ち上がり、子供たちに近づいて、静かに話し始めた。怒ることなく、しかし厳然と、彼は子供たちに花壇の大切さを説き、次回から気をつけるように約束させたのだ。

また、別の日。地域の集会で激しい議論が巻き起こり、皆が感情的になっていた。おじいさんは、そこで一言「今こそ冷静に話し合う時だ」と言っただけで、場の雰囲気は一変した。その一言が持つ重みと信頼感は、彼の日々の行動と態度によって築かれたものだろう。

中庸とは、単なる「ほどほど」ではない。それは、状況に応じた最善の行動を選ぶための高度な判断力と、人としての強さを求められるものだ。進むべき時には進み、退くべき時には退く。その決断の背後には、自己の信念と他者への配慮がある。だからこそ、中庸を実践する人は、真に強いのである。

中庸の精神を身につけるためには、自己の内面と向き合い、自分自身を深く理解することが必要だ。そして、その理解をもとに、常に最善の選択を心がける。それは決して容易なことではないが、その道を歩むことで、我々はより豊かな人生を築くことができるだろう。

ある異業種交流会の講演に招かれた老易学者が、若き起業家たちを前に語る。

「中庸」とは「囚われなく、その時に適切な」という意味です。これは、単に中間の立場をとるという意味ではありません。状況に応じて適切な行動をとること、時には大胆に進み、時には慎重に退く、その判断力を持つことが重要です。例えば、会社が成長期にあるときには、積極的に市場拡大や新規事業に投資することが求められます。しかし、逆に市場が不安定でリスクが高い時期には、一歩引いて内部の強化やコスト削減に注力することが賢明です。このように、状況に応じて進退を決めることが中庸の精神です。

中庸のもう一つの重要な側面は、決断のタイミングです。多くの経営者は、自分の地位や立場が危うくなることを恐れ、決断を先延ばしにすることがあります。しかし、進むべき時には進み、退くべき時には退く勇気が必要です。

例えば、大きなプロジェクトが失敗した時、経営者としての責任を感じて落ち込むことは避けられません。しかし、その悲しみや落胆を社員に見せすぎると、組織全体の士気に悪影響を与えてしまいます。逆に、成功した時に過度に喜びすぎると、その後の困難に対する準備が疎かになる可能性があります。適度な感情のコントロールが、中庸の一部と言えるでしょう。

では、具体的な経営の場面でどのように中庸を実践するかについて考えてみましょう。

1. 人材育成と評価

中庸の精神を持つ経営者は、社員の育成と評価においてもバランスを取ることが重要です。優れた社員には賞賛と報酬を与え、モチベーションを高めますが、一方で過度な優遇は他の社員の不満を招きます。また、問題のある社員に対しては適切な指導と支援を提供しつつ、組織全体の利益を守るための厳格な対応も必要です。

2. 財務管理

企業の財務管理においても中庸の精神が必要です。利益を追求するあまりにコスト削減に走りすぎると、社員の士気や顧客満足度に影響を与える可能性があります。一方で、必要以上にリスクを取って投資を行うと、企業の財務基盤を脅かす危険性があります。バランスを保ちながら、長期的な視点で財務管理を行うことが重要です。

3. 市場戦略

市場戦略においても、中庸の精神は欠かせません。新しい市場に進出する際には、リスクとリターンを慎重に評価し、無謀な拡大を避けることが求められます。同時に、既存市場に固執しすぎると、競争に遅れを取ることになります。適切なタイミングで新市場に進出し、リスクを分散する戦略が必要です。

中庸の精神を理解するためには、歴史や他の文化からの教訓も役立ちます。例えば、日本の戦国時代において、徳川家康はまさに中庸の精神を体現した人物と言えるでしょう。彼は若い頃から幾多の困難を経験し、時には大胆に行動し、時には慎重に身を引くことで、最終的には天下統一を果たしました。このような歴史から学ぶことは、現代の経営にも応用できる重要な教訓です。


参考出典

「中庸」は、「囚われなく、その時に適切な」という意味。
行動に出るべき時には出る、控えるべき時には控える。自分の地位や立場が危うくなろうとも、進むべき時であれば進み、退くべき時であれば退く。時には嘆き悲しみ、時には喜び、時には烈火のごとく怒る
軋轢を避け、波風を立てないように、常にほどほどの加減を保とうとすることが中庸の精神かというと、そうではない。


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