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まいにち易経_1025【革言三たび就る】征けば凶なり。貞しけれども厲し。革言三たび就れば、孚あり。[49䷰澤火革:九三]

九三。征凶。貞厲。革言三就。有孚。 象曰。革言三就。又何之矣

九三は、征けば凶。ただしけれどあやうし。かく言三ことみたびりて、孚あり。 象に曰く、革の言三ことみたび就る、又いずくにかかん。

征:躁動、過度に急進的であること
言:改革に関する理論や政策の方針
三:上下関係や改革の設計者の三方面を指すと同時に、多くの階層の人々
就:意見を求めること
有孚:誠意や信頼

変革を行う際、性急すぎて過激になると凶険が生じ、正しい道を守って危険を防ぐ必要がある。変革に関する言論については、何度も詳細に研究し、慎重に検討して、人々の信頼を得てこそ、成功を収めることができる。
「変革に関する言論は、何度も研究し慎重に検討する必要がある」他の道はなく、変革はすでに避けられないものとなっており、変革の道を進むしかないのだ。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

「革」という字は「改革」や「変革」を意味します。つまり、この卦は私たちに改革や変革をどのように進めていくべきかを教えてくれているのです。

若い皆さんの中には、「変化は速ければ速いほど良い」と考える方もいらっしゃるかもしれません。確かに、現代社会では「スピード」が重視されることが多いですよね。しかし、易経はここで私たちに重要な警告を発しているのです。

「革言三たび就る」。この言葉は、「改革の言葉が三度繰り返されてはじめて成就する」という意味です。つまり、改革を成功させるためには、時間をかけて段階的に進めていく必要があるということなのです。

ここで、皆さんに質問です。なぜ、改革には時間がかかるのでしょう?

そうですね、様々な理由が考えられます。一つには、人間の心理的な側面があります。私たちは往々にして変化を恐れる傾向があります。「今のままで何も問題ないじゃないか」「変える必要があるのか?」といった声が上がるのは自然なことなのです。また、組織の中での利害関係も関係してきます。ある部門にとって良い変化が、別の部門にとってはマイナスになることもあります。そのため、改革を進めるには慎重な調整が必要になってくるのです。さらに、改革には常にリスクが伴います。そのリスクを最小限に抑えるためにも、十分な準備と検討が欠かせません。

このように考えると、「革言三たび就る」という言葉の深い意味が見えてきませんか?

ここで、歴史上の興味深い例を挙げてみましょう。明治維新の大改革は一朝一夕に成し遂げられたものではありません。幕末から明治初期にかけて、実に長い年月をかけて進められました。例えば、ペリー来航が1853年、大政奉還が1867年、そして明治元年が1868年です。その間、様々な議論や衝突、試行錯誤がありました。「開国すべきか鎖国を続けるべきか」「天皇中心の新しい政治体制は本当に機能するのか」など、多くの問いが投げかけられ、議論が重ねられました。これはまさに、「革言三たび就る」の実践だったと言えるでしょう。改革の必要性が繰り返し説かれ、議論が重ねられ、そして徐々に人々の理解と支持を得ていったのです。

では、現代の私たちはこの教えをどのように活かせばよいのでしょう?

まず、改革を進める立場になったとき、「急がば回れ」の精神を忘れないでください。確かに、世の中の変化は速いです。しかし、だからこそ、慎重に、そして着実に改革を進めることが重要なのです。例えば、新しいプロジェクトを始める時、まずはチーム内で十分な議論を重ねましょう。そして、その内容を他部署にも共有し、フィードバックを得る。さらに、お客様の声も聞く。このプロセスを何度も繰り返すことで、より良い改革案が生まれてくるはずです。

また、「三たび」という言葉に固執する必要はありません。これは「十分な時間をかけて」という意味だと捉えてください。場合によっては、三回以上の議論や説明が必要かもしれません。逆に、二回で十分な場合もあるでしょう。大切なのは、改革の内容と規模に応じて、適切なプロセスを踏むことです。
そして、忘れてはならないのが「言」、つまりコミュニケーションの重要性です。改革の必要性や内容を、分かりやすく、そして粘り強く説明し続けることが求められます。時には、同じことを何度も繰り返さなければならないかもしれません。しかし、それこそが人々の理解と信頼を得るための近道なのです。

ここで、現代のビジネス界からも一つ例を挙げてみましょう。皆さんはスティーブ・ジョブズをご存じでしょう。彼は確かに革新的なプロダクトを次々と生み出しましたが、そのプロセスは決して拙速ではありませんでした。

例えば、iPhoneの開発には約2年半の歳月がかかったと言われています。その間、ジョブズは幾度となくプロトタイプを却下し、開発チームに改良を求め続けました。そして、製品が完成した後も、何度も何度もプレゼンテーションの練習を重ね、いかにして人々にiPhoneの革新性を伝えるかを考え抜いたのです。

これもまた、「革言三たび就る」の現代版と言えるのではないでしょうか。

さて、ここまでのお話を聞いて、皆さんの中には「それでは変化のスピードについていけないのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。確かに、現代社会では迅速な対応も求められます。

しかし、ここで大切なのは「バランス」です。急ぐべきときと、じっくり時間をかけるべきときを見極める。それこそが真のリーダーシップなのです。

例えば、緊急事態への対応は素早く行う必要があります。一方で、会社の長期戦略や組織文化の変革といった大きな改革には、十分な時間をかける必要があるでしょう。

このバランス感覚を身につけるには、日々の経験と学びが欠かせません。様々な状況に触れ、時には失敗も経験しながら、徐々に磨いていくものなのです。

最後に、皆さんにお伝えしたいことがあります。改革を進める上で最も大切なのは、「なぜその改革が必要なのか」という本質を見失わないことです。

単に「変化のための変化」を求めるのではなく、その改革が組織や社会にどのような価値をもたらすのか、常に考え続けてください。そして、その価値を周りの人々と共有し、理解を得ていく。それこそが、「革言三たび就る」の真髄なのです。

若い皆さんには、大きな可能性があります。新しいアイデアや斬新な発想で、世の中を良い方向に変えていく力を持っています。しかし同時に、その変革を着実に、そして持続可能な形で実現していく知恵も必要です。


参考出典

革言かくげん三たび
沢火革は改革・変革の進め方を教える卦。改革の時期を早まって進むと、いくら気持ちは正しくとも失敗する危険性がある。
改革を決行するまでには、改革を求める理由を再三述べ、賛成反対の議論が何度も行われるという過程が必要である。
そうした過程を経て、改革の機運が大衆の間に広まり、それが世論となって、はじめて信頼を得られるものだ。

易経一日一言/竹村亞希子

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