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まいにち易経_0128【力だけでは生き残れない:成功するリーダーの心得】眇にして能く視るとし、跛にして能く履むとす。虎の尾を履めば人を咥う。凶なり。武人大君となる。[10䷉天澤履:六三]
六三。眇能視。跛能履。履虎尾。咥人。凶。武人爲于大君。 象曰。眇能視。不足以有明也。跛能履。不足以與行也。咥人之凶。位不當也。武人爲于大君。志剛也。
六三は、眇にして視、跛にして履む。虎の尾を履む。人を咥う。凶。武人大君となる。 象に曰く、眇にして視る、以て明あるに足らざるなり。跛にして履む、以て与に行くに足らざるなり。人を咥うの凶は、位当らざればなり。武人大君となるは、志し剛なればなり。
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ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る
今日は「天澤履」という卦の六三の言葉について話してみようと思います。これは、リーダーとしての姿勢や心構えについて教えてくれる、とても興味深い内容です。
まず、この六三に出てくる「虎の尾を踏む」というイメージ、少し想像してみてほしいんです。虎っていうのはとてつもなく強い存在、王者の象徴でもあります。その尾を踏むというのは、あまりにも無謀な行為だとすぐに分かるでしょう。虎を怒らせたら、その結果は明らか。ガブリと噛まれてしまう。まさに「凶」となるわけです。
この卦で言いたいのは、リーダーとしての未熟さや過信が、どうしても危険な道に繋がってしまう、ということなんだ。例えば、若くして成功を手にしたり、大きな責任を背負う立場になった時、どうしても「自分ならできる」と力任せに突っ走りたくなる瞬間があるかもしれない。これは人として自然な感情だけど、この時にこそ気をつけてほしいことがあるんです。
「武人」の話
ここで出てくる「武人」という言葉についても少し触れてみましょう。「武人」というのは、力や野心が強い人を指しています。ある意味で、一時的には名誉や地位を得るかもしれない。でも、それは長続きするものではないんです。なぜかというと、彼らは往々にして謙虚さを失い、礼節を軽んじてしまうから。
礼節、つまり他人を尊重する態度や、自分を正しく律する姿勢が欠けてしまうと、どんなに力を持っていても、やがて自分の足元が崩れてしまいます。ここで重要なのは、リーダーはただ「力」があればいいわけではない、ということなんだ。実際の社会でも、成功しているリーダーには共通点があります。それは、自分の力を過信せず、常に謙虚であろうとする姿勢を持ち続けることです。
「虎」は何を意味するか?
さて、もう一つ大事なのは、「虎」が何を意味しているかです。この「虎」というのは、先人たちの知恵や経験、あるいは自然の摂理を象徴していると考えられます。つまり、私たちがこれから進む道には、既に多くの先人たちが通ってきた道や経験があるということです。無謀にその道を突き進むと、その知恵や教訓を無視することになり、大きな危険が待っている。
例えば、歴史を振り返ってみると、多くのリーダーが過去の経験や教訓を無視して失敗した例がいくらでもあります。ナポレオンやアレクサンダー大王のような偉大な人物も、最終的には過信が招いた失敗によって没落してしまいました。つまり、リーダーシップの本質というのは、自分がどれだけ強いかではなく、自分の限界や周りの状況をどれだけ正確に見極められるかにあると言えるでしょう。
謙虚さと礼節
「武人が大君になる」というのは、一見すると大きな成功を収めたように見えるかもしれません。しかし、この言葉の裏に潜む警告は、力や野心だけでリーダーシップを成り立たせてはいけない、ということです。リーダーとして求められるのは、他者の意見を尊重し、謙虚な姿勢を持ち続けること。たとえ自分が「できる」と思っていても、その力に依存して突き進むと、虎の尾を踏んでしまうことになります。
少し例を挙げてみましょう。現代のビジネス界でも、成功していた企業が突然没落することがしばしば見られます。なぜでしょうか?それは、多くの場合、リーダーが市場の変化や従業員の声に耳を傾けることを怠り、自分の成功体験に固執してしまうからです。「自分のやり方が正しい」と信じて疑わず、変化を恐れずに進むことで、最終的に大きなミスを犯す。これはまさに虎の尾を踏む行為です。
一方で、成功を長続きさせるリーダーは、常に周囲の意見を取り入れ、柔軟に対応していくことができる人です。謙虚で礼節をわきまえているリーダーは、他人の助けを借りながら進むことができるため、長期的に見ても安定した成果を挙げることができるんです。
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若いリーダーへのアドバイス
ここで、皆さんに伝えたいことがあります。それは、若いリーダーとして、これからたくさんの困難に直面するでしょうし、自信を持って進むべき時ももちろんあります。しかし、その時にこそ、自分が「虎の尾を踏んでいるのではないか?」と一度立ち止まって考えてほしいということです。
リーダーシップには、知恵や経験の積み重ねが必要です。それを無視して力任せに進むと、どこかで必ずその反動がきます。周囲のアドバイスに耳を傾け、時には一歩引く勇気を持つことが、成功への鍵となるでしょう。
また、謙虚であり続けること。これは本当に大事なことです。どんなに成功しても、どんなに力を持っていても、リーダーは常に謙虚であってほしいと思います。それこそが、真の意味で強いリーダーであり、長く人々に支持されるリーダーの姿です。
まとめ
「天澤履」の六三は、リーダーシップの危険性について警告してくれています。過信や無謀さは、リーダーとしての道を破滅へと導く要因になり得ます。しかし、謙虚さと礼節を持って人々と接し、周囲の意見や経験を尊重することで、真のリーダーシップを発揮することができるのです。
皆さんも、これからの道を進む際に、常に「虎の尾を踏んでいないか」を意識してほしいと願っています。リーダーとしての成功には、力だけでなく、深い洞察力と慎重さが求められるのです。
参考出典
武人大君となる
洞察力も推進力も未熟なのに、力があると思い込み、危険な道を恐いものなしで無謀に進む。その結果、虎の尾を力任せに踏み、ガブリと食われてしまう。凶である。武人が大君になるのと同様、無理がある。
「虎」は先人の喩え。「武人」は野心と力があり、一旦は地位と名誉を勝ち得るが、謙虚な気持ちがなく、礼節を弁えないために虎に食われ、やがて身を破滅させる。
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