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まいにち易経_1213【止まる勇気、動く自由:艮為山が導く心の調律】艮まるに敦し。吉なり。[52䷳艮為山:上九]

上九。敦艮。吉。 象曰。敦艮之吉。以厚終也。

上九は、とどまるにあつし。吉なり。 象に曰く、艮まるに敦きの吉なるは、終わるに厚きを以てなり。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

「艮為山」とは、「手厚く止まる」ということを意味しています。
山のように静かに、しっかりと立ち止まるイメージです。ビジネスの世界でも、人生でも、立ち止まることの大切さを教えてくれているのです。

皆さんは、常に前進することが大切だと思っているかもしれません。確かに、目標に向かって進むことは素晴らしいことです。しかし、時には立ち止まることも同じくらい重要なのです。

例えば、登山を想像してみてください。山頂を目指して一気に駆け上がろうとすると、途中で体力を使い果たしてしまうかもしれません。しかし、適度に休憩を取りながら登れば、確実に頂上にたどり着けるでしょう。ビジネスや人生も同じなのです。

「艮為山」の教えは、まさにこの「適切なタイミングで立ち止まること」の重要性を説いています。ただし、ここで言う「止まる」というのは、単に何もしないということではありません。「手厚く止まる」のです。つまり、意識的に、そして丁寧に立ち止まるということです。

皆さんの中には、「止まる」ということに抵抗を感じる方もいらっしゃるかもしれません。特に、若くてエネルギッシュな皆さんは、常に前に進みたいと思っているでしょう。でも、考えてみてください。

車を運転しているとき、赤信号で止まらなければどうなるでしょうか?事故を起こす可能性が高くなりますよね。同じように、人生やビジネスにおいても、適切なタイミングで止まることが、実は前に進むための重要なステップなのです。

ここで、私が若い頃に経験した話をさせていただきます。私が初めて会社の経営に携わったとき、とにかく成長することばかりを考えていました。新しい事業、新しい市場、常に「次」を追い求めていたのです。その結果、会社は急成長しました。しかし、同時に多くの問題も抱えることになったのです。

社員は疲弊し、品質管理も追いつかず、財務状況も悪化していきました。そんなとき、古参の取締役から「艮為山」の教えを聞いたのです。「今こそ、手厚く止まるときだ」と。

最初は戸惑いましたが、その助言に従い、会社の成長にブレーキをかけることにしました。新規事業の展開を一時停止し、既存の事業の見直しに時間を割きました。社員との対話を増やし、品質管理システムを再構築しました。財務体質の改善にも取り組みました。

結果として、この「止まる」期間が、その後の持続可能な成長への大きな転換点となったのです。社員のモチベーションは上がり、顧客からの信頼も厚くなりました。財務状況も改善し、その後の成長の土台となったのです。

このように、「手厚く止まる」ということは、決して後退ではありません。むしろ、より確実に、より遠くへ進むための準備期間なのです。

皆さんも、将来リーダーとして活躍する中で、様々な局面に直面することでしょう。そのとき、常に前進することだけが正しい選択ではないということを覚えておいてください。時には「手厚く止まる」勇気を持つことが、真のリーダーシップなのです。

ここで、「手厚く止まる」ための具体的なアドバイスをいくつか紹介させていただきます。

  1. 定期的な振り返り:毎日、毎週、毎月など、定期的に自分の行動や決定を振り返る時間を設けましょう。これは「手厚く止まる」実践の第一歩です。

  2. メディテーションや瞑想:心を落ち着かせ、内なる声に耳を傾ける習慣をつけることで、適切なタイミングで「止まる」感覚が養われます。

  3. 多様な意見を聞く:周囲の人々、特に自分とは異なる視点を持つ人の意見を積極的に聞くことで、自分が気づかなかった「止まるべき時」に気づくことができます。

  4. 自然との触れ合い:山や海、森など自然の中で過ごす時間を作ることで、自然のリズムを体感し、「止まる」ことの大切さを実感できるでしょう。

  5. 長期的視点を持つ:目の前の利益や成果だけでなく、5年後、10年後の未来を想像してみましょう。そうすることで、今「止まる」ことの意味が見えてくるかもしれません。

また、「手厚く止まる」ことの利点についても触れておきたいと思います。

まず、ストレスの軽減です。常に前進し続けることは、大きな精神的プレッシャーとなります。適切に「止まる」ことで、このプレッシャーから解放され、メンタルヘルスの改善につながります。

次に、創造性の向上です。忙しく動き回っているときよりも、静かに立ち止まっているときの方が、新しいアイデアが生まれやすいものです。イノベーションは、しばしば「止まる」瞬間から生まれるのです。

さらに、関係性の強化にもつながります。「手厚く止まる」ことで、周囲の人々とより深いコミュニケーションを取る時間が生まれます。これは、チームワークの向上や、顧客との信頼関係の構築に大きく貢献します。

最後に、リスク管理の観点からも「手厚く止まる」ことは重要です。立ち止まって状況を見極めることで、潜在的なリスクを早期に発見し、対策を講じることができるのです。


参考出典

手厚く止まる
艮為山の卦は止まる時の心のあり方を説いている。止まるべき時に手厚く止まる。それは吉であるといっている。
自分の希望が叶わず、強制的に止まらなくてはならない、あるいは止められるというのは、焦燥感がある。しかし、自分の器量を知り、自ら止まるのであれば、何も制限を感じずにすむ。そういう姿勢でいれば、止まる時は自由に止まり、動くときであれば自由に動くことができるのである。

易経一日一言/竹村亞希子

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